私について
私の人生が本当の意味で始まったのは、十二歳のあの日だったんだと思う。
子供の頃からとにかく目立たない子だった。何をやっても上手くいかない、なんて極端なものじゃない。何でもそれなりにできるけど、それだけ。人目を引くようなタイプじゃなくて、何人かで遊ぶ時の『みんな』のひとり。
話す人がいなかったわけじゃないけれど、友達なんて親しい人はひとりもいなくて、かえってそれが寂しかった。だけどどこかで納得もしていた。だって私だったら、私と友達になりたいなんて思ったりしないから。
『暗い部屋』だと思った。雨も風もしのげる部屋の中にひとりでいるだけ。それはある意味当然のことだと思ったけれど、それでも、一生ずっとこんな『ちょっとつまらないだけ』の人生が続いていくのかと思うと、たまに泣きたくなったりもした。
引っ越しの話を聞いたときは、最初は不安になったけれど、よく考えれば何の不都合もないって、すぐに開き直れた。
だって、どうせこのまま地元の中学校に上がったところで友達がいるわけじゃないから。新しい場所で友達ができるかも、なんて甘いことを期待してたわけじゃない。ただ、むしろ言い訳ができると思った。新しい場所だから、知り合いがひとりもいないんだから、友達ができないのも仕方ないって。そんな風に。
だから、あの日、真維に話しかけれるなんてことは全然考えてなくて。
すごく綺麗な子が、なんで私なんかに、って。それだけ思って。何か返さなくちゃって、おろおろしてたらそれを怒るでもなく待ってくれて。
真維。私の最初の友達。
何が変わったわけじゃない。私は今まで通り、それなりになんでも上手くやっていて、けどそれに対する周りの反応が変わった。
『明るい部屋』だと思った。私自身が変わったわけじゃなくて、ただ周りが変わっただけ。頼りになるとか、しっかりしてるだとか。そんな風に言われる日が来るなんて、想像したこともなかったけれど、けどそれがいつの間にか自然になっていて。
だから、卒業が嫌。
環境次第でどうとでも変わってしまうなら、もう変わりたくない。
簡単に始まって、簡単に終わる。
真維は私にとって最初の友達で、かけがえのない人だけど、真維にとっての私は?
佐立くんが憎いと思った。ずっとずっと、初めから真維と一緒にいて。私がそこにいたかった。ずっと一緒に、当たり前みたいにいられる場所に。私が。
でもわかる。佐立くんの方が、『何でもそこそこ』の私なんかよりずっと優秀だって。真維の隣にずっといる人に、どこにも勝てる場所がなかったら、私は何なんだろう。どうすればいいんだろう。
『暗い部屋』に戻るのは嫌。私の部屋を照らしてくれたあなたを失うのが嫌。
あなたを私の部屋に閉じ込めたい。
そう思って、私は決めてしまった。
だけど、本当にそれで。
あなたは。
私は。




