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ショコラクリスタリゼ  作者: ななせりんく
第二章 龍族と人型の差
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2.ショコラ、炎龍と再会する。




 人混みを掻き分けて何度も名前を呼ぶ。もう長い時間捜しているのに、それでも白髪の子どもの姿は見当たらない。

 あんなに目立つ髪の子を見落とすはずがないし、そもそもティエラは賢い子だから、いくら楽しくても私達から離れて一人で遠くまで行ってしまうなんて考え難い。


 街を一周してダメだったら言おうと思っていたことがあった。私はエスに向かって頭を下げる。


「ごめんなさい。私が回りながら進もうなんて言ったから、こんなことに……」


 手を離せばはぐれて迷子になる。ちょっと考えれば容易に想像がつくことだった。こんな人混み、子どもならふとした拍子に飲まれて迷子になってしまう。


「別にお前のせいじゃない」


 元はと言えば、私が回ろうと言い出したからなのに。それに、夢について夢中で話してしまって、ティエラを気に掛けていなかったからなのに、どうして怒らないの?

 目の奥が熱くなってくる。会ってからずっと問題ばかり連れてくる私を見放さない。泣きそうになってしまってなかなか頭が上げられなかった。



 それから何周も色んな道から回ったけれど、それでも見つからないのはおかしい。信じたくないけれど、やっぱり、人拐いだと思う。あんなに目立つ容姿をしているのに、これだけ捜しても見つからないということは、変な人に先に見つけられていてもおかしくはない。


 どの種族が始めたのかは分からないけれど、珍しい種族や変わった色をした人型の人身売買は、最近は特に結構な頻度で行われている。

 私も昔から身に危険が迫った時、何度も相手から言われてきた。珍しい種族だから高く売れそうだ、と。ティエラの白髪は珍しい。一目で目を付けられるはず。


「あれ? お前ら」


 突然声を掛けられて、そちらの方を向くと大きな骨付き肉が目に入ってきた。両手に肉を持った人は橙色の髪に金色の目、何故ここにプロミネがいるのか。


「ショコラ、会いたかったぜ。俺の腹裂いた慰謝料はたんまり貰うからな」


 少年のような悪戯な笑みが、怖そうな見た目を一瞬だけ打ち消す。こんなに早く、街中でプロミネに再会するとは思わなかった。


「なあに? また悪徳商法で引っ掛けてきたの? はじめまして、えーっと、ショコラちゃん?」


 そう隣から声を掛けてきた妖艶な女性は、腰まである真っ赤な髪を揺らして私の前までやって来た。胸がとんでもなく大きい。失礼だけど、最初に目に入ってしまった。胸元も足も大胆に露出した背の高い女性は、私を見下ろしてにこりと笑った。


「はい。ショコラと言います。昨日プロミネに大怪我をさせてしまって、それでまだ怒ってるんだと思います。なので、その、私が悪く――」


 初対面のお姉さんには何と説明していいか分からなくて、昨日のことを色々喋っていたらいきなり抱き締められた。胸が鼻を塞いで呼吸が苦しい。


「ちょっとプロミネ、この子めちゃくちゃ可愛いじゃないの! 私この子なら嫁にしてもいいわ! 野蛮な雄よりよっぽどいいもの!」

「は? 俺が慰謝料代わりに娶るから下がりな」

「何なんだよお前ら」


 衝撃的な発言を飛び交わす赤い人達に、冷静に切り込みを入れるのはエスだ。暫く考えてみても言葉の意味が飲み込めない。二人はエスに、タダ飯祭にきただけだと説明してから肉の塊に齧りつく。


「もう一人のちっこいのは? 確かいたよな? 白い頭したのが」


 プロミネが頻りに辺りを見回していると思えば首を傾げてくるものだから、私は二人に逸れてから見つからない旨を説明する。

 話を聞きながらプロミネは訝しげに片眉を跳ね上げた。お姉さんと視線を交わらせてを肯き合う。


「おいリプカ、フェゴ呼んでこい」


 リプカと呼ばれたお姉さんは「いいわよ。任せて」と、骨付き肉を口にくわえ、身を翻すと燃え尽きるように炎となって消えた。吃驚した……炎属性って強いと空間移動であんなことが出来るの?


「あのちっこいのはお兄さんの弟か? 多分感付いてるとは思うけどな。血眼になって捜すだけのことにはなってるぜ」

「お兄さんって気持ち悪い。エストレア」

「はいはい、エストレアな。悪ぃけど国含めここ等一体は治安がそこまで良くねぇんだわ。あの森の向こう側が龍族の管外になってるからな。弱い統率者が纏まってりゃ余計無法地帯ってわけ」


 何だかよく分からないけれど、龍族が関わっていないとあまり治安が良くないみたいだ。私は何でそんな大きな種族を知らないんだろう。管外の場所だけを旅していたから? 無知過ぎる自分に落胆する。


「お前ら、炎龍族だろ」

「ああ、間違いねえ。ここらじゃ余裕で俺らが最強だ。だが、性に合わないんだよな。政治ってのが。怠くてやってられねぇからもう何代も前から退いてる」


 やっぱりプロミネ達も龍族だった。龍族って属性で種族自体が違うのかな。プロミネはエスを知らないみたいだし、エスも種族は分かってはいるけど知り合いという感じでは無さそうだ。


「治安に影響するならお前らが適当にやってる方がマシなんじゃないの」

「お説教なんて聞きたくねぇな。やる気ない奴に国民もお願いしますとは思わないだろ」


 何だかよく分からないけれど、政治の話? になっているらしい。私は難しい話はダメだけど、確かにやる気がない人には誰も任せないよね。それに、今この国を違う種族が取りまとめているのなら、その種族と争わなきゃいけないことになる。


「話戻すぜ。治安が悪いってことは察しの通りそういうことも起きるってわけだ。お前らも物凄い色してるけど一応大人だろ。白髪のはちっこかったからな。売買しようとする奴が気にするだろうな」


 プロミネが言い切る頃に二つの炎が灯る。一つはリプカさんに、もう一つはフェゴと呼ばれていた人かな。首の可動域いっぱいに見上げて、やっと顔を確認出来る程の巨躯を持つ男性になった。首から頭にかけて、炎を象った刺青が入っていてすごく厳つい。見るからに怖くて強そうだ。


「遅くなったわね。ちゃんと連れてきたわよ」

「どうも、フェゴと申します」

「あ、どっ、どうもショコラです。こっちはエストレア」


 地響きと聞き紛う程低い声のフェゴさんが、ぺこりと丁寧に頭を下げてきた。見掛けに反してあまりにも礼儀正しいから意外だ。


「お仲間を拐われたと聞きました。救出の協力をさせていただきます」

「そういうことだ。今までそれっぽいの見掛けてもめんどいから無視だったけどな。根本ぶっ潰せばこの国でそういうのは無くなる」


 プロミネはそう言って悪い顔で笑った。心強い炎龍族の三人が加わって一筋の希望が差し込む。それでもエスは難しい顔をしたままだった。どうしたのだろう。五人もいれば大丈夫だと思うんだけど。


「何で昨日敵だった奴と会ったばっかりの奴が協力してくれるのか。甚だ疑問なんだけど」


 いつの間にかプロミネとリプカさんが新しい骨付き肉を頬張って、フェゴさんは野菜たっぷりのサンドイッチを両手で行儀良く持って不思議そうにしている。


「昨日の敵は今日の友って言うだろ? 悪い話を持ち掛けてるんじゃねぇのに感じ悪ぃな」

「プロミネ、私ずっと思ってたんだけど、彼の容姿、氷龍族じゃない? 水色の髪って確か結晶龍でしょ?」


 エスは正体を知られるのが嫌なのか眉を顰めている。プロミネはぽかんとした様子で肉から口を離して驚いている。結晶龍って、こんな反応をされるものなの? そんなに珍しいの?


「確か管外の区域で捕獲令が出ています。まさかとは思っていましたが、何故あなた様がここに?」


 どんどん機嫌が悪くなっているエスにフェゴさんは丁寧な言葉遣いで話し掛ける。エスは答えづらいのか、それとも説明が面倒なのか重い口を一文字に結んだままだ。

 私が一緒に逃げようと連れ出したせいでここにいるのだと、三人に伝えると、プロミネが少し考え込むような顔をしてから口を開いた。


「氷龍族は絶滅したと思われてるからな。直接当たってねぇ人型は氷龍族をよく知らねぇし、適当に稀少ってことで高額になるだろうな」


 表情はいつも通りの平静を装っているけど、私はそんなエスの手元、拳が握り締められるのを見逃さなかった。


「ティエラは大丈夫だよ」


 何の根拠もないのに私はそう呟いていた。エスみたいに冷静にものを考えたり出来ない馬鹿な私は、考えなしにそういうことを言えてしまう。

 仲間だとしてもつい最近まで他人だった。ティエラが生まれた時からエスはお兄さんなんだから、私が思っているよりも格段に不安に違いないのに。


「あいつ、魔力は弱いけどその分馬鹿力だし、何とかなるだろうな」


 無神経なことを言って怒られるかもしれないと思ったのに、エスの返事はいつも通りだった。拳が少しゆるんでいる。さっきの呟きが現実になるように頑張って見つけないと。

 私達の様子を見守っていたプロミネ達は、骨についた肉の最後の一口を食べ終えるとゴミ箱に投げ入れる。


「ま、話もまとまったみてぇだし。お前ら、ついてこいよ」


 プロミネを筆頭に炎龍の三人がどこかに向かって走り出す。私とエスもそれに続いた。早くティエラを助けないと。




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