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ショコラクリスタリゼ  作者: ななせりんく
第五章 嘗ての爪痕と牙の味
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4.ショコラ、繋がれる。




 意識が浮上した側から、既にあちこちに痛みを感じていた。

 頭上に纏め上げられて痺れきった腕と、動かせば聞こえる金属音から、縦に繋がれているのは直ぐに理解出来た。

 足下は上質な絨毯が敷かれていて、そこに座らされているのだけが唯一の救いだ。


 やけに既視感がある部屋は牢屋じゃなくて執務室だ。

 緑の国ではユビテルとお茶をする度に訪れていたから、大きな机に重ねられた書類の山、所狭しと詰め込まれた本棚を見ると、偉い人が仕事をする場所なんだと思うようになった。


 まだあまり回らない頭で、どうして頬の辺りが痛くて血の味までするのだろうと思っていると、地味に重い一撃を傷付いた頬に喰らった。


「やっと起きたか」


 聞いたことのない低い声が耳朶をうって、大袈裟に身を震わせてしまった。

 青みの灰色の髪を後ろに撫で付けて、明るい緑の瞳に鋭い光を湛えている男性は、つまらないものを映すように私を見下ろしている。

 見た目だけならまだ二十代半ばに見えるというのに、纏う空気がそぐわない。

 その威厳のせいで身体が入れ物のようだと言えば不思議だけれど、とにかく釣り合いが取れていない。


 男性は長い溜め息を吐いてから「何度目だと思っている。手を煩わせるな」と付け足した。

 その言葉が意図する先に気付いて恐怖が這い上がってくる。

 この頬の痛みは、この人に何度も殴られていたから……?


「あの山を越えて無痕か。どうやら、脆弱な小娘を大事に扱っているという噂は真らしい」


 訳も分からない内に顎を掴まれて、指先で摘まんでいるだけなのにその力の強さに驚いた。

 人型じゃない。初めて、そんなことをはっきりと思った。

 まだ事態は飲み込めていないけれど、ここが執務室で、ここにいる人という時点で、この人が何者なのかは馬鹿な私にも分かる。


「小娘、貴様が氷龍族の生き残りの仲間だということは知っている」

「えっと、初めまして……」


 質問じゃなくて確認だったから、何を言っていいのか分からなくて挨拶をすると、硬質な無表情は面食らったように崩れた。この人には、しっかりと表情があるんだ。

 状況を見るにどうしようもない。とりあえず名乗ると、男性は更に驚いた様子を見せて、また真顔に戻った。真顔が怖い顔なのかな。


「私の名はベルク。地龍族の総括を務めている。氷龍族とは因縁の仲だ。動き出したと聞いて、ここで消しておこうかと考えている」


 私も変だったかもしれないけれど、こうも簡単に手の内を見せられると戸惑う。

 でも、エス達に害為す罠だったと分かればそれでいい。罠にかかったのが私だけで良かった。


「……だが、氷龍族が本物の『龍の女神』を連れているという情報を耳に挟んだ」


 安堵したところで崖から突き落とされた気分になる。

 絶望的な気持ちになっている私には構わず、ベルクはエス達が私を助けに来るというのなら、目標を二つ同時に遂げることが出来ると、淡々と語った。

 私は、誰の役にも立てなかったんだ。むしろ、また迷惑をかけている。


 どちらにしろ、エス達はここに来てはいけない。何とかここから一人で脱出しなければいけない。

 氷龍族を消すなんてことはさせない。私の夢はもう、いつになってもいい。大好きなエス達を守りたい。

 本当の意味で平和になったこの世界を見届けずにどこにも行けない。

 一度は沈んだ気を強く持ったところで、ベルクは「貴様、餌の役割を知っているか」と不穏な台詞を口にした。


 見知らぬ恐怖に駆られて身体が震える。

 震えから手枷を打ち鳴らす私を他所に、ベルクは龍族の習性について語り始めた。

 龍族は何故、人型でも首を噛むのか。

 その行動はドラゴンの姿だからこそ、安定の為に意味を成している行為で人型では何の意味もないと。一番現実的な理由は癖が残っているということだと。

 急に今関係のない話をされて震えは大きくなる。


「匂いを撒くのに良い方法がある。餌は無傷で置いておくより、有効に使った方が効果的だ」


 背筋が寒くなった。この人は何を言っているのか。何をするつもりなのか。

 理解出来ない振りをしてみたけれど、今から何をされるのかはもう分かっている。

 龍族には噛み癖、噛み千切ることもあるとリプカさんは言っていた。それに対して別段問うたりはしなかったけれど、人型はそれに耐えられるのだろうか。


 顔を近づけられて大袈裟なくらいに身を震わせると、ここに来て初めて嗤われた。

 薄い緑の瞳が裂けている。これは決まっていたことだと言われているようで、恐ろしく思いながらもきつく瞼を閉じた。

 私は、噛み殺されるなら、エスがいい。この方法では死にたくない。


「ん……っ!」


 容赦なく首筋に牙を立てられて、今までに感じたことのない激痛に涙が溢れる。どうしても痛みを堪える声が漏れてしまう。

 牙が抜かれた瞬間、傷口から血が勢いよく溢れ出るのを感じた。熱い。目の前が暗くなっていく。


「ショコラ、女神らしく我が地龍族を安泰に導いてみせろ。尤も、何を以て本物だと思っているのか、氷龍族の判断が正しいのかは分からんがな」


 接続不良だとばかりに狭まって、消え去りそうな視界。聴こえづらくなった耳に扉の閉まる音が届く。

 もし、目覚めることが出来たのなら、何としても逃げないと。




「ねえ、妖精さん」


 やけにはっきりと耳に届いた声のお陰で意識を取り戻した。

 まだ、死んでいない。傷を確認しようにも手は動かせないし、近くに鏡もない。身体を見下ろして、白かったブラウスが赤黒く広範囲に渡って浸されているのを見れば、結構な出血量なのが窺える。


「妖精さーん、最初に話し掛けた僕のこと忘れた?」


 そう言われてみれば、聞き覚えのある声だ。高くて、でもちゃんと男性の声で。

 薄暗かった視界が鮮明に色付いた先には、暖色に偏った灰色の髪に薄い緑色の瞳の、ベルクよりは幾らか若そうな男性がいた。

 ジト目なのに瞳が大きくて人懐っこそうな、愛らしい顔立ちの男性。でも、私をここに引きずり込んだ張本人だ。


「あ、僕はペトラね。よろしく。女神って聞いたから連れてきたんだよ? 妖精さん」

「あの、妖精さんって?」


 一見人畜無害そうな笑顔を浮かべるペトラは、私の疑問に「エルフ族って妖精なんじゃないの?」と可愛らしく首を傾げた。

 この可愛さとゆるさで主犯だという事実が調子を狂わせる。


 一体誰から私が女神だというデマを聞いたのかと問えば、「仮面被ってる如何にも怪しいやつらだよ」と返されるから、重い瞼を無理矢理持ち上げてまで目を見開いてしまった。

 あの組織は、地龍族にまで粉をかけて何をさせたいのだろう。エスが欲しいんじゃなかったの? この人達に引き渡せば、エスの命が危なくなる可能性だってあるのに。何を考えているのか全く分からない。


「ね、敵の可愛い妖精さん、ここに来るまでに偽の女神は楽しんでもらえた?」


 この人は、なんて狂気じみた笑みを浮かべるのだろう。ほの暗い光を湛えた瞳が愉快そうに歪んで、口角はいびつに引き上げられる。

 全然最初の印象と違う。人畜無害なんかじゃない。「女神なんて皮剥いで頭千切れば何なのかわからなくなるのに、皮のある女神がいるなんて」と不穏な呟きに追撃されて背筋が凍った。

 それは、ここに入る前にエスに念を押されて見なかった龍の女神のことだろうか。

 皮を剥がれて、首を千切られ、もはや元がどんな見た目だったのかも想像出来ない状態の死体を、迂闊にも思い浮かべてしまって胃液が迫り上がる。エスが見せたがらないわけだ。


「どうして、そんなひどいことが出来るの?」

「え、心が無いからじゃないのかな?」


 ペトラは目の前で心底不思議そうに首を傾げて、平和ボケしている私でも分かるように丁寧に説明を入れてくれる。

 歴史を遡れば答えは出る。感情豊かと言われている人型ですら昔の人柱の使い方は残忍だった。

 それはまだ作りが動物に近く、心が発達していないから他者の痛みが分からないということだと。だから、自分だけが犠牲になりたくないから凄惨な殺しが出来るのだと。


「僕達、地龍族にもそんなもの分からないもんね。ところで、妖精さんは直系と傍系って分かる? 僕達地龍族は傍系、氷龍族は直系なんだけど」


 いきなり何の話に切り替えられたのか。地龍族が傍系、氷龍族が直系。そんな言い方をされると、まるで祖先がすごく近いみたいだ。


「妖精さん馬鹿そうだから分からないか。まあそのうち知るんじゃない? 氷龍族の方が心無いから、僕達が今まで怒りを抱えてきたってことに」


 氷龍族の八割はどれだけ心が無いか分からない、と言っていたプロミネの言葉はその答えに繋がっているのだろうか。


「妖精さんがエストレアに何を期待してるのか知らないけど、そこに愛なんてものはないよ」


 煽られているのは分かっているけれど、この人は私からどんな反応を引き出したいのだろう。何か、私に聞きたいことがあって誘導しているような気がしてならない。

 だけど、そこにある狂気の笑みに巧妙に隠されていて読めない。


 エスが私に対してしてくれる行動に愛があるとかないとかはどうでもいいことだ。あの人は優しいから、そんな感情に関係なく良くしてくれているだけだから。

 でも、愛を持たない人に子育てができるとは思えない。それだけは言い返すと、ペトラは興味深そうに瞳を瞬かせた。

 かと思えば飽きたとでも言うように、血に濡れた私の髪で遊び始める。……掴めない人だ。


「そうだ。聞きたい話はベルク様にしてもらうといいよ。僕は食事の用意でもするから」


 ペトラはまた愛らしく笑って、手を振りながら出ていってしまった。

 血を失い過ぎたせいか、一人になった瞬間に急激な疲労に襲われて瞼を下ろした。もう頑張って持ち上げる力すら残っていない。

 なんて無力なんだろう。囚われの身になってしまえば、こんなにも自分では何も出来ない。


 プロミネとリプカさんは地龍族を潰しに来て、エスとティエラはそれに巻き込まれる形になっている。地龍族に捕まっているのだから、ここは彼らのお城の中というのが妥当だ。

 これでは四人がここに来てしまうのも時間の問題なのに、何か探れないかと思っても予想していたよりも早く精神力が削られていく。

 もっと頑張らないと。少しでも役立つ情報を手に入れて、何とか脱出しないと。

 そう気持ちを固めている最中にも抗えない眠気が訪れる。



 再び意識が戻り始めた時にはスープの匂いが鼻孔を擽った。瞼が重い。温かい何かを唇に押し付けられているけれど、口を開く気にもならない。


「ほら、ご飯だよ。妖精さん」


 ペトラの声だ。近くにいるはずなのに、遠くに聞こえる。


「妖精さーん、口開けてってば。それとも、口移しで食べさせてほしいの?」


 無意識に拒否反応が出て目を開いた。口の中に何かが押し込まれる。……中が切れているせいですごくしみる。

 野菜だ。何だか、あまり味がない。何か大事なものが足りていない。冷静に味を分析している場合ではないけれど。


「美味しい? ……わけないか。ちゃんと育ってないもんね。はい、あーん」


 眉を下げてそう言いながら、半ば強引に口に突っ込んでくるペトラ。スープの中には色の悪い野菜達が入っていた。山を越える前に見た萎びた草花を思い出す。

 地龍族は何の属性を持っているのだろう。地というくらいだから地属性だろうか。なら、この土地の現状をどう思っているのか。


「あれ、素直に口を開くんだ。雛鳥みたいだね」


 ほんの少しだけ穏やかな顔つきになったペトラに何故私を連れてきたのかと聞くと、たまには迷信も信じてみたかったのだと悲し気な表情をした。

 地龍族は、本物の女神がいてほしいと願う程の事態に陥っているのだろうか。


 本来であれば、ただの生贄計画だということは分かっていると。正しいことがいつも正しいわけではないから最悪な連鎖は起きるのだと。ペトラは淡々と話しながら口に食事を運んでくる。

 野菜だけでなく穀類も水気の少ない食感だった。これは、土地の状態が悪いからだろうか。


 すぐに絆されるなんて馬鹿丸出しだけど、果たして彼らは本当に残酷の一言で終わっていいのか、落ち着いて話を聞いていると分からなくなってきた。

 ペトラ自体、狂気を秘めていたり、至極穏やかだったり、人格がブレるというか、一定性がなくてよく分からない。

 パンが口に入れられる。ちゃんと一口の大きさに千切られて、固くて味のないパンが押し込まれていく。


「もっと、美味しいものが作れていたんでしょ……?」


 そんな気がするからと口にすると、ペトラは目を見開いた。明るい緑色の中に、ひどい顔をした自分の顔が映る。


「……本当に女神っぽいな。妖精さん」


 質問の答えは返ってこなかった。

 それから、食べていく程にみるみる元気になっていく自分の身体の正直さには苦笑いした。




 ここに来てからどれだけの時間が経っているのだろう。

 窓も無ければ時計も無い。極度の貧血で何度か意識を飛ばしたせいで余計に分からなくなっていた。

 ペトラと入れ違いにやって来たベルクはひたすら書類に向かっている。他に何も出来ないからとそれを眺めているとたまに凄まれるけれど、その視線にも徐々に慣れてきていた。


 あれだけ痛い目に遭わされたというのに、私の中に備わる恐怖心が狂い始めているのか。もう大して怖いとも思わない。それを口にすると、案の定ベルクは片眉を跳ね上げた。

 ベルクは作業を止めて私の目の前まで来ると、跪くようにして腰を落とす。


「とち狂ったか? 龍族を長らく相手にしておいて平静でいられる小娘が、今更この程度で狂うとは考え難いが、私の見誤りか」


 やっぱり、見た目と言葉遣いや仕草が合わない。

 外見だけで年齢を計るなら、そんなに離れているわけでもなさそうなのに、この人は私を小娘と呼ぶ。思いきって年齢を聞いてみれば、あっさりと「百五十になるが」と返ってきた。

 驚いてまじまじとベルクの顔を見る。肌理細やかな肌には皺なんて一つもない。目元に多少の貫禄はあるけれど、どう見ても二十代半ばに見える。

 だとしたら漂う威厳に説明がつかないから、もう少し年を重ねているのだろうと思っていたけれど、予想よりも遙かに年上だった。


「貴様は私の年齢を聞いて何か気付かないのか? 全く頭の悪い小娘だな」


 ああ、この目つきには覚えがある。残念なものを見る目だ。エスがよく私の行動を見守りながらしているものと同じだ。

 頭の出来が悪いのは事実だし、普段からきつめの物言いには慣れているからここで落ち込んだりはしない。けれど、年齢については見た目以外に少しも不思議に思わなかったのだから抜けすぎだ。


「他に、私程年を取った龍が他にいたか?」


 百五十歳。そう言われてみれば、見た目よりも年齢を重ねている龍族に会ったのはベルクが初めてだ。

 一度皆にも年齢を聞いたことがあった。エス達は皆二十代前半から半ばで、ティエラに至っては九歳だった。長寿な種族なら、もっと歳を重ねた龍がたくさんいてもおかしくはないのに。

 いなかったと首を振れば、ベルクは「そうだろうな」と静かに息を吐く。


「私が現在、龍族で最年長に当たるはずだ」


 長寿な種族は必ず魔力を持っていて治癒魔法が扱えるから、少しの怪我や病程度なら直せてしまう。誰かに殺されたりしなければ、寿命を全うしない限りは死なないようになっている。

 皆、死んでしまったんだ。その答えに辿りついた時、ベルクは灰色の睫毛を伏せていた。明るい緑の瞳が翳っている。


 私の前で座り直したベルクは、ちょうど聞きたいと思っていた戦争について話し始めた。

 先の戦争は氷龍族が世界統一の為に始め、数十年の長きに渡り争い続けた結果、氷龍族の全滅と共に終息を迎えたはずだった。

 それなのに、現実は争いが終わっても何も終わっていないのだと。


 話している最中のベルクは何処か遠くを見つめているようだった。

 何が終わっていないのかは濁されてしまったけれど、国の現状を見ても、ここで出会った二人の話を聞いていても、彼らがこれでいいと放置しているようには見えなかった。

 どうにかしたいのに、どうにもできない何かがあるのだろう。それが弱点であるなら、早く分かればいいのに、今のところ、何も分からないままだ。


 エルフ族の虐殺は地龍族にまで伝わっている話だったらしい。

 それが起きた時期に鑑みて、戦争が発端になっているのではないか、とエスと同じことを考えているベルクは私がエスと共に行動しているのが不思議でならないようだ。

 どうしても、私はエスが過去に戦争を引き起こした氷龍族と同じだとは思えなかった。あれだけ自分に流れる血を嫌い、絶えることすら望んでいる人が争いを望むはずがない。


 それを必死でベルクに話せば、「人型らしく、実に愚かで、どこまでも甘い考え方をする」と鼻で笑われてしまった。

 その種族そのものが悪だというには範囲が広すぎる。一人一人に個性があって考え方も異なるのに、何故その種族だからと糾弾されなければいけないのか。

 だから私はエスに感情をあげたい。エスに生きていてほしい。自分をその血のせいで嫌わないでほしい。


 何も私は全てを救おうなんて綺麗すぎる馬鹿なことは考えていない。

 こうして話してもベルクには伝わらないのかもしれないけれど、私の口は止まらなかった。

 それを静かに聞いていてくれる姿を見ていても、もしかしたら争う以外に解決方法があったのではないかと思えてならない。「生き残りが悪でなくても、我らにとってはまだ悪だ」と「頭を取ったのは私だ。ここで子孫も絶やしておかなければ示しがつかん」と、軍人らしい返事が来るたびに、ペトラが言っていた正しいことがいつも正しいわけではないという言葉を間近に感じた。

 示し、というのは死んでしまったお仲間に、だろうか。相手に残酷でいて、仲間に対して律儀で情け深い言葉に聞こえた。


 当時の全貌が見えたわけではないけれど、地龍族の考え方は分かった。これだけ教えてもらえば充分だ。少しくらいなら力も入る。もう一度一人になる機会がきた時に脱走しよう。

 ただ、この土地のことが気掛かりだ。プロミネ達に協力して地龍族を潰してしまえば、国民は更に困ることになる。


「ごめんなさい、私も仲間を殺させません」


 ベルクの言い分は分かったけれど、エス達は私の大事な仲間だ。仲間の為にというのなら、私にも同じく守る理由がある。


「それから。出来ることなら、この国も見捨てたくないです」

「……とんだ女神だな。貴様は」


 目を瞬かせたベルクが、ほんの少しだけ笑みを見せた。「勝手にすればいい」とどこか満足げに机に戻っていく姿が、最初に私を受け入れてくれたエスの姿と重なった。




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