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ショコラクリスタリゼ  作者: ななせりんく
第四章 龍族の発情期と感情
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4.ショコラ、割合を知る。





 ここに滞在して三日、何故か私たちはずっと例の複合型遊具で遊んでいた。

 他の旅人もたくさん居てちょっと怖いけれど、緑の国の管理下にあるからか国の中同様にそこまでガラの悪い人はいなくて安心だ。むしろ、プロミネが一番ガラが悪い。


 楽しそうに遊んでいるけれど、女性達だけでなく男性にも怖がられている。時々短い悲鳴が聞こえたりもする。

 プロミネもフルミネと同じで見た目だけなのにな。急に意気揚々と請求書を作り始めては悪い笑みを浮かべていたり、リプカさんと派手に喧嘩を始めたりする時は、見慣れている私でも怖いと思うけれど基本的には良い人だと思う。

 

 遊びながら、何か良くない噂や新しい情報はないかと聞き耳を立てたりはしているけれど、特にこれといった情報はない。

 皆と違って運動神経もあまりいい方じゃない私は、これ以上みっともないことにならないように今日も早々に遊ぶのをやめた。


 ティエラは今何で遊んでいるだろうか。

 そう思って探そうとする前に女の子達の黄色い声が耳に届く。この二日で学習したのは、探さずともこの声の先にティエラがいることだ。

 人型の身体能力を凌駕しているティエラはとてもよく目立つ。運動神経が良いとかそういう言葉では済ませられない。今も綺麗に着地した瞬間、ふわりとシャツが捲れて白い腰が見えた。

 何てことだ。ティエラは女の子を喜ばせる為に生まれてきたのかな。とんでもないものを見せられてしまった。思わず手で顔を覆ったけれど、もう遅いし、この歳でこの反応はさすがに幼稚かもしれない。


 コテージに戻るにしても声を掛けておきたい。でも、ティエラはたくさんの女の子に囲まれているから、どう割って行けば女の子達の反感を買わずに済むか分からない。炎龍の二人はまたどこかに行ってしまったし。どうしよう、困ってしまった。

 どうにも出来なくてその場で立ち止まっていると、後ろから肩を叩かれた。振り返ると旅人の男性達が笑顔で、「君一人?」と確認を取ってくる。


「あ、あの、一人じゃないんですけど、今は一人で……」


 これはあれだろうか。一人のところを囲んで、気が済むまで罵声を浴びせるつもりだろうか。

 びくびくしながら男性達の顔を見ていると、「そんなに怯えないで」なんて言うけれど、怯えずにいられるはずがない。


「一人なら俺達とどれかやりましょうよ! お仲間とは後で合流して!」

「え、えっと……」


 あれ? ただのお誘い? わざわざ誘ってくれるなんて、とても親切な人達だ。

 だけど、ティエラに何も告げずに置いていくわけにも行かないし。返事を渋っていると、男性達は腕を揉むようにして掴んできたり、腰を撫でながら腕を回してきたり、何なのだろう、何だか、気持ち悪い……。


「ねえ、僕のものに何してるの?」


 危機を感じて変な汗が止まらなくなりそうだった時、後ろから強く肩を掴まれた。見上げた先では、恐ろしい程に真顔のティエラが男性達を見据えていた。


「気安く触んないでくれる? 目障りなんだけど。早く散れよ」


 まるでそのままエスを移したような。でも、エスよりも数段冷たい物言い。男性達は言葉を濁しながら去っていった。怒ってる大きなティエラ、ちょっと怖い。


「一人にしてごめんね。怖い思いさせちゃ意味ないのに」


 今はティエラが一番怖い。だけど、旅人の男性達は気持ち悪かったし、あのままティエラが来てくれなかったら何処に連れて行かれたんだろう。背筋が冷える。最初は優しそうだったのに。


 前にも同じ気持ち悪さを感じたことがある。

 まだエスに再会したばかりの頃、ティエラを逃がそうとして変なことをされそうになった。何をされるかも分からないのに、本能的に嫌だと思うようなことを。恐怖が蘇ってきて肌寒さが増した気がする。


 固まったままでいると、ティエラが男性達に触られた場所を拭い去るように丁寧に触れていく。こんな風に、ティエラやエスならそんなことは思わない。

 男性には種類があるのかな。気持ち悪い人と気持ち悪くない人。思わずそれを口に出したらティエラは噴き出した。「僕やにーちゃんは大丈夫なんだね」と楽しげに笑っているけれど、この間からティエラは何がそんなに嬉しいのだろう。


 ティエラに促されて近くのベンチに座った。

 改めてアスレチックを眺めると、自然に包まれていて不思議なものを見ている気分になる。山自体は禿げ山も同然なのに、ここだけは木々が生い茂っていて、管理が行き届いている。こことコテージ周辺、それ以外が次の国の領地なら、次の国があまり栄えていなくて平和的ではないのが分かる。地龍族、どんな人達なんだろう。


「さてと、ショコラに僕の三割っていう低すぎる魔力の割合について話しておこうかな」


 いきなりだった。そんな奥まった話をしてもらっていいのかと思いながら、ティエラの方に身体を向けるように座り直した。


 龍族では、龍がたったの三割であることがまず有り得ないくらいに弱くて、歴代遡ってみてもティエラ以外に存在しないらしい。

 その代わり、ティエラは人型時の身体能力が優れていて、怪力とも言える力をその身に宿しているのだそうだ。その強さは人一人殴り殺すのに、たった一度拳を振るえばいいくらいなのだと。

 話してくれているティエラには申し訳ないけれど、ぞっとしてしまった。


「だから僕は人型なら龍族で最強だよ。大体の龍族は六割以上で生まれる。八割以上から少なくなるんだ」


 だとすると、エスやユビテルは龍族で相当強いということになる。

 エス達を連れ出してから、私は凄い人達に会いすぎている気がする。ユビテルなんて大国の王様だもんね。本当なら私みたいなただの人型が、気軽にお茶をしていいような相手じゃない。


「三割なんて並みから外れた僕は、本来邪魔で殺されるべき存在なんだよ」

「邪魔? どうして?」

「その代わりに何かを得ているとしたら、それが脅威になる可能性がある。そう考えると必然的に邪魔に思う人達は出てくるよね」


 心臓から送り出される血液が急激に冷えてしまった気分になる。

 まるで、それはティエラだけじゃなくて、自分にも当てはまっている話みたいで。生まれてしまっただけで邪魔になるなんてあんまりだ。


「私はティエラが大事だよ。だから、ティエラに出会えてよかった。生きていてくれて良かった」


 この兄弟はこんな部分で似ているなんて、そんな生きるのを最初から諦めているような顔なんてしないでほしい。二人が本来どうあるべきかなんて他人の勝手な意見は知らない。私にとっては二人とも大事な仲間なんだから。


「……本当に、ショコラで良かった」


 優しく目を細めて微笑む顔が一度だけ見たエスの笑顔によく似ていた。こんな優しい顔で笑える人が死ぬべきであるはずがない。

 笑顔に吸い寄せられるように、その頬に触れようとした瞬間にティエラに抱き締められた。抱え込むようにされてちょっと苦しいけれど、そんなことより恥ずかしくて顔が熱くなる。


 離れた場所から女の子達の悲鳴が聞こえてくるような気がするし、私の心臓も大変なことになっているし、だけどこの腕からは逃れられない。

 自分より遥かに小さな男の子を意識してしまうなんてどうかしている。




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