4.ショコラ、連携する。
大きな国だと宿も部屋も選び放題で、久しぶりに一人で夜を過ごす。
シャワーを浴びると一日の全てが浄化されるように思うから偉大だ。浄化魔法が使えても出来るだけ毎日入りたい。
夜に部屋が明るいのも、いつでもご飯が温かくて美味しいのも、ほとんどは魔力無しの種族の方達が文明を築いてきたからだ。頭が良い人は魔力なんて無くても世の中を便利にしていく。
私みたいに特殊な見た目を省けば、能力的には平凡以下の生き物もいるというのに不公平だと思う。せめてもう少し強ければ、二人の役に立てるのに。
誰も、特にエスが見ていないからと寝台に飛び込んで、枕を抱き込めば心地良い眠気が襲ってくる。今日も柔らかい寝台で疲れを取れるこの安心感。安い宿でもそれなりにふかふかだ。
このまま身を預けて寝てしまいたいけれど、ちゃんと髪をまとめてからにしないと朝爆発して大変なことになる。
仕方なく起き上がって髪をとかしながら窓の外を見ていると、暗闇の中で金糸の髪が煌めいたように見えた。
慌てて昼間にユビテルとモルニィヤから貰った姿絵を見返す。あの特徴的な左右非対称な髪型、同じだったと思う。
もしかしたら、金髪なんていくらでもいるのかもしれないけど、今日城下町を回っていた分ではあの二人しか見掛けなかったし、あの輝きはどうも一般的な金髪とは違う。
追い掛けるべきか、今日のところは見逃しておくべきか。本当なら見逃しておくべきなんだと思う。捕まえた後、どうすればいいか分からないし。
やめた方がいい。後々二人に迷惑が掛かる。そう頭の中で制止の声が響いているのに、気が付けば双剣を引っ掴んで窓から飛び降りていた。
金髪の男性が去っていった方向に向かって全速力で走る。よくよく自分の格好を思い返せば、寝る前だったのだから馬鹿みたいに軽装だ。本当に何をしているんだろう、私は。
後で絶対エスに怒られる。今日だけで何回エスを怒らせるつもりなんだろうか。
途中の角で煌めきを見つけて足を留める。剣の柄を握り締めながら、それが見えた路地に入ろうとした瞬間、全身に電流が駆け巡った。
罠だ。瞬間的な痛みが凄まじく、私はまともに悲鳴も上げられずに地面に倒れ込む。
「さっきから何つけてやがんだよ」
頭上から響く低い声。その先を見上げようするとまた電流が走り抜けた。
何度も走る痛みに耐えながら男性の顔を見る。鋭い目付きに冷たい青の瞳、右側の髪を編み込んだ左右非対称の髪型、そんな如何にも族っぽい容貌の中で、光を紡いだような神々しい金髪が浮いている。姿絵の男性と同じだ。
「こんな軽装に剣だけか。如何にも馬鹿そうな奴」
首を掴まれて無理矢理に持ち上げられ、再び激しい痛みに襲われる。う、とか、あ、とか、苦しさに漏れる声しか出せない。強い力を込められて首がどんどん絞まっていく。
「面に見覚えねーな。依頼でも受けてんのか? 何処を経由して来てんだ?」
「言えない……」
「じゃあここで死んどくか。割と上玉だからもったいねー」
こんなところで殺されるなんて冗談じゃない。段々と霞む視界、このまま落とされてしまうわけにはいかない。適当に風属性魔法を纏って男性を吹き飛ばし、空になった肺に酸素を取り込んで咳き込んだ。
いつの間にか身体に走っていた電流が無くなっていた。まだ勝機は残っている。
「っ……風属性か、やってくれるじゃねーか」
舌打ちをして睨み据えてくる男性。軽くキレているのか、さっきよりも眼光が鋭くてきつい。顔からして怖いけれど、こうなってしまったら何とか捕まえるしかない。
覚悟を決めて剣を抜こうとすると、男性はばつが悪そうにがしがしと頭を掻いた。
「あー悪いけど、装備完璧じゃねーし、眠ぃ……ま、明日付き合ってやるからさっさと帰れよ」
「えっ……!」
眠ぃって……。引き留めようにも、男性は雷となって暗い空に吸い込まれるように消え去ってしまった。
……私、本当に何をやっているんだろう。
結果的にもやっぱりやめた方がいいという理性からの警告が正しくて、顔も覚えられてしまっただろうし、私が疲れただけ。
力が抜けてその場にしゃがみ込む。馬鹿って直らないのかな。死んでも直らないって聞いたことがある。だったら、私はこの先もずっと二人に迷惑を掛け続けるのだろうか。
落胆して俯いていると、後ろから足音が近付いてきた。
「っ、お前……足、速すぎ」
「それくらいしか取り柄がない……え?」
反射的に言葉に出して振り返り、見上げた先にはエスの姿があった。走ってきたのか肩で息をしている。
ああそっか、窓から派手に飛び降りたから、その時の音で気が付いたのかもしれない。最初から全力疾走だったから、例え私より頭一個分背の高いエスでも、私の後ろ姿に気付いた時点では追い付けない。そのくらい足だけは速い。
「いい加減にしろよ」
息が整ってきたエスが私の腕を引っ張って立たせる。
そうだよね。まず怒るよね。再会してから今まで見事に足を引っ張ってばっかり。そもそも、昼間に私が一人で前を歩かずに二人と一緒に歩いていたら、この仕事を受けることにもならなかったんだから。
「何度もごめんなさい」
「出ていく時は声掛けろって……一人で勝手に走り出すな。周りを見ろ。何の為に一緒に行動してるんだよ」
…………。あれ、怒られるのそっちか。
てっきり迷惑を掛けたことを重ねて怒られているものだと思っていた。仲間だと言っておきながら、二人に頼らないのはいつも私だ。一人になりたいような行動をしてるのは私の方だ。
どこにもほつれのない綺麗な可愛い服を買ってもらっている場合じゃない。良い装備にしたり、髪飾りを着けている場合じゃない。先にもっと大事にしなきゃいけないものがあるのに、何をやっているんだろう。
悄気ているとエスは苛立たしげな溜め息を吐いた。鋭い視線が首に集中している。
私の首がどうかしたんだろうか? 小首を傾げた瞬間、エスは首に触れてくる。擽ったくて思わず後退すると、次にはしっかりと掴まれてしまう。
何だか怖くて逃れようとしていると、もう片方の手に頬を撫でられて動くのをやめた。掴んでいるこの手は怒っていると感じ取れるのに、撫でてくるその手は優しい。
対照的なそれが人ならざる不思議さを醸し出していた。
「じっとしてろ。首に痣が出来てる」
「ごめんなさ――」
急に首を掴む手に力が込められて、言葉が継げなくなる。「いっそ付け直す方が……」と呟かれた声色が暗い。痣って、さっきの金髪の男性に掴まれていた時のものだろうか。
意識が朦朧としてくる。ゆっくりと締め上げられて、綺麗に気道が塞がっていく。苦しい。また人とは違う別の怒りを感じる。微かに漏れる息に混ぜて、何とか声を絞り出す。
「は……エ、ス……っ」
意識が遠退きそうになった時、エスが驚いたように目を見開いて、首を掴んでいた手を離した。
さすがに連続で二回の首絞めはさすがにしんどい。酸素が回らない。力が入らなくてエスに凭れかかる。どうして首を絞めたのか。殺されなくて良かった。苦しかったけれど、不思議と死にそうになる時に怖さがなかった。
エス、怒っているのにやっぱり何だか変だ。
「ショコラ」
「っ、エスの、痕付いてる?」
珍しく動揺して息を詰めるエスに、息を整えながら首を見せる。今の怒り方は人型離れしていたから、また龍の縄張り意識みたいなものなのかな。
「まず、自分を殺しかけたやつに怒れよ」
「殺させないから。二人をちゃんと逃がすから大丈夫」
普通や常識が残念な程備わっていない私にも、さすがに常識はずれな真似をされたのは分かっている。
だけど、私も龍族をよく知らない。してはいけないことなんて、種族が違えば幾らでもあるはずだ。私がそれに触れたのかもしれない。
それに、エスにした殺させない約束。それがあるからにはその対象が自分であっても大丈夫。
「……最悪の場合、今みたいなことが増えるかもしれない」
「殺しかけることが、増えるって……」
「増える前に何とかする。けど、俺に近付く時はいつでも攻撃出来るようにして」
エスに攻撃をしなければならない。それはすごく嫌だ。殺しかけることが増えるというのはどういうことだろう。ティエラなら上手く人型らしい表現に変換出来るのかもしれない。
一体どういう意味になるのかと大して回らない頭で考えていたら、エスに首を優しく撫でられた。残っていた痛みが消えていく。
「悪かった」
そうやって謝るエスが、困ったような何とも言えない複雑な表情をしていた。
分かりたいのに全然分からない。私にエスを理解出来るようになる日は来るのだろうか。
寝覚めはあまり良くなかった。
私を殺しかける回数が増えるかもしれないって、確かに、私の首を締めていた時のエスの瞳は底冷えするような暗さを湛えていた。それでいて、中で燻っているような熱さも垣間見えた。
ティエラの言う通り、エスが龍であることを意識して見ているけれど、エスの中で何かしらの変化が起こっているのか。凶暴になる時期、とか? エスからはそういう話はあまりされないから想像することしか出来ない。
今日は朝から金髪の男性を捜しだして狩らなければいけない。
昨日の夜、接触して分かったのは相手は雷属性魔法を使うということだけ。それも、罠を張れる程戦い慣れている。あれを喰らってしまうと暫くは動けないから気を付けないと。
装備を確認して鏡を見る。モルニィヤに買ってもらったピンクの花の髪飾りを付けて、片側の髪を耳の後ろにやる。たったこれだけでも見た目に変化は付けられるのだと、女に生まれたというのに知らないで過ごしていた。
色々欠けているどころか、ほとんど白紙の状態に思える。今まで何も知らなかったから、今から頑張って知って覚えていこう。
朝食を摂ってから私達は行動に移した。この国は龍族が多いと聞いていたから、金髪の男性は雷龍族の可能性が高い。
出来る限り目立たないように移動しているみたいだから、私と二人で分かれて路地を回る。経路を予め練っておいて、何度か合流出来るように組んだ。これで合流地点にいなければ、任せている経路に踏み込んで応戦しに行くことが出来る。
今回は『仕返し』と称してティエラが罠を張ってくれるみたい。魔力の弱いティエラでも出来る攻撃だ。仕事に参加出来ることがとても嬉しそうだった。
付き合ってやる、って言っていた言葉を信じるとするなら、その内遭遇出来るはずだけど……この路地にもいない。一つ一つ道を潰していきながら、後ろや上にも警戒する。
「俺のこと捜してんの? 約束通り、出向いてやったぜ」
横から当然のように現れた金髪の男性。いつの間に現れたのか。急いで距離を取った。いきなりの攻撃は無かったけれど、昨日の夜と違って剣の柄に手を掛けている。
「昨日は適当な散歩のつもりだったから、何なんだと思ったけどさ。今日ならもうばっちり相手してやるよ」
緩慢な動きで抜刀する姿に見とれてしまいそうになった。
鞘から抜かれていく刀身に纏わりつく青白い電流、抜き払われた時に目を潰されてしまうかと思った。雷が茨のように絡み付いた刃を見て、記憶の中から情報を探り出す。
――魔法剣だ。
構えからして相当慣れている。というか、昨日は暗くてあまり確認していなかったけれど、男性が着ているのは騎士服だ。
雰囲気から手練れであるのは予想していた。でも、騎士なんて……相手に出来るわけがない。それに、魔法剣には同じ魔法剣でいかないとこちらの刃が耐えきれずに折れてしまう。
悪足掻きにしかならないけれど、男性に倣って双剣に冷気を纏わせる。後から援護に来てくれる二人の妨げにならないように、細やかにも二人の威力を上げられるように。
「へー、珍しいな。複数属性いける感じかよ。昨日は風だったろ。仮に他の属性もいけるとすれば、何で俺の弱点の属性にしねーの? ……仲間が氷属性とか?」
誘導尋問というか、言ってくることが全部当たっていて恐ろしい。下手に口を開けないけれど、戦わないことには話にならない。速さだけならきっとこの場で役に立つ。
私は大きく深呼吸をしてから地面を蹴った。
「っとぉ……! 能無しだが、正面から来る度胸は認めてやるぜ!」
当たり前に受け止められた。それも片手持ちで軽々と。
剣を扱う人とまともに戦うこと自体が初めてだから、何を言っても大袈裟になってしまうかもしれないけれど、初めてがこの人はまずかったかもしれない。
力の差が有りすぎて、まともな鍔迫り合いにもならない。弾き飛ばされた先で構えを整える。
「んじゃ、その度胸を見込んで一応名乗ってやる。フルミネだ。しっかり覚えておけよ、っと!」
「う、ぐ……っ」
一度大きく振り払われるだけでかなり飛ばされてしまう。体勢を立て直すだけでやっとだ。
体格差と実力差、どちらも開きすぎていて勝てる見込みは全く無い。
「ぶっ倒す前にお前の名前も聞いといてやろうか?」
「まだ終わってない!」
真っ直ぐに走っていくと、フルミネは呆れた顔をして待ってくれている。正面からと見せ掛けて、早めにしゃがみ込んで足を斬りつける。
咄嗟に避けられてしまって、魔法だけが掠める形になってしまったけれどそれだけでも充分だ。
フルミネは遊んでくれている。本気を出すと私なんか一瞬で殺せてしまうはずだ。それでも、自分の足下を見て私は安堵した。
私は、――私達は絶対に勝てる。
「は!? な、んだこれ……!」
私が当てた冷気と地を一気に埋め尽くした霜がフルミネの足場を一瞬にして固める。
霜はみるみる内に足を伝って這い上がり、フルミネの腰にまで上り詰めた。それを追うように固く結晶化していく。ティエラが地面に敷いた罠に、エスが魔法を上乗せして固めていっているようだ。
「ショコラ、遅くなってごめんね!」
「何ヵ所か粉砕しといてもいいか。傷、付けてもいいって言ってたしな」
粉砕とは不穏な。そこまではしなくても、と口にしようとした時には、エスはフルミネを胸元まで氷で覆い固めながらも次々に結晶を破壊していった。
両足と剣を持つ手を集中的に、何度も何度も細かく砕いていき、割れた氷の棘を差し込んでいく。
「ぐ……っ、マジかよ。残虐性高いな……お前の仲間……っ」
透明な氷の上に次々と血が流れていくのを見て、まだ続けようとしているエスを止めに走る。
「もういいよ。エス、やめて!」
「もっと痛め付けてもいいんじゃないの。お前、昨日結構やられてるんだから。お返し」
「このお仕事はあの人を連れていくだけでいいんだよ。だから、もういい」
魔法を練り続ける手を握ると、エスは不機嫌そうにしながらもやめてくれた。崩れ落ちる音と共に、フルミネを捕らえていた氷が砕けて地面に滑り転がっていく。
治癒魔法がまだ間に合わないのか、フルミネは苦し気に息を吐いてその場に膝を着いた。
「あなたを捕まえてきてほしいと言われてるから、このままついて来て」
「はあ……なんか昼間っから子ども騙しにやられた。最後のはさすがに焦ったぜ。そこのあんた、あのまま俺のこと殺せただろ」
フルミネの元に走り寄って手を伸ばすと、観念したように掴んでくれた。ずっと遊びに付き合ってくれているように見えていたけど、最後の辺りは本当に焦ったのかもしれない。
エスがかなり冷たい目をしていたから。
待ち合わせ場所にフルミネを連れてきた時、何処からか見ていたのか、ユビテルとモルニィヤは直ぐ様フルミネを引き取りにやってきた。
二人の姿を見てげんなりとしているフルミネと、今日も変わらず神々しい兄妹を並べてみると、何となく察しがつく。それと同時に、初日からとんでもない方々について行ってしまったのではないかと、今更ながら気が付いてしまって冷や汗が流れた。
丁寧な御礼に次いで、フルミネの立場がユビテルの護衛である事実が告げられる。「フラフラしてるのであんまり居る意味ないんですけどね」とユビテルはニコニコゆるゆると続けているけれど、ただの個人が護衛をつけるだなんて聞いたことがない。やっぱり、そういうことだ。
外套で覆い隠しているにも関わらず、流れるような優美な所作から溢れ出る気品。神々しい金糸の髪によく似合う穏やかな笑みを浮かべるこの兄妹は。
隣に佇むモルニィヤが「早くクビにして差し上げたら宜しいのに」、と鈴を振るような声で兄に進言している。それに対し「これでも使える場面はあるんだよ」とおっとりした笑顔で返すユビテル。
予感を確信に近付けている間にも、あはは、うふふ、と何処かしらに毒を含めたやり取りを繰り広げ、兄妹の嬉しそうな笑い声は続いている。
大人しく後ろで控えているフルミネは、兄妹とは対照的に顔を引きつらせているけれど。
「えっと、ユビテルとモルニィヤはもしかして、王族、でしょうか……?」
思いきって切り出せば、兄妹は穏やかに笑みを浮かべて首肯する。それも、国王と王女であると。
整理が追い付かない。王族と言っても若く見えるから、まさかユビテルが国王様だとは思わなかった。そして、妹であるモルニィヤが王女様、フルミネがその護衛ということで、全員が雷龍族ということでいいのだろうか。
それよりも、国王様ってこんなに簡単に軽く話せてしまっていいのか。不敬にならないのか。
昨日は不審な男性だとか思ってしまったり、色々買ってもらったり、とんでもないことをさせてしまった……。
「雷龍族。王族に連なる血筋は全員金糸の髪だった」
「だよね。いきなり三連続で金糸の髪ばかり出てくるから、ショコラは龍族に縁があるんだなーって」
「二人は最初から分かってたの?」
当然、という視線を二人から送られる。私、やっぱり鈍いんだ。
でも、行く先々で知り合う人達の皆が龍族、しかも王族ばかりだとはさすがに思わない。教えてもらっていたらそれはそれで恐縮してしまって、フルミネに対して強気には出られなかっただろうけど。
「そちらは氷龍族でしょう? お仲間は水色髪、と聞いて驚きましたよ」
「はあ、やっぱりそうかよ。強ぇのなんのって」
昨日、エスとティエラの詳細を伝えた時、すこぐ驚いているように見えたのはそういうことか。
炎龍族の皆とは少しだけ反応が違う。生き残りがいるか、絶滅しているか、で二分していたらしい炎龍族とは違い、まるで氷龍族が生き残っているのを知っていたような。
「ところでショコラ、これからどちらへ向かわれる予定なんです?」
「えっと、この国を回ってみたいな、と思ってたところで特には……」
口にしてみて何の計画もないことに気付く。行き当たりばったりだ。二人もよくこんな計画性も何もない私について来てくれるものだ。
「ではその間の宿を見繕いましょうか! 何ならうちにします? 仲間とはぐれた同盟ですからねー」
「えっ、それは、ちょっと」
笑顔で私の手を取り、まだ頷いてもいないのに、部屋をどの辺りにする、だとか、今晩の献立の変更を、だとか、噂に聞く友達同士のお泊まり会ぐらいの軽さで話を進めていく。止まりそうにない。
仲間とはぐれた同盟をまだ引っ張るのにも驚く。まず冗談だと受け止めていたし、本気だとしてもとっくに時効だと思っていたのに。
こんなにゆるゆるしてるように見えても、しっかりした大国を担う程のことの出来るユビテルは何者なのか。
「そーそー、暫く泊まってけば? 俺、お前で遊びたいし」
ユビテルについて行けず、困惑している私に更なる混乱の元が増えた。フルミネが意地の悪い笑みを浮かべながら私を見下ろしている。
私『で』遊ぶの? どうやって? そんな言われ方は初めてだ。何をするんだろう。
「で、名前はショコラっつーの? 宜しくな。死なない程度の遊びしようぜ」
……私が想像するよりも『遊ぶ』は不穏な言葉なのかもしれない。何だか、大変な人に目を付けられてしまった気がする。
「そうですわね。わたくしもショコラともっとお話したいと思っておりましたの。兄様、名案ですわ」
三人の意見が一致してしまったみたいだ。ここまでくればもう私達の意思は関係なく、話が進んでいくのはもう分かる。
雷龍族の人達は結構強引な方々だから、このままお城にお邪魔せざるを得ないようだ。




