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ショコラクリスタリゼ  作者: ななせりんく
第二章 龍族と人型の差
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4.ショコラ、ズレを感じる。




 街は変わらずお祭りで賑わっている。囚われていた人々を解放し、拠点であったお屋敷を炎龍の皆が焼き払い、何だか濃い一日だった。

 この件が終わったからにはプロミネ達、炎龍の三人とここでお別れになってしまう。一時的にも仲良くなってしまうことがこんなにも寂しいのを知らなかった。私は本当に何も知らない。


 白い仮面、皆殺し、戦争。嫌な言葉ばかりがまだ頭の中を埋め尽くしている。特に白い仮面、捕獲令だけに限らず、この国でもあの人達が何かしらの活動しているのなら、エスを逃がす為にも早めに立ち去らないといけない。

 ……寂しいな。じっとプロミネを見つめていたら、私の視線に気付いてか近付いてくる。


「そんなに見つめてきてどうした? 嫁になる気にでもなったか?」

「え、それは違――」

「何でわざわざあんたみたいな野蛮な男を選ぶのよ。私の方がいいわよね?」


 ……どう答えていいのか分からない。いつの間にか二人から腕を掴まれ、渦中にいるはずの私そっちのけで喧嘩を始めてしまった。

 えっと、こういう場合、私はどうしていたらいいの? 至極困っていると急に後ろから抱き込むように片腕が回ってきて、喧嘩中の二人から引き剥がされることになった。


「勝手にこっちの獲物賭けて喧嘩するな。誰もやるとか言ってない」


 あ、エスか。止めに来てくれるなんて有り難いな。助かった。

 一息吐こうとして、自分の状況に気が付いた。引き剥がされたところまではいいけど、未だ腕は回ったままだ。それどころかしっかり抱き締められている。これは、全く安心していい状態じゃない。


「大事なお仲間ですのに本当にすみません……。炎龍族は男女問わず、その世代で最初に妻を娶った者が長になるので、プロミネさんとリプカさんは幼少期から張り合っておられるのです。御迷惑をお掛けしました」


 フェゴさんが申し訳なさそうに説明してくれると、教えたら嫁に来てくれなくなる、なんて二人して怒り始めた。小さな頃から二人はあんな感じなんだ。フェゴさんの雰囲気からして、二人のお目付け役みたいなところなのかな。

 謝罪を口にする度に巨体を腰から折り曲げる光景が目立ってしまうのか、近くを通った人々が皆フェゴさんを二度見してから通り過ぎる。


「ならお前らが番いになれば。どっちが頭張るかはそっちで考えて」

「馬鹿な事言わないでよ! 鳥肌が立つわ!」

「全身痒くなってきやがった……!」


 そこまで嫌がるくらいなの? リプカさんとフェゴさんとは会ってまだたったの数時間だけど、炎龍は皆仲良しに見えていたのに。


「僕知ってる。喧嘩するほど仲が良いんだよね? そういう恋人同士がいるらしいよね!」


 ティエラが、思い出した! と言わんばかりに弾けた笑顔で答えを導き出すと、プロミネとリプカさんはみるみるうちに顔色が悪くなっていった。ティエラは一体どこでそんなことを覚えてくるのか。


「……おいエストレア、どんな教育したらこんなマセて育つんだ?」

「だいぶ前から自立してる」

「正せよ!」


 何だかんだ、皆でわいわいがやがやしていると楽しくなってしまう。でも、いくら楽しくてもお別れの時間は迫ってくる。この空気からすごく離れがたい。


 砕けた空気が徐々に鎮まり、誰がそうしようと言ったわけでもないのに皆がしんみりとした雰囲気を纏う。


「……そろそろお別れかしらね。何だか分からないけど、私達としても氷龍を利用されるのは好ましくないもの」

「一応ツケにしといてやる。そのうちショコラの口から氷より炎が良いって言わせりゃいいんだろ?」

「何かあれば力になりますよ」


 次々にお別れの挨拶に似た言葉が出てくる。やっぱり寂しい、なんて言ったらダメかな。こんなに大人数の中にいて笑ったことなんてなかったから。


「ティエラのこと、協力してくれてありがとう。この国で三人に会えて良かった。お別れって、寂しいな」


 ざわりと三人の空気が変わる。言っちゃダメだったみたいだ。俯きそうになった時、後ろから私に腕を回していたエスが力を込めて引き寄せてきた。

 何事かと思えば、ちょうどさっきまで私がいた場所に手を伸ばして掴もうとしているプロミネの姿があった。ちょっとした戦闘になりそうな素早い動きに、エスとプロミネが人型と何か違うと感じる部分がある。

 何故、私に手を伸ばしたの? それが分かって引き寄せたの?


「……やっぱお前が見張ってる範囲じゃ掠め取るのは無理か」

「こいつが変に煽りそうなことくらい数日で分かってるから」

「へえ、そりゃ無の境地までいってる龍族でも興味も湧くよな。さっさと行けよ。二回目は外さねぇから」


 また何だかよく分からないけれど、別れを惜しんでいる暇はもう与えてもらえないようだ。

 エスに腕を引かれて三人に背を向ける。きっとまた会える。そう思えば少しずつ寂しさが和らいでいく気がした。



 街の喧騒から離れる程に、次は違ったところに意識が向かい始める。

 結構長い時間抱き締められっぱなしだったな、なんて。物凄い時間差で顔が熱くなってくる。人型とは言えドラゴンなら感覚が違うのかもしれない。体感温度みたいな人型の間でも差が出たりするものも違えば、エス達は姿が二つあるのだから。

 ……低めの体温って優しくて気持ちいいものなんだな。ああダメだ。思い出すと頭から湯気が出そうになる。


「にーちゃん、ショコラの耐性も考えてあげようよ。人型の女の子って手も繋いだことがない純粋な子もいるんだよ? ショコラ、絶対そうでしょ」


 百面相なるものをしていたかもしれない。エスに腕を引かれている私の変顔に気付いたのか、ティエラが呆れてエスに抗議をする。エスが私の顔を見るなり、数秒無言を貫いてから納得したように頷いていた。

 ティエラの言う通り私はこの年で仲間も友達もいなかったのだから、当たり前だけど男性への耐性もない。でも、見るからにそう、だなんてひどいと思う。


「ショコラには僕達は刺激的かもしれないから、早めの警告だよ。本当は無闇に近付いていい安全な種族じゃないんだから」


 プロミネ達も当たり前のように怖い話をしていた。そういうことなのかな。

 怖い話、いっぱいあるのかもしれないけど、詳しく聞かずに何でもダメなことだなんて言えない。エスの皆殺しだってそうだ。きっと何か大きな理由がある。


「そうなんだとしても、私、二人の仲間やめたくないよ。だから、一緒にいてもいい?」


 ティエラは一瞬困った顔をしてから、「頑張らなきゃいけないのはにーちゃんの方だね」とエスに向かって笑顔で拳を作っていた。

 何だか分からないけど、否定はされなかったからいいのかな。せっかく出来た仲間に見放されなかったようで安心した。

 逃亡も成功するか分からない、夢も叶うか分からない。そんな先の全く見えない状況だけど、まだまだこの二人と一緒にいられそうなだけで未来が明るい。




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