あなたがすき
なめるようにじとっと、私の肌に空気がまとわりついて離れない。
空の色が赤黒い。かろうじて、太陽が雲の隙間から顔を覗かせてはいるが、真上に浮かぶ雲が今にも私の膝まで落ちてきそうなほど、分厚くたれこめている。
行き交う車のライトがついていたり、ついていなかったり、明るいのか暗いのかわからない夕暮れ時のこと。
夕方は雨が降るかもしれないと、あれだけ母親に傘を持つよう言われていたのに、今日は傘を持っていない。怪しげな空模様に、本当は帰りたいところだけれど。
私の長いスカートがひるがえる。
さっきまで座っていたベンチが生ぬるくなっていた。熱を少々置き去りにして、私はいつもの日課を行うため足早に、街路樹をくぐり抜け人並みに飲まれていく。