お知らせ看板の意味するもの
百原一丁目のマンション問題は「建築計画のお知らせ」と言う看板から始まったが、この看板はいったい何を意味しているのだろうか。
建築物を作る場合には、建築基準法のほかに、消防法、都市計画法、宅地造成等規制法、バリアフリー法、建設業法などのさまざまな建築関連法規の規制を受ける。しかし、こういった法律や周辺住民の訴えを受けて総合的な許認可の最終判断をする責任は実は何処にもない。
「建築許可」なるものは存在せず、ただこれらの規制をクリアしていることを確認すれば良いことになっている。これが「建築確認」であり、確認するだけだから別に行政機関である必要はなく、民間会社でも良いことになる。耐震偽装で問題になった「指定確認検査機関」会社がこれをやっている。
とはいえ、確認しなくてはならない書類などは決まっており、市役所の発行する「事前協議終了通知書」もそのひとつとして必須だ。これは都市計画法に従った規制をクリアしているかどうかを調べるもので、建築確認申請の前に地方自治体と協議したことを証明するものだ。
建築確認申請の事前に協議するから「事前協議」と言う。本当は周辺住民と協議しなければいけないはずだが、都市計画の主体は地方自治体になっているから仕方がない。
マンションに関しては大抵の市で「中高層建築指導要領」が定められていて、自治体はこれに基づいた指導を行う。自治体が協議するについては周辺住民の意見も聞く必要がある。そのために事前協議を始める時にこの看板を立てることを要求し、同時に建築主が周辺住民に対して説明会を開くことも要求する。お知らせ看板はそういった意味合いのものだ。
だから、本筋としては、住民は説明会で計画の内容を聞き、それに対して問題があれば、自治体に申し出て、それを受けて自治体が建築主と協議して建築物を周辺事情と合わせたものにしていくべきである。協議がうまく成立すれば、終了通知書を発行して建築確認が申請可能になる。そうあるのが制度の趣旨のはずだ。
ところがここに一つの大きな落とし穴がある。だらだらとしたお役所仕事を排除すると言う名目で事前協議の期間は二週間以内と定められているのだ。自治体は二週間でしかるべき指導を行い「事前協議終了通知書」を発行しなければならない。
しかし、緑地面積の細かい算定や設計変更を伴う協議が二週間以内で終わるわけが無い。だから実際は事前協議に先立つ「非公式な前協議」をずっと前から続けているのである。看板が立ち、事前協議が始まったということは、「非公式な前協議」が終了し、二週間後に「事前協議終了通知書」が発行されることが決定したと言うに他ならない。
自治体にはしっかりとした行政指導をして住民を守る義務がある。行政指導の内容は記録に残し、開示請求があった場合には情報公開しなくてはならない。しかし、実質的な協議である「非公式な前協議」は公式のものでないから、その内容は全く住民には知らされない。たとえ住民側が非公式な前協議の進行をかぎつけて市役所に問い合わせても、公式には何も協議していないのだから、個人情報ということになり、内容は教えてくれない。
協議が終了する二週間前になって初めて、住民は事の存在を知る。それがお知らせ看板なのだ。看板が出たときには、すでに「非公式な前協議」の終了が決定されている。つまり、説明会も看板も、やったと言う事実だけが必要であり、実質単なるアリバイ工作でしかない。
ぐずぐずしていると二週間はすぐに経ってしまう。この二週間は公式に住民が、建築物の認可に対して物が言える、唯一の時間である。マンション業者は、日を置いて説明会を設定し、時間稼ぎをしようとするが、看板が出たらすぐに市役所に押しかけ、住民の困窮を訴えることが、なにはともあれ大切である。




