逆襲=看板へのクレーム
大型トラックの侵入を阻止したあと、解体工事はトラックなし、重機なしで細々と行われるに過ぎなかった。しかし、タワラコーベンも黙って引っ込んではいなかった。十二月十五日に市役所から妙な連絡が入った。住民が建てた看板に問題があると言うのだ。誹謗中傷や虚偽はなく、まっとうな意見看板であり文句を付けられる筋合いは無いはずだ。そこらにある多くの広告看板より、美観の損ね方ははるかに少ない。それでも杓子定規に適用すれば確かに県の屋外広告物条例違反だと言うことなのである。
高層マンション反対は住民の意見表現であり、憲法に保障された国民の権利だ。これを広告物として規制されること自体に異論がある。もちろん我々に広告だのという商業目的の意識はない。しかし、屋外広告物法という町の美観を守る法律があり、この中にはすべての看板、掲示、表札に至るまでを広告物と定義している。それに基づく県の条例は住宅地における一切の広告物を禁止としている。百原一丁目は住宅地だから一切の広告物が禁止されるのである。
この条例では、全てを禁止としたうえで、いろんな例外を列挙している。表札とか、選挙ポスターだとか、催し物の案内の他、自家広告物として商品名や屋号を表したものは五㎡まで許される。問題はこのリストに意見表明の看板が入っていないことだ。これでは、全ての意見表明が違法ということになってしまう。
この条例に気がついたタワラコーベンが執拗に市役所に働きかけ、住民の看板や幟を条例違反で取り締まらせようとしているのだ。三人の対策屋が常駐し、こんなことで市役所を毎日つついているのだろう。この条例に従えば、あちこちにあるマンション反対の看板はすべて違法になってしまうし、町にある広告のほとんどは違法と言うことになる。さすがに市役所も機械的適用はできず、一応、自家広告として取り扱い、五㎡までに限定し、会社名などは出さないという妥協案のような指示を出してきていた。弁護士に相談すると、「憲法違反の条例だから、処罰はできないに決まっている。強気で良い」と言うことだった。
確かに理不尽な条例だし、憲法違反だから処罰された前例もない。しかし、普通の市民は、なかなか憲法を盾に条例違反を押し通す勇気を持てない。おそらく、対策屋たちは毎日市役所に条例の適用を要請しているのだろう。市役所にこの圧力を跳ね返す正義感を期待するのは無理だ。裁判は長引くし、費用の見通しもない。やはり意見は割れて、議論になった。結局一軒当たりの幟・看板を五㎡まで減らし、その代わりもっと多くの家に看板を立てることにした。 呼び掛けに応じてさらに多くの家が看板や幟を立ててくれるようになった。タワラコーベンの目論見は裏目に出たかも知れない。
タワラコーベンの会社名を出さないことで、看板の主張に迫力がなくなったことは否めない。一般的な表現ではいったい誰が悪いのかはっきりしない。看板を建ててから三ヶ月、看板も周知目的は達しているし、住民はこの一件で、県の条例にも様々な効力があることを学んだ。住民側にも使える条例があるかも知れない。いろんな条例も研究していこうということになって行き、実はこれが後日大きな結果をもたらすことになった。




