表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高層マンションにSTOP!  作者: 嬉野三太郎
工事車両を通すな
22/45

車両制限令が使える

  居住権で居座る作戦は弁護士さんから教わったものだが、住民から出てきたアイデアは車両制限令による抵抗である。高層マンションは大抵、表通りに面しているのに、このマンションは住宅地のど真ん中で、周りは生活道路でしかない。工事が始まればたちまち自分たちの通行にも支障がでる。こういった道に大型ダンプがいくらでも通行できるわけがない。


  実際に行政が頑張って車両の通行許可を与えなかった例もある。少し古い話であまり記録も見当たらないのだが関連する裁判記録は公表されている。一九七二年に東京中野区で起こった「聚楽ハイツ」の反対運動で、実力阻止を唱える住民側と工事業者の衝突を防ぐために、中野区は工事車両の通行許可を留保した。結局、五ヵ月後に許可を出したのだが、業者側は損害をこうむったとして中野区を訴えた。この裁判の判決が昭和五七年四月二十三日最高裁第二小法廷で出ている。五ヶ月後に許可を出すようないい加減な理由で許可を出さなかったのは違法だと言う訴えを却下して中野区の処置を正当と認めた判決だ。つまり、行政がその気になれば工事車両の通行を止められると言うことだ。


  調べてみると通行の可否を定める法律としては道路法があり、具体的には車両制限令で定められていることがわかった。百原一丁目の道路はいわゆる六m道路なのだが、道路法が問題にするのは道路の規格ではなくて実際の寸法である。六m道路ではあっても側溝や縁石を除いて実際に車が通れる「路面の幅員」は五・八三mでしかない。これはメジャーを持って測って廻った結果である。道路法によれば「路面の幅員」のうち両側の五〇㎝は路肩であって車は通れない。真ん中の五〇㎝はすれ違い代である。つまり(5.85-1.5)/2=2.19mが通れる車の最大幅であり、これ以上の車両は道路を痛め、危険なので通行が禁止されている。ほとんどの四トンダンプは幅二・二mであるから通行可能な大きさより大きい。大きな車が通行するには特別な許可がいる。通行許可を出すのは警察であるが、それには道路管理者の認定が必要だ。市道を管理するのは月葉市の道路課である。一㎝といえども違法は違法。これを使おうと言う事になった。


  車両制限令は一二条という緩和条項があって、「やむを得ないと認められる場合は」通行が許可される。通常はこの「やむを得ない」が拡大解釈されて、物理的に通れる車はみな平気で狭い道を通っている。しかし、無許可通行は厳密には罰金百万円の犯罪なのである。解体工事の土砂運びは小さな二トン車だって出来るから大型ダンプでなければならない理由はない。行政指導をも拒否する駆け込み着工をやろうとしているのだ。駆け込みを達成するために急ぐのが「やむを得ない」であるはずがない。これが我々の論点であり、申請があっても、通行を許可するなということを市の道路課に訴えに行った。


  道路法というのは百万円という罰則金額からもわかるようにかなり強力な強制力を持った法律である。古くはベトナム戦争当時、相模原で市民平和運動が座り込んで米軍の戦車を止めたことがあるが、この時使われたのがやはりこの車両制限令だった。しかし、「やむをえない」の緩和条項で適用が形骸化しているため、車両制限令の存在は普段あまり意識されていない。


  月葉市でもこれまでそのような申請を受け付けて許可を出すと言うような事もやっていなかったようだった。いろいろ検討してみると結局、慣例的な解釈が国土交通省から示されており、市としても認定を出さざるを得ないことにはなるのであるが、これまでやっていなかったことだから、関係部門での調整も必要であり、申請があっても十分に慎重審議してからということになった。特別通行許可は車両の一台一台について車検証を添付して申請しなければならない面倒な手続きがある。審議に時間がかかるのが当然なのである。


  ここまでの市との交渉が進んだのが十二月五日で、十二月六日からは解体工事を開始するという通告を受けていた。車両制限令は法律なので強力な手段となり得る。しかし、慣例的には無視されているような法律なので、放っておけば有効な手段とならない。これを有効にするためにはある程度の覚悟が要る。おそらく業者側もこのような法律を意識していないだろうし、もし、違法にトラックが侵入してきた場合、体を張ってトラックを止めることも考えねばならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ