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高層マンションにSTOP!  作者: 嬉野三太郎
説明会での奮闘
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建設計画説明会って?

  マンション建設には、建築確認が必要で、そのためには市役所で「事前協議終了通知書」を発行してもらわねばならない。市役所では、近隣住民の意見を聞くことを要件にしている。だから住民に対する説明会は開かなければならない。開きさえすれば良いのだ。お知らせ看板が出て、2週間ぎりぎりの所で開くのが常套手段だ。住民に何を言われようと、翌日くらいには「事前協議終了通知書」が発行され、建築確認の申請ができる。


  マンションを建てるのはタワラコーベンで、設計は「山本建築設計」であるが、近隣に配られた案内には総合企画:「全建総研」となっていた。総合的な企画は、当然建設主体であるタワラコーベンがやるはずなのに、なぜこのような会社が関与するのか不思議だったが、実はこの会社が説明会の主体だった。タワラコーベンは近隣住民対策を一括してこの会社に委託していた。マンションの建設は紛争がつきものとなった今、こういった紛争対策を請け負うことがビジネスにまでなって来ているのだ。いわゆる対策屋である。


  第一回の説明会にはタワラコーベンの若い社員が一人出席したが、第二回以降は全建総研だけだった。第一回の説明会で住民が聞いたことは、タワラコーベンと言う一部上場会社の企業理念だった。このような場所に十四階建てというような建物を建てる会社が、一部上場企業であることが不思議だった。一体どのような企業理念に基づいてこのような行為が行われるのかを知りたかった。どのような企業であれ、企業理念に照らして考えれば、十四階建てを隣地境界五〇㎝に建てると言う事に躊躇があるに違いないと思ったのだ。結果的には、タワラコーベンにそのような理念などというものはなかった。「安くマンションを建てます。金を儲けます」以外は何もない会社だったのである。 二回目以降の説明会にはタワラコーベンの社員は一切出てこなかった。


  会社の行う説明会は一方的に計画を説明するもので住民との交渉をする場ではない。しかし、住民対策としてはあたかも説明会で住民の意向をくみあげるかに見せかける。タワラコーベンの社員がいなくとも、我々全建総研が住民の皆さんとの交渉を一任されているのでご心配なく、と物腰も柔らかに説明を始め、住民の困惑の言葉にはごもっともと相槌を打つ。時には実情を十分に理解していないと、タワラコーベンを批判したりもする。我々が、会社の方にも皆さんのお話をよく伝えて考えてもらうと請け負う。この人たちに話を聴いてもらい、なんとか解決をはかりたいと思わせるのが彼らの役割だ。


しかし、実際には彼等が住民の役に立つことはない。彼等が請け負っているのは、住民運動をはぐらかすことなのだ。結局のところ、問題点を指摘しても「伝えます」で終わるし、要求を出しても「検討します」で終わってしまう。住民が強を煮やして、いったいどのような権限を委任されているのか、契約の書面を示してくれと言ったところ、非常に提出を渋った。見せるだけでコピーはさせないというのだが、それでも渋った。


実はこれが、対策屋の問題点だった。こういった交渉の代理人となるには弁護士の資格がいる。もちろん彼等は弁護士ではない。下手をすれば非弁活動で処罰されることになるのだ。会社との契約はおそらく、単に説明して住民をはぐらかすだけで、何の交渉もしないということなのだろう。対策屋が出てきた時には、本社の職員がいる第一回の説明会で、対策屋の権限について問いただしておく必要がある。


  今までマンション建設がどのようなものであるかについて何の知識もなかった百原一丁目の住民は、初めてマンション業者の現実を知ったし、対策屋などと言うものが存在することも初めて知った。世の中というのは激しく動いていた。次々と新しいマンション業者が生まれ、それぞれが、すさまじい勢いであちこちにマンションを建てまくっている。それが、現実だったのである。

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