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ふいに胸が熱くなった。
ひかれるように顔をあげると、そこはさっきまでの部屋ではなくて、学校の屋上。
そこには17さいのあたしと、それから日向さんが居た。
日向さんはフェンスに背を預け、空を仰いでいる。
『学校の屋上、来たことある?』
『……何度か』
夜なのだろうか。辺りは暗い。
星の明かりも見えないほど。月の存在も感じられないほど。
真っ暗だった。
日向さんはあの部屋にあった学ランを着ていて、あたしも制服姿だった。
『ぼくは毎日のように、ここに来てたよ。明日こそは何かが変わるって、信じながら…願いながら。だってなんとなくほら、天国に近いでしょ? だから神様に、届くんじゃないかと思って』
『……なに、を…?』
日向さんはやわらかく笑う。
『…“ぼく”以外の誰かに、なることを』
もしも“奇跡”が起こるなら、自分以外のモノになりたかった。こんな自分とは正反対の、もっと、もっと──…もっと。
あたし達に起こったのははたして“奇跡”なのだろうか。
それとも、別の。
『あたしも…なれるなら、なりたかった…』
『……』
『あの日、ここで、この屋上で…あたしはただ、何も感じないように、傷つかないように、自分を必死に守ってた…なるべく世界の隅っこで、小さくなって、うずくまって…でもそれで今まで、大丈夫だった。どんなことがあったって、何されたって、平気。だってそう、信じてきたから。あたしはあたしを、自分自身を、ちゃんと大丈夫だって、信じてた…』
『でもそれも、なくしちゃったんでしょう…?』
日向さんが一歩、あたしに近づく。あたしの足は動かなかった。
『痛みを、傷を、思い出して。それできみは、生きていけるの? これからもずっとそれを抱えて。傷も痛みも、きっと絶えない。これから先も、きっとずっと。ここはそうゆう、世界だから。それは永遠に、変わらない。こんな理不尽で残酷で卑劣な世界で…きみはひとりで、生きていけるの…?』
生きていくしかないって、わかってた。だってそれがあたしの、罰でもある。
お父さんはそこに居るかもしれない。だけどきっとあたしはそこには行けないから。
『ぼくも、そうだよ…ずっと、信じてた。大丈夫だって。まだやれるって…そう、信じてた。…だけど、ダメだった。そうしたらぼくはいつの間にか…こんなところまで、来てしまったよ』




