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◆ ◇ ◆
あぁ、逃げたい──
いつの間にかそんなことばかり、考えるようになった。
今すぐ地球が爆発しないかなとか、戦国時代にタイムスリップしないかなとか。
誰か、何かとそんなことばかり考えるようになった。
暗い校舎の片隅、屋上へと続く階段の踊り場には大きな窓があって、その向こうでまぁるい月がぼくを惨めに照らしている。暗い場所で生きる者にとって明るい場所は地獄に近い。悲しくて虚しくて痛々しい。
窓から差し込む月明かりがちょうどスポットライトのようにぼくを一時の主役にする。だけどとても耐えられず、早々にその舞台を後にした。
重いため息に足取りを重ねながら、本当の地獄のドアへと一歩ずつ近づいていく。
手には携帯電話と数枚のお札。ぼくの今月のおこずかいの残りすべて。
本当にこれで終わりにしてくれるのだろうか。せめて殴られなければいいけれど──
そんなことを思う頭の反対側で、いつも無意識につぶやいている。
誰か──
もちろん応えてくれたことなど、一度もない。
そう、この時までは──…
その誰かは、階段の上から降ってきたのだけれど。