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我が亡き祖父に捧ぐ最初で最後の手紙という名の文

作者: のんまさ

亡き祖父に捧ぐ青年になった幼き孫からの手紙。


2011年9月24日(土)。

僕はこの日の夜、母から「お爺ちゃんが死んだって」と告げられた。

この場合悲しいとかつらいとか感じるのが普通の人なのだろうが、僕はこのことを前から知っているように感じただけだった。こんなこと後からなんだっていえると感じるかもしれない。でもこれは、まぎれもなくその時に感じた率直な感想であり、事実であり、錯覚である。僕が自分自身をメタ認知はした結果そう感じたのだ。とても不思議なもので僕は冷静だった。動揺なんてこれっぽちもなかった。

でもそれはそうかもしれなく、そしてそれは僕にとって当然の結果だったのかもしれない。


僕は小学二年生の時、母と二人で実家、つまり、祖父の家を出ている。

小学二年生という非常に幼い時期のことを僕はそれほどはっきりとは覚えていない。むしろまったく覚えていない。僕の記憶力というものはどうも人より悪い。そんな容量が少ないために常に上書き保存され続ける僕の記憶は楽しかったこと、つらかったこと、嬉しかったこと、悔しかったこと全て印象深くないものから、古いものから平等に消去され続けている。そんな中僕の記憶の中にいまだ鮮明に残る祖父の思い出はある。それは「大きい」や「優しい」のような抽象的な事の方が多いが(当時まだ小さかったためしょうがないと割り切ろうと思う)一つだけ祖父と柔道をして遊んだことだけは覚えている。それ以外は壊滅的に記憶がない。しかしその時感じた大きい手のぬくもりと、優しい香りは忘れることができない。

楽しかったのかと聞かれればわからないと答えるしかない。なぜなら僕は祖母がとても嫌いだったからだ。それは母も同じだった。


そして母と祖母の折り合いが悪く引越し、そして『決別』という形になった。その『決別』は僕にとっても母にとっても本当の『決別』となってしまったのだ。皮肉なことである。僕らは祖母が死んだら祖父に会いに行こうと考えていた。しかし現実は祖父は死に祖母はまだ生き生きとしてる。


大きくなった僕は、とても祖父に似ているらしい。母がそういうのだから記憶な曖昧な僕が言うより確かだろう。大抵子供というのは親に似るものだと思うのだが(これは僕の見解であって、想像であって、勝手な妄想だが)僕の場合、目、口、耳、図体、手はもちろんのこと、筋肉の作り、性格、それどころか考えること、その場面で言うであろうセリフまで似ているときた。これが俗に言うお爺ちゃん子というやつか。なついてるという意味ではないけども。


そんな祖父の血を深く受け継いだ僕は最後まで祖父に会えなかった。それが唯一の心残り。死ぬ前にたった一言「楽しかった」が言えないことがなによりも悔しい。叶わぬ夢。これほどにも悔しいものはない。


ここまでを見ると見る人によっては特にそんな思い入れがないように思えるだろう。しかしそれはそれであっているのだ。僕は現にそんな思い入れなんてない。だけど祖父は僕をかわいがってくれた。そのことは記憶の中に残っている。だから僕は普段書くことを嫌がる人に向けての手紙としてこれを書いている。普通に手紙を書けばいいじゃないかと言われれば仕舞いなのだが、そこはこちらの事情でできないとしていただきたい(なぜできないのかは割愛させていただきます)。

僕は先に述べたように悲しいともつらいとも思ってはいない。しかしこれを書いている時点でもしかしたらそうした感情は少しはあるのかもしれない。そうした感情が僕にあるから書いているのだろう。このことは僕にはわからない。わからないからこのまま何も言わずこの文を読んでいただきたい。僕のそつで、雑で、めちゃくちゃなこの文に文句をつけながらでいいから読んでいただきたい。

そしてこの文で一番言いたいことを読み取ってほしい。


「楽しかった。一緒にいてくれた時の優しさ、ぬくもりは忘れない。僕は大丈夫。だから天国に安心して行ってください。天国でもお幸せに。そして短い間ありがとうございました」


これは幼き孫から、青年になった孫からの亡き祖父に捧ぐ最初で最後の手紙という名の文。


どうかこの気持ちが祖父に届きますように。

そして僕の中に祖父への気持ちが忘れずいられますように。

心からご冥福をお祈りします。

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