魔王「勇者は帰れ。そこの僧侶は置いていけ」
「よくここまでたどり着いたわね、勇者。……って、まさかアナタは女?」
「そうよ、だからなに? 私は剛力無双よ。男ってアドバンテージに胡座をかいて、己を鍛えない男どもと同じだと舐めないことね!」
女勇者は手にした聖剣の剣先を魔王に向ける。
神の力を宿した聖剣の刃が神々しく閃く。
魔王から放たれる瘴気が対抗するように濃――
「マジで? ざけんじゃないわよ」
魔王が舌打ちをすると、ドカリと禍々しい王座に座る。
脚を組み、ひじ掛けで頬杖をつく。
魔王は心底冷めた目で女勇者を見据える。
「ここ百年くらい勇者はアタシ好みのガチムチで満足していたわ、でもね、たまに違うものも食べたいと思うことってあるじゃない? そこに久々の耽美系勇者が出てきたと思って舌なめずりして待っていたのよ。チッ、女だったなんてクソマジありえないわー」
「はあ? 何ふざけたことを言ってるよ! 私は史上最強の勇者よ! 男よりも強いわよ!」
「ハァ、女というだけで、アタシの魔剣はピクリともいきりたたないわよ。鍛え抜かれた花弁にこそアタシの魔剣は喜びを感じるわ」
魔王はつまらなさそうに自分の股間を指差す。
一瞬、呆けた女勇者。
次の瞬間、彼女は怒りを爆発させ顔を真っ赤にする。
感情に呼応して闘気の奔流が光の柱のように立ちのぼり、彼女の髪を逆立たせる。
極悪非道と恐れられた魔王四天王さえ震え上がらせるほどのプレッシャー。
ビリビリと肌越しに伝わる強者の空気も魔王には興味を引くものではない。
「アタシ、興が削がれたわ。今、さっさと帰れば五体満足で命を持って帰ることを許しちゃうわよ」
「この魔王風情がふざける――」
「落ち着け勇者! これは魔王の策略だ!」
野太い男の声が魔王の王座に響く。
低く体の芯に届くような声に、激昂していた女勇者は我を取り戻す。
「そ、僧侶……そうね。そうかもしれないわね。魔王が私たちの精神面から崩しにかかっている可能性があるわね」
「冷静になれ、女勇者。そうすれば女勇者は無敵だ」
後ろから姿を現したのは大柄で筋骨隆々とした男。
その体つきに似合わない僧侶服に身を包んでいる。
当然、服の下に押し込められた暴力的な筋力に、服はパツンパツンになっていた。
――ガタリ
魔王が恍惚とした顔で王座から立ち上がる。
「イイわ! すごくイイわね、貴方! 今期は勇者の活躍しか報告が上がってなかったから、パーティメンバーについてはノーマークだったわ!」
「な、何を言って――」
「ん? ああ、まだいたの女勇者。さっさと帰りなさいよ。邪魔よ」
気だるげに手を払う魔王。
反射的に女勇者が聖剣を構える。
「魔王! お前を倒すために私はここにいる! ここまでの血路を開いてくれた仲間たちの犠牲に報いるために、私は――」
「うるさいわよ、重力魔法『グラビティ』」
パチンと魔王が指を弾く。
同時に景色が揺らぎ、女勇者の体が凄まじい力で石床に引っ張られる。
女勇者は苦痛の表情になりながら、必死に体を支える。
「な、なにを……した……っ!」
「重力を操作しただけよ。人間風情ではたどり着けない魔の境地というやつね。アタシはそこの彼にお話があるから、しばらくそこで這いつくばってなさい」
蔑むような視線を女勇者に向けたあと、魔王は高揚した顔で、少し瞳を潤ませて僧侶を見つめる。
得体のしれない威圧感を感じ、僧侶は無意識に後ろに下がってしまう。
「ふふふ、カワイイわね、アナタ。そんな脳筋ゴリラみたいな女のそばにいるのは不憫でならないわ。どうかしら、アタシのもとに来なさい。ちょうど四天王のポストも空いているわ」
「ふざけたことを言うな! 俺は大地母神様にこの身を捧げ、勇者が魔王を倒すその時まで尽くすと誓った! 俺はいかなる誘惑にも屈しない! 魔王の戯言に貸す耳はない!」
「イイわイイわね、ますます欲しくなってしまうわね」
ズルリと口元に垂れたヨダレを魔王が長い舌で舐め取る。
獲物を狙う爬虫類のような目で、僧侶を頭の先からつま先まで舐め回すように観察する。
魔王の笑顔が愉悦でますます歪んでいく。
「漲ってくるわ! 滾ってくるわ! アタシの魔剣にビンビンきてるわ!」
「ひぃ!」
天井を仰ぐようにして声を上げる魔王。
その姿に思わず怯えた顔で小さく悲鳴をあげる女勇者。
その視線の先には巨大なピラミッドのように膨らんだ股間があった。
ほんの一瞬前まで平坦だった股間に巨大な三角錐が築かれていた。
――ゴクリ
喉を鳴らす音がやけに大きく響く。
体の内側から地面に引きつけられる苦痛を一瞬忘れ、女勇者は愕然とした顔で僧侶を見た。
彼は目を見開き、興奮した様子で魔王の股間を凝視していた。
「僧侶……?」
「ハッ! お、俺は大地母神様に生涯を捧げた! どのような誘惑にも俺は屈しない!」
「まさか……だからお金がなくて宿で同室だったときも、野宿したときも、私に手を出さなかった……」
「ち、違う! 俺は大地母神様に生涯を捧げているのだ」
慌てる僧侶を女勇者が冷たい目で見つめる。
「ふふふふ、あはははは、人間は欲望にまみれてこそ輝くのよ! さあ、貴方が内に溜め込んだ欲望を私に見せてちょうだい!」
「や、やめろ! 俺は敬虔な大地母神様の使徒として……」
「ほらほらほーら、アタシの魔剣が貴方の花弁の力強さを感じ取って打ち震えてるわよ! さあさあさあ! 貴方の本音を聞かせなさいよ!」
「や、やめろ! やめてくれ!」
跪き、祈るポーズをとる僧侶。
得体のしれない恐怖に彼は体を小刻みに震わせる。
――パキン!
ガラスの割れるような音が響く。
そして、幽鬼のように女勇者がゆらりと立ち上がる。
「な、なんですって……! アタシの重力魔法を解除したの!」
「お、女勇者……!」
魔王と僧侶の視線が女勇者に向けられる。
彼女は汚物を見るような目で二人を見据える。
ひと呼吸おいて、彼女の口の端が持ち上がる。
「……てめーら、いっぺん死んでこいや!!」
彼女が石床を砕くほど強く踏み込んで聖剣を振り下ろす。
聖剣から放たれた神気の奔流が二人をまとめて吹き飛ばした。
魔王城を半壊させるほどの一撃。
そこに魔王と僧侶の姿はどこにもなかった。
数カ月後、突如現れた新生魔王軍に元人間の僧侶がいたとかいなかったとか……。
終わり?
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