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 お昼に差しかかったころ、リロイとサムソンはヤウレの町に到着した。人気ひとけのない静かな通りを歩き、エドワードの屋敷に向かう。


「今日は人通りが少ないなー」


 頭の後ろに両手をあてながら、サムソンはきょろきょろとあたりを見わたす。リロイは大きな口を開けてあくびした。


「時間が時間だから、みんな、お昼ご飯でも食べてるんじゃないの?」

「いや、まーそうだろうけどよ」


 静かな通りを歩いて、エドワードの屋敷が前に見えてきた。高い塀で囲まれた屋敷は、今日も古城のように荘厳にたたずんでいる。


 リロイは鉄格子のような門の前に立ち、屋敷の庭をのぞく。いつも草刈りをしているメイドのドロシーの姿が見あたらない。


 ――今日はドロシーさんの姿が見えないなー。カーシャちゃんの具合が悪いから、部屋の中で看病してるのかな。


 リロイはさしたる詮索をせず、隅に置かれた呼び鈴に手を伸ばした――そのとき、屋敷の三階の窓がばたんと押し開けられた。家主のエドワードが顔にたくさんの汗を流して、窓から身を乗り出した。


「リロイ君! 来ちゃだめだ!」


 叫んだエドワードの口が、鉄の兜をかぶった兵士の手でおさえられる。エドワードは強引に身体を引かれて、窓の奥に消えた。


 後ろの茂みから、兵士たちがぞろぞろと姿をあらわす。するどく尖ったロングスピアを向けて、門の前で困惑するリロイとサムソンをとり囲んだ。


「な、何っ!?」


 リロイは膝を曲げて、シャムシールの柄に手を伸ばす。サムソンも腰を落として、水晶の杖を両手でにぎった。


「お前が迅雷じんらいの娘だな」


 鉄の胸あてをつけた兵士たちの中央から、コルセスカ(十字槍)を肩にあてた男が歩み寄ってくる。コルセスカの男はリロイとサムソンを見下ろして、目を細めた。


「われわれの主から、お前を捕らえろとめいが下っている。城まで同行願おう」

「と、捕らえろって、どういうことよ。……ていうか、そもそもあんたらはだれよ」


 リロイがゆっくりとシャムシールを抜くと、あたりの兵士たちがロングスピアの穂先を光らせる。中央の男は右手を出して、兵士たちを下がらせた。


「われわれはエルダ歩兵団だ」

「エルダ、って、ここの統治者の名前じゃない。じゃ、あんたらは……」


 リロイがきつくにらむと、コルセスカの男は「まあ待て」と言って冷笑した。


「われわれの主であらせられるエルダ卿は、オーブ伯の娘であるお前に興味を持っておられる。それはもう大変な気に入りようでな。どんな方法をつかってもいいから、お前を即刻連れてこいとのことだ」

「あたしは、一国の子爵様に気に入られるようなことをした覚えはないけどね。ていうか、そもそも子爵様の顔すら見たことないんだけど」


 そう返すと、コルセスカの男は声を出して笑った。


「なかなか面白いことを言うやつだな、お前は。この状況でよくまあ、そんな下らないことが言えるものだ。……さすがは迅雷の娘、といったところか」

「お父様は別に関係ないでしょ。あたしはカーシャちゃんの見舞いに来たんだから、早くそこをどいて――」


 そう言いかけて、リロイははっと顔を見上げる。こんのマントを羽織った男が、コルセスカの鋭利な穂先を向けた。


「おれはエルダの騎士、歩兵団長のライオネルだ。主の命により、お前をここで捕縛する!」


 ライオネルが猛り、コルセスカを突き出す。リロイとサムソンは左右に飛び、鋭利な穂先をかわした。あたりをとり囲む兵士たちも一斉に動き出し、ロングスピアを突き刺してきた。


 リロイはシャムシールで槍をはじき、屋敷の門に背中をつけた。


「急に手紙がきたから、おかしいなって思ってたのよ! こういうことだったのね」

「今さら気づいても遅い! 迅雷の娘、怪我けがしたくなかったら大人しく縄につけ」


 ライオネルは腰を落とし、地面を勢いよく蹴る。両手を大きく引き、素早く槍を繰り出した。リロイが跳躍する後ろで、屋敷の門にコルセスカが突き刺さった。


 ライオネルはコルセスカを抜き、リロイをしつこく追う。リロイは後ろに飛びながら、シャムシールでコルセスカの穂先をはじいた。


「あたしは迅雷の娘なんていう名前じゃない。騎士見習いのリロイ・ウィシャードよ!」

「ふっ。見習いだろうが何だろうが、われわれにとってはどちらもいっしょだ」

「このっ! ……っていうか、何であたしがあんたらに捕まらなきゃならないのよ! 毎日レオンにしばかれてただけなのに、あんたらにいたずらした覚えなんてないわよ」

「不満があるんだったら、われわれの主に直接聞けばいい。きっと、洗いざらい話してくれるぞ――!」


 ライオネルがコルセスカを何度も繰り出す。穂先がリロイの顔すれすれをよぎり、頬に浅い斬り傷をつくった。


 ――この男、なかなかやるわ。レオンほどじゃないけど、かなりの腕前だわ――


 リロイが感心する手前で、ライオネルがコルセスカをふりかぶる。上空に持ち上げられた十字の穂先は陽の光に映え、轟音を鳴らしながらリロイの足に迫った。


 ――速い!


 穂先が足を掬う瞬間、リロイは膝を伸ばして跳躍する。コルセスカをかわし、右手のシャムシールを頭の後ろにまわす。口につけた右腕を水平にふり、シャムシールを素早く斬り払った。


「くっ!」


 ライオネルは腰と首を曲げ、身体を器用にくねらせる。リロイが払ったシャムシールの切っ先が、ライオネルの頬すれすれをよぎった。


 着地しようとしたリロイの足もとに、コルセスカの長い柄が伸びていた。ライオネルはにっと笑い、コルセスカを乱雑にふり上げた。


「きゃっ!」


 足を掬われてリロイのバランスがくずれる。尻もちをつくリロイの横顔に、コルセスカの黒い柄が迫る――!


 ――よけられない!


 リロイは上体を倒し、両肘で地面を支える。首を後ろに曲げて、コルセスカの柄をぎりぎりの位置でかわした。


 ライオネルが腰を落とし、コルセスカの穂先を空に向ける。仰向けに倒れるリロイの身体を、尖った柄の先で突き刺す。リロイは左に側転し、ライオネルの攻撃をかわした。


「さすがはエルダの騎士。なかなかやるわね」


 リロイは手をついて立ち上がる。ライオネルは唾を吐き捨てた。


「あたり前だ。親父が有名なだけのお前といっしょにするな」

「むっ。その言い方、すっごいむかつくなー。お父様がいなかったら何もできない女みたいじゃない」

「ん、違うのか? 召使いからはそういう報告を受けているが」


 ライオネルはコルセスカの穂先をついて顎をさする。リロイの頭の何かがぷつりと切れた。


「あんたねえ! あたしのこと、ちゃんと調べてるの。この牛蒡ごぼう頭!」

「ご、ごぼっ……!?」

「そうよ! まったく、下らない手紙をよこしたかと思ったら、こんな大人数で待ち伏せして、大の男がみっともないったらありゃしない」

「……お前、本当に迅雷の娘なのか?」


 ライオネルはぽかんと口を開けたまま、機嫌を悪くするリロイを茫然と見つめた。あたりの兵士たちの視線に気づいて、「ごほん」と咳払いした。


「おれの頭が牛蒡だとか、そんなことはどうでもいい。……お前たち、迅雷の娘を捕らえろ!」

「は!」


 ライオネルがリロイを指差すと、後ろの兵士たちが一斉に飛び出してくる。リロイはあわてて後退する。


「げげっ! ちょ、ちょっと待ってってば! あたしが何をしたっていうのよ」

「問答無用! 迅雷の娘を生け捕りにしろ!」

「おー!」


 エルダの兵士たちが喊声かんせいをあげ、ロングスピアをかかげる。あたりをとり囲み、リロイの言葉は耳に入らない。


 ――いくら何でもこの人数じゃ勝てないわよ~。……さあ、どうする。どうするの、あたし!


 リロイの頭にのぼっていた血が足もとまで下がった、そのとき、


「ハードウィンド!」


 かけ声とともに突風が舞いこむ。竜巻のように強い風はリロイと兵士たちを一斉に吹き飛ばす。ライオネルも不意を突かれて、道の向こうまで吹き飛ばされていた。


 リロイは屋敷の壁に頭を打ち、道のわきに倒れる。頭の上には二匹のひよこがまわり、意識もくらくらとする。そのリロイの手を、だれかがつかんだ。


「ロイ! だいじょうぶか」


 サムソンの声に、リロイはぼんやりとする頭をあげる。サムソンに手を強く引かれて、リロイは何とか身体を起こした。


「さっきの風って、もしかしてあんたがやったの?」

「そんなことは後だ。ここからさっさとずらかろうぜ!」


 サムソンはリロイの左手をつかんだまま走りだす。道の向こうで身体を起こしたライオネルが、遠ざかるリロイの後ろ姿に目を見開いた。


「くそっ、逃がしてたまるか。……ユウェイン!」

「は」


 森の茂みから、純白の神官服を着た男が姿をあらわした。金糸があざやかな白のかんむりをかぶった男は、リロイとサムソンの後ろ姿を見て、「くく」と笑った。


「先ほどの風の魔術、みごとでしたね。向こうには強力な魔術師がついているようだ」

「そんなことはどうでもいい! さっさとやつらを捕まえるぞ」

「……今回の指令は、なかなか面白いものになりそうですね」


 ユウェインと呼ばれた神官は、袖から手を出してにやりと笑った。

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