四天王のお仕事
「今日を生きよう」
「こいつ、なんだ、どういうスキルだ!」
「落ち着け、こんな新米最弱四天王、囲んで叩け!」
「そうだ、数の上では俺たちが……な、どこだよここは!」
森林。マイナスイオン全快で最高にハイになる緑の自然。ああ本当に、この世界は、最高だな!
縦横無尽に駆け巡りながら、男の背中に掌底打を打ちこんだ。
ワンスキル、衝撃2倍――
「ごっは――」
骨が折れる嫌な音と共に男が一人沈んだ。全く、人を舐めてかかるとこの様だ。
「どけ! 俺がやる!」
最初に俺を襲って来た男。足元から円状に何か黒いものが現れて形を形成していく。
影を操る系? まったく、異世界と言うのは素晴らしいな。個々人が強烈に個性的だ。
皆同じような人間になることこそ美徳な国じゃ、こんなにも個性的なことにはならない。
「いいっすね、あんた」
ワンスキル、発光。さあ、目晦まし――
手を叩きつけると、閃光が迸る。大きな光。何の実害もない戦闘でも私生活でも使えないクソスキル。しかも一回ぽっきり。
だが、手の内が見えてない今は、十分発揮する。
やっぱり影だった。光で影が散って、本体の胴体はがら空き。
蹴り飛ばして木にぶつける、ついでに、ワンスキル、枝操術で手足を突き刺しておく。手の中には余った木の枝がある。このスキルは本当に、使いどころがない。
最後は――
「やってやる!」
「その意気や、良し!」
覚悟を決めて剣を抜いた男。スキルは炎系だろうか、シンプルな技は使いやすく弱点が少ない。
だからこそ、このスキルが刺さる。
ワンスキル、交換。
俺が手に持っている大量の木の枝と、奴が持っている剣を交換させる。
後は、あまりにも簡単だった。纏わせていた炎が木の枝を伝い、やがて本人を燃やした。
「なんだ、これは、クソ!」
さすがに炎は避けたようだが……大体知れた。こいつの限界が、見えた。だったらもう、長居をする理由はない。
「先輩。定時なんで、上がります。後は頼んました」
「何言ってんだお前、逃がすわけ――」
男は最後の言葉すらまともに紡げないまま、切り伏せられた。
カタナを持った、赤い髪の女性は、本当に嫌そうな表情で目頭を揉んでいた。
布鎧に右耳にはピアスが三つ。可愛らしい髪飾りとは相反したオシャレの調和は個性的だった。
ミュイ・カローシス。俺の先輩だ。
「あんさぁ! あーしがいなかったらどうしてたわけ? こいつら傭兵崩れの暗殺者よ!? ばり危険なんよ!?」
「先輩は俺のバディなんで、来てくれるかと。そっちは終わったんすね。んじゃ、上がりましょ。残業代出ねえですし」
「いやね、残業代に匹敵する大義ってのが――」
俺は先輩の口にカスクートサンドを押し込んだ。もぐもぐ文句を言っていた先輩もサンドの魅力に飲まれ、溜飲下げた様子だ。
「やりがい搾取なんてクソ食らえっす」
「……ほんと、上もなんでこんなのを……四天王にしたのかしらね」
「人手不足だからっすよ」
どの世界も、専門的な職業は引く手あまただな、本当に。
その辺に捨てておいた黒色を基調として白いワンポイントのジャケットを羽織った。
俺がいるのは、魔帝国と呼ばれる国。現在勇者軍と完全に戦争中。
現在の職業は、四天王だ。
こんなことになったのは、この世界に転居して初めての頃の話だ。