03-怪物ースライムー
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うわぁぁ!
きゃああ!
ドン!
メキメキ!
オフィスの外から男が響く。
「なんだ!?」
中田課長が驚きブラインドからすぐに外をのぞいた。
「うわぁぁ!?]
課長は恐怖からはたまた驚きからか尻もちをついて後ろにころんだ。
その様子に俺は課長が立つのを、手伝いにいく
「なにあれ?」
「冗談でしょ?!」
「速く警察を呼んで!?」
いつのまにか窓ぎわに集まっていた皆が
誰れもが震えた声で口々にそういう
課長の手伝いもそこそこに俺も皆をかき分けて窓に、向かう。ブラインドをかき分け、窓に顔を近づける。
昼下がりの駅前ロータリー。さっきまで人と車でごった返していたはずの街並みが、まるで無音の映像のように静止していた。
いや、違う。動いていた。
バスほど大きさの“何か”が、道路の真ん中で人々を襲っていた。
「でかすぎる……何だあれ……」
全身が黒い粘土か何かでできているかのように、輪郭が曖昧で、ところどころヒュッと形が変わる。四足とも二足ともつかない奇妙なバランスで、ぐにゃぐにゃと身体を歪めながら進んでいる。
一歩ごとに、道路が揺れているように見えた。
その後ろには、折れた信号、傾いたバス、倒れた人影。
中には動いていないのもあった。服だけがはためいている。血の赤黒さだけが、残っていた
遠目からなのにその光景がなにがあったのかが想像でき、喉の奥から何かがこみ上げる。
「こっちに向いてる。」
誰かが言った。
その瞬間オフィス内はパニックになった
誰もが出口に、向かい絡まりながら道につまる。
俺は口元を押さえながらそれを観察する
不定形で動きは緩慢かと思いきや近くにあるものを手当たり次第に粘性の触手のようなもので飲み込んでいく。
その姿に俺はゲームや小説に出てくるものとはだいぶ違うが、心当たりがありそうな怪物が頭に浮かぶ。
--スライムだ
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2025年。
現代のスライムは、もはやゲームのマスコットでのイメージや雑魚として、描かれることが多い。
もちろん中にはとてつもなく強敵として描かれることが多いが、それでもなんとなく倒せそうというイメージがある。だが、今目の前の怪物を見て思うこれはそんな生易しいものではない。
古代人々にはスライムという明確なものはなかったが
不定形の怪物は存在した
ティアマト、アプスー、沼河比売、ギンヌンガガプ。
人類が最も古くから抱いてきた恐怖の一端に、「形を持たぬもの」がある。
それは“水”や“泥”、“海”や“空虚”として語られ、神であり、災厄であり、混沌そのものだった。
そして混沌”と呼ばれたそれは、今――静かに駅前でを這っている。
無数の名前を拒みながら、あらゆるものを溶かすために。
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スライムの前触手のようなものが、ビルの一階壁面に食い込んだ。
ガガガッと、コンクリートを砕く音が響く。掴んだまま、這い上がろうとしている。
「やばい、上に来るぞ!!」
フロアに悲鳴が広がった。
「逃げろ!エレベーターは……ダメだ!階段使え!!」
「外に出るのは危険だ!屋上に逃げろ!」
指示も叫びも混乱している。
窓の外では、怪物がゆっくりと、確実にビルの壁を這い上がっていた。
そしてその時。
その「這い登るやつ」と目が合った気がした。いや、目らしきものは見当たらなかった。でも確かに、あれは“こちら”を認識していた。感覚で分かった。
心臓が冷たくなる。
あいつはこっちを食べる気だ