01-お告げ ―啓示の朝―
それは、いつもと変わらぬ朝だった。
変わり映えのない通勤の途中――その時、空から“それ”が響いてきた。
【カーン、カーン、カーン】
うるさっ!? なんだこの鐘の音!?
まるで寺か教会の鐘をフルボリュームでぶっ放したような、頭に刺さる金属音。
【聞け、人の子らよ。
我は始まりにして終わり。天と地を司るものなり。
今、我が声はすべての魂に届く。】
唐突に響いた声に、思わず足が止まった。
周囲を見渡すと、他の通勤客たちも同じように立ち止まり、顔を見合わせたり、空を仰いだりしている。
【我が怒りは深い。
汝らは己が欲望のままに星を穢し、互いを貶め、理を忘れた。
慈しみを捨て、調和を壊し、傲慢なる道を選び続けた。】
なんだ……これ?
「我が怒り」?「星を穢した」?
環境問題の啓発放送か? いや、それにしてはやたら荘厳だし……。
いやそもそも、この声、どこから聞こえてきてる?
スピーカーも何もないのに、まるで頭の中に直接響いてくる。鼓膜を通らず、脳に届く“音”……?
【ゆえに我は、魔の軍勢を地に放つ。】
「……は?」
思わず声が漏れた。
魔の軍勢? なにそれ、邪神かよ?
それともやっぱり誰かのいたずらかどっきりか?
【されどそれは滅びのためにあらず。
試練の火として、汝らを鍛えるためなり。】
待て待て、展開が急すぎる。
何を言ってんだよ……マジで意味がわからん。
【恐れるがよい。だが、屈するな。
我が許しを得たくば、戦い、生き抜け。
己の弱さを知り、隣人と向き合い、それでも光を求める者には──
我が火を与えよう。力を、意志を、未来を。】
【これより世界は変わる。
試練を越えた先にこそ、新たな創造がある。
立て、人の子らよ。これは滅びにあらず。再誕の時である。】
【カーン、カーン、カーン】
最後に鐘が三度、空を打ち鳴らすように響いたのち、すべては静かに消えた。
……なんだったんだ、今のは。
周囲も同じように困惑している。見知らぬ誰かと目が合い、気まずそうに視線を逸らす人々。
通勤中だったはずの街のざわめきが、徐々に奇妙な静けさに変わっていく。
とはいえ。
今のが何だったかなんて分かるわけがない。
そしてそれが何であれ――
俺は会社に行かなきゃならない。
染みついた社畜魂は、脳より先に足を動かしていた。