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第六話 元の関係

「ごめん……日和が泣きたいはずなのに俺が泣いちゃって……」

「気にしないで。私はもう泣けたから」

「それって、吉柳の前で?」

「……うん。ちょっと辛いこと言われちゃって」

「え⁉ 大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。大丈夫じゃなきゃ毎日泣いてるよ」


 冗談交じりに言うと立花くんはまた泣きそうな顔をした。それに気づき私は慌てて撤回すると立花くんは頭を振った。


「日和ってほんと優しいよな。優吾以上に」

「そんなこと、」

「あるよ。なんで優しい人が報われないんだろうな。俺にはわかんない」

「私の、私の努力が足りなかったんだよ。頑張ったのなんて最初だけだもん。それからは友達の座に甘えてた。今は友達でもなくて、何がしたかったか自分でも分からないや」

「……日和はさ。元に、戻りたい?」

「え?」

「俺と野依、日和に優吾。元の仲良い四人の関係に戻りたい?」


 その問いかけに私はすぐに決断を下すことはできなかった。元に戻りたくない、そう言えば嘘になる。優吾くんと仲良くしたいし、また二人で話したい。でも今日私は彼を突き放した。もう彼が仲良くしたくないだろう。そして私は優吾くんが水無月さんの彼氏でいる所を見たくない。元に戻ろうとしない理由なんて自分勝手なことばっかり。野依と立花くんの気持ちは無視している。自分よがりで、自分のことしか考えてない。


「俺と野依はどっちでもいいんだよ。個人でだって今でも仲良いし日和に無理させたくないよねって前に話したんだ。日和の気持ちだって分かるし、正直きついよね。あの二人見るの」

「……ごめん。でも」

「ちょっとの間考えてみてよ! 今すぐに決めなくてもいいよ。まだ入学して一ヶ月ちょっとじゃん? これから体育祭だってあるしタイミングは幾らでもあるからさ?」

「ありがとう。少しの間、考えてみるね」

「おう! 決まったらいつでも言って。俺でもいいし野依でもいいし」

「うん。ほんとにありがとうね」

「いいって! これからはさ、前みたいに気軽に話しかけてもいい?」

「勿論! 大歓迎だよ」


 嬉しそうな笑みを浮かべた立花くんと別れ、私は帰路で考えた。


 元の関係に戻りたいかどうか。一番に言えることは優吾くんのことを吹っ切れたらすぐに戻れるだろう。むしろ戻りたいだろう。優吾くんはとても良い人だし大きな喧嘩して気まずくなってるわけじゃない。今の関係だって優吾くんが私を心配してくれたからこうなっただけで。


 優吾くんは吉柳くんと同じ中学だったから全部知ってるんだろう。多分仲良かっただろうし。そんな優吾くんに私は逆ギレしただけ。子供みたいに、私は貴方の何なのって。彼女がいるから構わないほうがいいって。言いたくもないこと言って傷つけた。


 本当に、私は何してるんだろう。





「それでは体育祭の種目決めをします! 全員一種目は出てもらいますよ~」


 翌日。体育祭の種目決めの時間がやってきた。全部で十種目あるので私は何にするか迷っていた。運動が苦手なわけではないが進んでするタイプでもないので余ったものにしようかなーなんてお気楽なことを考えていると立花くんが勢いよく手をあげた。


「俺! リレーがいいです!」

「お! 流石陽太!」

「なら私も!」


 立花くんは学年リレーに立候補していた。たしか中学の時柔道部だったよね? 運動神経も良さそうだし適任だろう。そこからはとんとん拍子に決まっていって、私はあまりものの借り人競争と出ることになった。借り物じゃなくて借り人って、私大丈夫かな?


 ちなみに立花くんは学年リレーと学年別棒倒し。野依は障害物リレー。あと優吾くんは立花くんと同じ学年リレーに出ることになった。


「あとは応援団! クラスから男女二人出てもらいます! 応援団は色別だから他の学年の人と一緒にやるからね~さて、どうやって決める?」


 体育祭は学年、そして色で分けられていた。色は一、二組は赤。三、四組は青。五、六組は黄色。私達は二組なので赤色だ。そういえば吉柳くんは一組だったから一緒の団だ。水無月さんは青。私は二人が違う団であることに安心した。朱音先輩情報では団はテントが一緒らしいのでずっと一緒にいることができる。そんな姿を間近で見ることにまだ耐えられそうになかった。


「はーい! 私優吾くんがいいと思います!」

「私も‼」

「え。俺? 俺別にそういうタイプじゃ……」

「じゃ男子の一人目は榊原ね! 立候補制もなんだし投票制にするか!」


 先生ここでそれは酷いと思います。私はあげられる名前を聞きながら心の中で抗議した。女子は優吾くんが決まっちゃったから自分がなるために必死で男子は楽しそうにあと一人決めていた。


 少し離れた場所にいる野依もどんどんうるさくなる声にうんざりしていた。そんな時、優吾くんが声をあげた。


「俺、女子は加藤さんと日和ちゃんがいいと思います」

「え?」

「ちょっと! 私達二人には応援団は荷が重いんじゃない⁉」

「二人とも運動神経悪くないし先輩たちとだって上手くできると思うし、いいよね?」

「でも……」

「そこの二人がするなら男子のもう一人は俺だな!」

「ひ、日和の意見無視しちゃってるじゃん! 日和はどうなの?」


 クラス全員の視線が集まる。どうしよう。立花くんは懇願するような目をしているし野依は心配している。もし私が無理だって言っても大丈夫なように保険だってかけてくれた。でも優吾くんはどんな顔しているか分からない。彼が言いだしたことなのに真意が分からなかった。


 でも、私は元の関係に戻したい。傷つけたみんなのために。そう思えば返事は一つだけ。


「私は大丈夫だよ。種目も一個だけだし」

「なら応援団は榊原、立花、加藤、斎藤の四人で決まりだな! 明日の放課後集まりがあるから忘れるなよ~」


 私の一言であっさり決まり、応援団は元の仲良かった四人になった。立花くんは満足そうな顔をし椅子に座る。そんな立花くんを野依は睨んでいた。余計なことをするな、と言いたげだ。そんな二人を眺めていると肩をとんとんと叩かれた。


「日和ちゃん。応援団、頑張ろうね?」

「……うん」


 私はあの事があっても尚、普通に話しかけてくれる優吾くんにドキドキしてしまっていた。


 このままの調子で元の関係に戻れるのか不安なのと、また二人で話すことができるかもしれない嬉しさで感情は入り混じっていた。

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