手紙
読めば分かる。父の言葉は正しかった。
『尊きクラクスン家の今の当主様へ。
突然の無礼をお許しください。
私は、クラクスン家のご息女に恋をしてしまいました。
その方の名は、アメリ。貴方の愛娘です。
私は、彼女を王家に迎えたい。
彼女を王妃とし、より良い国を作っていきたいと思っています。
どうか、私と彼女の婚約を認めていただけませんか。
私が望むのは、彼女の事だけ。
分不相応な益を得ようとは思っていません。
全て、貴方のご判断に任せます。
ライウス・クローヴァーより』
ライウスは分かっていない。それはそうだろう。アメリは彼に、何も伝えていないのだから。
(お父様は、婚約破棄の理由を話しても良いと仰っていたけれど……本当に、大丈夫かしら)
ライウスは、玉座を得たいと思っている。そのために、アメリを……クラクスンの家を、利用するつもりなのだろう。
(この手紙を読んだのだから、お父様もライウス様の意図には気づかれたはずよね。……もしかして、それでもいいと思っているの?)
クラクスン家と王家の結びつきは強い。それを利用しようとしたものは、ライウスだけではなかった。その全てを乗り越えて、クラクスン家は昔から変わらずに在り続けている。直系の子供も絶えたことがなく、他の貴族からは羨望と嫉妬の眼差しが向けられ続けている。
(確かに、滅多なことでは揺るがないような家になったかもしれないけれど。だからといって、油断はできない。隙を見せれば、クラクスン家が危うくなる。……私の代で家を終わらせるわけにはいかない)
巻いてある紙を切り取って、ペンを走らせる。余計なことを書かないように注意しながら、ライウスへの返事を書く。
『ライウス・クローヴァー殿下へ。
どうしてそんなに想っていただけるのでしょうか。
私は、リアム様に見限られたのです。
全ては私が至らなかったから。
私はそれを理解し、受け入れています。
次代の王の妻となれるような女ではないと。
ですが、クラクスンの血を絶やすことはできません。
私はこの家に残り、相応しい方を夫として、血を残します。
聡明な貴方であれば、この意味はお分かりでしょう。
私のことを想ってくださるのであれば、受け入れてください。
私は、婿として共に家を支えてくださる方を探しているのです。
貴方は私などには勿体ないほど素晴らしい方です。
どうか私のことなど忘れ、他の方と幸せになってください。
アメリ・クラクスンより』
書き終えた手紙に封をして、アメリは侍女を呼びつけた。何も知らない侍女は、渡された手紙に疑いを持たず、他の多くの手紙と同じように扱った。