家での一幕
秋も深まってきた頃。クラクスン家の当主から呼び出されて、アメリは彼の私室へと向かった。
「失礼します」
声をかけて、扉を開ける。当主である実の父は、穏やかな笑顔でアメリを迎えた。
「よく来たね、アメリ。実は、君に縁談の話が来ているんだ。お相手は、第2王子のライウス様なのだけど……君は、どうしたい?」
「ライウス様がクラクスン家の婿として相応しいとお思いなら、私に確認などせずにお受けください。そうでないのなら、お断りのご連絡を。全て、お父様のご判断にお任せします」
表情を変えずに言いきるアメリに、父は苦笑を浮かべて告げた。
「ライウス様は王家の方だし、問題はないと思うけれど……アメリ。彼と、何かあったの?」
「告白されました」
「うん。お願いだから、順を追って話してくれないかな。ちょっと、思考が追いつかないから……」
頭を抱える父を見ながら、アメリはこれまでの経緯を説明した。父は話を聞き終わると、近くにあった椅子を引いて腰かけた。
「君も座りなさい」
促されたとおりに椅子に座ると、父はアメリに1通の手紙を差し出した。
「これが、ライウス様から送られてきた手紙だよ。読めば分かると思うけど、君とライウス様の間には、致命的なすれ違いがある。君のことだから、どうせ何も説明していないのだろう? 許可は出すから、自分の言葉で伝えなさい。リアム様との婚約を破棄した理由も、君がこれからどうしたいのかも、全て。婚約を進めるかどうかは、その後に決めることだよ」
手紙を受け取って、アメリは椅子から立ち上がった。
「分かりましたわ、お父様。すぐに返事を書いてきます」
そう言って、彼女は部屋から出ていった。残された父親は、彼女が去っていった方を見ながら呟いた。
「どこで育て方を間違ったのかな……我が家の娘たちは2人とも、幸せを見つけるのが下手になってしまったよ。……やっぱり、リディアに戻ってきてもらうべきなのかなぁ。でも、あの子たちが気にしてしまうかもしれないし……」
貴族には、領地がある。クラクスン家の場合は、シェンラウ国の南側にある広い土地がそうだ。他の多くの家は王都を離れることを嫌がって、領地の管理をその土地の人間に任せきりにしている。だが、クラクスン家の人間にとって、領地とは故郷のようなもの。子供の頃から折に触れて訪れる、慣れ親しんだ場所だった。アメリの母にとってもそうだ。彼女は今も、年老いた彼女の母(アメリの母方の祖母に当たる)と共に、南の土地で暮らしている。
「ねえ、リディア。僕は、どうすればいいんだろうね?」
届かないと分かっている。それでも彼は、妻に向かって呼びかけた。