昼のお茶会
クラクスン家に、子供は2人。どちらも女性。だからこそ、王家に嫁ぐ娘がどちらでも、家にとっては大した違いではない。
「お姉様は、お元気かしら?」
昼を少し過ぎた頃。王宮の中庭で、ジュリアは王妃と向かい合って、お茶を飲んでいた。
「リアムのワガママにも困ったものだわ。王族の婚姻なのだから、割り切ってほしかったのだけれど……。少し、甘やかせすぎたのかしら」
「王妃様。お気になさらないでください。クラクスン家の娘と婚約するのなら、相手は私でもお姉様でも構わない。そう私に教えてくださったのは、他でもないお姉様です」
「……そう。アメリは本当に、優しい子ね」
王妃は目を細めて、庭園に咲き誇る金色の花を見ながら言った。
「あの子もあなたも、私にとっては娘も同然。ですから、アメリが後悔していないのなら、この話はこれで終わりです。ジュリア。これからは、あなたがリアムを支えてあげてね」
「はい、王妃様」
強い日差しが差し込む庭で、ジュリアは美しい微笑みを浮かべて頷いた。と、その時。誰かの視線を感じて、ジュリアは王妃に悟られないように目だけを動かして周囲を見た。視界の端。王宮の廊下から、こちらを見ている人がいる。
(あれは……ライウス様?)
彼はジュリアが見ていることに気がつくと、すぐにその場から立ち去った。
(リアム様と婚約するまで、私は誰とも縁を結んでいなかった。血筋が目当てなら、私でも良いはず。だけどライウス様は、私と関わろうとなさることもなかった。なのに、どうして今になって、お姉様を気にするの?)
ライウスが居た場所に目を向けたまま、思考しようとして。
「ジュリア? どうかしたの?」
王妃から声をかけられて、ジュリアはそちらに意識を向けた。
「いえ……見慣れない花があるような気がいたしまして。ですが、どうやら私の気のせいだったようですわ」
「あら。あなたが花の名前を思い出せないなんて、珍しいこともあるものね。せっかくだから、分からない花があるのなら、私が教えてあげるわ」
「ありがとうございます、王妃様」
ジュリアはライウスのことを意識の隅に追いやって、王妃との会話に集中した。どのみち、今の自分が気にしても、仕方のないことだから。
(秋の夜会まで、あと半年。その日が来たら、お姉様はどうなさるおつもりなのかしら)
妾の子ではあるけれど、王子は王子。縁を結べるのであれば、それに越したことはない。
(それに、もしもそういったお話だとしたら……断るのも、少し難しいような気がするけれど。それともお姉様は、誰が聞いても納得するような理由を、既に見つけていらっしゃるの?)
王妃の話に相槌を打ちながら、ジュリアは姉のことに思いを馳せた。