ねこねここねこ(中編)
メイド達がそれぞれの胸に抱くのは、小さなブルーグレーの毛玉。
リゼットが食い入るように見つめる先で、毛玉達がもぞもぞと動く。
と、大きな三角の耳がぴょこんと立ち上がった。
淡いブルーの瞳がくりんと開く。
それから毛玉はニャアと小さく声を上げた。
「こ、子猫ちゃん……⁉」
リゼットは両手で口を覆い、キラキラと目を輝かせた。
マカロンによく似たブルーグレーの子猫。なんとそれが三匹もいるのだ。
「マカロンの子ども達ですの。この春にお見合いをしまして。ふふっ、とっても可愛いでしょう?」
膝の上のマカロンを撫でながら、セリアが得意げに微笑む。
興奮に頬を染め、リゼットはコクコクと何度もうなずいた。まさかこんなサプライズが用意されていたなんて。
「かっ、可愛いです! 可愛すぎますっ! あ、あのっ、抱っこさせて頂いても……!?」
「もちろんですとも!」
ドキドキしつつ、メイドの一人が差し出す子猫に手をのばす。
猫の扱いにはそれなりに慣れているつもりだけれど、これまでリゼットが接してきた猫達は充分に育った成猫ばかり。子猫に触れた経験はほとんどない。期待で胸が高鳴る。
子猫は真ん丸の目でじっとリゼットの顔を見ていたが、大人しくリゼットの腕に納まった。
「ふわぁ……小さい……柔らかい……!」
生後四ヵ月だという子猫は、赤ちゃんと呼ぶほど小さいわけではない。けれどやはり大人の猫とは全く違っていた。
小柄な体に丸っこい頭。三角の大きな耳と、これまた大きな目があどけない。そっと膝の上に下ろすと、子猫はリゼットの指先にフンフンと鼻先を寄せてから、ひょろりとした尻尾を垂らして丸くなった。
「か、可愛いっ……! いのちっ……いのちを感じます……っ!」
ドレス越しに感じる子猫の体温。華奢で柔らかな背中を優しく撫でながら、リゼットは胸に込み上げる愛おしさに見悶えした。
「まあ……神経質なショコラちゃんがこんなに大人しくしてるなんて。マカロンの時も思ったのですけど、リゼット様って猫に好かれやすいみたいですわ」
「そうなのでしょうか? そうだとしたら嬉しいですけれど……わっ」
リゼットが思わず声を上げたのは、別の子猫がもう一匹、リゼットの膝の上に飛び乗ってきたからだった。
先にいた子猫――ショコラが軽い猫パンチを繰り出したのを合図に、二匹はリゼットの膝の上でじゃれ合うように取っ組み合いを始める。
やがて二匹は揃って膝から飛び降り、そこに最後の一匹も加わって、子猫三匹での賑やかな追いかけっこが始まった。
「あぁ、やっぱり始まってしまいましたわ……。いつもこうなのです。騒がしくてごめんなさいね」
セリアが謝罪の言葉を口にするが、そんなことで気を悪くするリゼットではない。元気いっぱいにじゃれ合う子猫達を見ているだけでにこにこしてしまう。
そんなリゼットを見て、セリアが良いことを思いついたといった様子で両手を合わせた。
「そうだわ、リゼット様。実は、この子達の引き取り手を探しているところで……。リゼット様のところでも一匹どうかしらと思っているのですけれど」
「えっ、子猫ちゃんを!?」
リゼットはパッと顔を輝かせる。
目を閉じて、子猫がいる生活を想像してみた。
朝も昼も夜もブルーグレーの小さな毛玉ちゃんと過ごす日々。
子猫だからきっとお世話で苦労することもあるだろうけど、それを引っくるめて最高だ。最高以外の感想が浮かんでこない。
けれど……。
「とっても素敵なお申し出なのですけど、我が家で引き取るのはちょっと難しくて……」
リゼットはしょんぼりと眉尻を下げる。
黒猫の呪いが解けて間もない頃、普通の猫を飼うことをアルベールに提案して、遠回しに却下されたことがあるのだ。
『いや、しかし、だな。猫ならその、俺も毎晩一旦は黒猫の姿になるわけで……。他の猫が屋敷に住むとなると、反応が気になるというか……』
『あ……そうですよね。普通の猫さんがアルに会った時にどういう反応をするのか分かりませんものね……』
ゴニョゴニョと歯切れの悪いアルベールに、リゼットは神妙な顔で応える。
猫同士にも、相性があると聞く。
もしもアルとの相性が悪かったときのことを考えると、軽々しく猫を引き取るわけにはいかない。
その上、
『君が望むなら、今後も時々黒猫姿で過ごす時間を作ろう。それで我慢してもらえないだろうか……?』
と、懇願するように言われてしまっては、リゼットもそれ以上猫を飼いたいとは言えなかった。
(旦那様、他の猫さんとの同居がそんなに不安でいらっしゃるのね。我慢だなんて、私の方こそ旦那様に我慢を強いるわけにはいかないわ……!)
……本当のところ、アルベールが気にしているのは「他の猫を前にした時のリゼットの反応」であり、リゼットの愛猫の座を他の猫に奪われることを危惧しているのだが、そんなこととは夢にも思わないリゼットなのだった。
家で子猫を飼えないならば、もふる機会は逃すべからず。
というわけでリゼットは、セリアの家で思う存分子猫達と遊ばせてもらった。
アルやレオポルトも猫じゃらしの反応は良いが、子猫達が猫じゃらしを追いかける姿の愛らしさはまた格別である。
リゼットのデイドレスのスカートがひらひら揺れるのに反応するのも楽しい。
そのうち、一匹はリゼットの膝の上で、一匹は隣にぴたりとくっついて、もう一匹はスカートの中でそれぞれ丸くなってお昼寝を始めた。身動きが取れないまま、幸せな不自由を満喫したリゼットなのだった。
マカロンちゃんはロシアンブルーをイメージした猫さんです(異世界なので、作中でロシアンブルーです!とは書けませんが)。
もう少しだけ、後編に続きます。
後編にはアルベールも登場しますので、引き続きご覧頂けると嬉しいです♪




