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24/25

このキスは実験です

5/23は「キスの日」と聞きまして……。

時系列としては、黒猫の正体が判明した2日後の夜になります。

「それじゃいくわよ、アル」

「ニャ!」


 キリッとした顔で宣言し、リゼットは厳かに黒猫の額に口づけた。

 唇を離し、膝に抱いた黒猫としばし無言で見つめ合う。

 心の中でたっぷり十数え、何も起きないのを確認して小さくため息をついた。


「……予想はしていたけど、やっぱりおでこじゃ駄目みたいね」

「ニャウ……」


 黒猫もしょんぼりと尻尾を垂れる。

 時刻は夜更け。場所は夫婦の寝室である。


 黒猫のアルの正体が夫アルベールだとわかったのは二日前のこと。

 猫の呪いはすっかり解けたかに思えたのだが、残念ながらアルベールは翌日も日没と共に黒猫の姿になってしまった。

 夕方、黒猫が大騒ぎしながら部屋に駆け込んできたときには、驚きのあまり、今夜は初夜のやり直し……とドキドキそわそわしていた気持ちが一気に吹き飛んだ。

 前日のことを思い出し、黒猫の口にチョンとキスをしてみたところ、たちまちアルベールの姿に戻ることができ、無事に初夜はまっとうできたものの……。


「リゼット、もし今夜も猫になってしまうようなら、少し実験に付き合ってほしい。解呪の条件を知りたい」


 翌日、アルベールがそう言い出したは当然のことで、リゼットも「承知しました!」と意気込んだ。

 そんなやり取りをしたのが、今日の昼間のことである。

 その夜。やはりアルベールは、日没と共に黒猫の姿になった。


 そして始まった「実験」は、どんなキスで呪いが解けるのかを確認するためのものだった。

 ふわふわもふもふの黒猫を膝に抱き、人間に戻ったときに備えてバスローブで軽く包み、準備は完了。

 まずは額に口づけてみたのだが、残念ながら効果は見られなかった。


「次はほっぺね」


 長いヒゲが頬に当たるのをくすぐったく感じながら、黒猫の頬にちゅっと口づける。


「ニャン……」


 やはり効果はない。

 目に見えてしょんぼりする黒猫を見たリゼットの心に火がついた。


「こうなったら、お口は最後に取っておいて、隅々まで試してみるわよ!」

「ニャン!?」


 夜着の袖をぐいっとまくり、若干腰の引けた黒猫を抱え直すと、ピンと立った三角の耳、首筋、丸い前脚の先に次々と口づける。


「ふふっ、アルはどこもかしこも可愛いわね。……でもやっぱり効果はないみたい」


 続いて背中を背骨に添って、頭側から尻尾側に向かって順々に口づけていく。途中、もふもふの誘惑に負けて尻尾の付け根にすり、と頬ずりすると、黒猫がぶるると身震いをした。


「尻尾、触るわね」


 一言断りを入れてから、長い尻尾にも根元から先に向けてちゅっちゅっと口づけを落とす。尻尾を触ってしまったせいか、黒猫はピシリと固まっている。


「やっぱり駄目みたい。あとは……お腹ね」

「ウニャッ!?」


 固まったままの黒猫を、くるりと仰向けにする。

 真ん丸の目とふわふわの腹毛に思わずゆるみかけた頬を、きゅっと引き締めた。


「アル、おとなしくしていてね。これは実験なんだから」


 胸のあたりにちゅっ。


「うにゃ……」


 ふわふわの毛が顔に触れ、ほわんと幸せな気持ちになる。

 少し下がってお腹にもちゅっ、ちゅっ。


「にゃ……にゃう……」


 さらにもう少し下にと顔をずらそうとしたとき、固まっていた黒猫が突然くるりと反転した。


「あっ……」


 動かないでと抗議しようとしたリゼットの口を塞ぐように、黒猫がちゅっとリゼットの唇にキスをした。

 たちまち人間の姿に戻ったアルベールの顔はほんのりと赤く染まっていた。


「旦那様、まだ途中でしたのに」


 こちらも真っ赤に染まった顔をそむけながら、リゼットは素っ裸の夫にバスローブを差し出す。


「いやもう十分だ……。どうやら唇同士のキスでないと呪いは解けないらしいな」

 

 素早くバスローブを羽織り、アルベールはリゼットの隣に腰掛けた。包み込むように抱き込まれ、心臓がドキリと跳ねる。


「ところでリゼット、もう一つ実験をしてみたいんだけど」


 おでこが触れ合いそうなほどの距離で、金色の瞳が炎のようにきらめく。


「実験、ですか……?」

「うん。たくさんキスをしたら、解呪の効果が一晩よりもっと長く続いたりしないかな、っていう実験。付き合ってくれる?」

「はい、そういうことでしたらもちろ……んっ」


 言い終える前に熱い唇が重なった。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と触れるだけのキス。

 それから頭の芯が痺れるような深いキスを、何度も、繰り返し。


「あの……だんな、さま、こんなに……?」


 ぷはっと息を継ぎ、涙目で見上げると、美しい微笑みが返ってきた。


「このキスは実験だから」


 もう何度目かわからない深いキスが、リゼットの思考を溶かしていく。

 その夜リゼットは、ふにゃりと体がとろけるまで、何度も甘い口づけを受け続けたのだった。

お読み頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 隅々まで、て……リゼット、無自覚すぎません? いいぞもっとやれ。
[良い点] 可愛い2人のやりとりが見れた番外編でほんわかしました。 お腹から下にちゅってアルベルト恥ずかしくなりますよね(о´∀`о)。 [一言] また番外編楽しみにしてます♪
[良い点] 更新に気付かず、今朝、前話まで読んでいたので、え?!24話!と、仕事の昼休みに拝読しました〜旦那様が猫っていいですよねえ。 かわいい二人に癒やされました~ 二人の子供にも呪いがうつるのか、…
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