prologue
Vatte ti vat
Vatte ti vat
Vatte ti vatghur!
「みんな、降ってきましたよ」
一気に歌が止まり、みな窓に駆け寄った。寒い日だというのに、窓を開けて小さな手に白い粒を掴もうとする。手に乗せたその瞬間から、雪は消えてしまった。儚い、冷たいと盛り上がる子どもたちを、部屋の隅で優しく見つめていた。そっと、一人の少女がホットココアを差し出した。
「良かった、ホワイトクリスマスになりましたね」
「マリア。ありがとう、皆の期待に答えられて良かった」
美しい微笑み、優しい声音。この美少女とはもうすぐで半年になる。
差し出しされたホットココアを受け取ると、美少女は漆黒に輝く長い髪を揺らして他の子どもたちと一緒に雪を眺め始めた。
ホットココアが甘い。渦巻く茶白を見つめる。不思議な感覚が私を襲った。
「ママ、大丈夫?顔色悪いよ」
ミネットは……1年。いや8ヶ月だ。頬のそばかすがとても似合っていた。
「ミネット、もう窓を閉めよう。皆の事を思いやるって毎朝、神に誓ってるだろう」
ああ私は大丈夫よ、と口に出す気力すらなくなってくる。……大丈夫よ心配しないで。お願い、ヴァイオレット、そんな瞳で私を見つめないで。
ゆっくりと席を立つ。気分が悪くなって、吐き気が込み上げてくる。私は勢いよく席を立った。
「きゃっ」
マリアがか細い悲鳴を上げた。ホットココアごと、マグカップが床にたたきつけられた。子どもたちにぶつかりながら、無我夢中で外に飛び出す。芯から凍えそうな風が私の体を冷やしていく。足を取られて少し積もった雪の上に倒れこんだ。目の前は真っ白で、空は真っ黒で。そしてようやく私は冷静を取り戻すのだった。
一体いつからこの雪を見てきたのか、いつまで見ていられるのか。
今年50を迎える聖母は、最近そんな事ばかり考えている。