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世界樹の神子は微笑む〜花咲くまでの春夏秋冬  作者: 宮城の小鳥


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63 遅い出立と早急な対処

 エルーシアは目を覚ますと、マントに包まれて布団を掛けられていることから、青ざめた。記憶が途切れて、置かれた状況の把握はできないが、昨夜の醜態(しゅうたい)を思い出したのだ。

 青ざめた顔で部屋を見まわし、割り当てられた寝室ではないことに息をのむ。


 目の前にあるソファは濃藍色のベルベットだが、着替えの入った鞄を乗せたソファは、艶やかな茶色の革張りだったはず――誰の部屋にいるのかと焦るが、サイドテーブルのメモ書きに気づき、手に取って胸を()で下ろした。

 クロードの筆跡で、昨夜の無断外出や食事についての小言が書かれてあり、ゆっくり話しましょうと締められている。


 また迷惑をかけてしまったが、取りあえず誰のベッドで寝ていたのかは理解でき、メモ書きとともに置かれた合鍵を持って立ち上がり、急いで自室に向かう。

 日の高さからすると、出立時間はすでに過ぎているから。



 身支度を整えて階下の食堂に顔を出すと、準備を終えた騎士たちが数人、ロズを囲んで昔話で時を潰していた。

 いつ出立するか分からないから、ここか宿の表で待機するしかないのだ。


「昔の補充隊員は、正規隊員の穴埋めじゃなかったんだ。遠征の数には入れないで、伝達とかが主だったんだぞ」

「連絡板がなかったし、補充隊員は使い走りだな。ロズみたいにずっと同行なんて、俺たちの時代にはなかったぞ」

「三年も補充隊員をしたけど予定外も多くてな、村や町に先乗りして、あちこちに説明したり、宿の手配をしたりと大変だったぞ」

「自分は運がいいんですね。あっ、神子様。もう体調は大丈夫なんでしょうか?」

「皆に心配をかけちゃいましたね、すみません。もう大丈夫です」


 ルークやクロードの姿は食堂内にはなく、安堵(あんど)か落胆か、小さなため息とともに、エルーシアはロズの前に腰を下ろした。

 手のミトンをはずして状態を診ると告げ、遅くなったことも謝罪する。


「神子様もお疲れなんですよね。自分は大丈夫ですが、遠征って大変ですね」

「私がまだ未熟なだけです。私的な問題や体調で、皆にまで迷惑をかけてすみません」

「あの、エルーシア様……謝りすぎです。戻ってますよ」

「……守ってくれて、ありがとうございます」


 ロズの手のひらを確認するエルーシアから距離をとり、騎士たちは顔を見合わせ、ぽそぽそと相談する。

「やっぱり気落ちしてるな」

「今はそっとしておくか」

「隊長に任せておくべきだろ」


 食堂にクロードも入室し、手のひらの経過は良好との診断に(うなず)き、復帰後すぐに剣を握り魔法も扱えるようにと、癒しの魔力をあと一日満たすと決め、ロズの昏睡とともに一行(いっこう)は村をあとにした。

 遅い出立であったが、午前の進行ルートに瘴気はわずかで、魔物の出現も少なくて程々に距離を進むことができ、小川がさらさら流れる心地のよい草原近くで、馬たちの脚を止めた――昼休憩である。


 エルーシアが降りるより先に、竹カゴを手に持ったクロードは御者台に素早く乗り込み、待ってましたとばかりに食の細さに小言を炸裂(さくれつ)させた。

 出立と同時に、御者台でシードパンをちまちま食べていたので、空腹感はないが、渡された竹カゴはあける――ここは素直に従うべきところだ。


 ローストポークとチーズのホットサンドが詰められた騎士たちの昼食とは違い、クルルと同じく、リンゴや春のベリー、カットチーズで用意されているのが救いか。マコンが、食の細くなったエルーシアに気を使ったのだろう。


「食の細いときに睡眠不足の身でうろうろすれば、どうなるのかなんて、私より詳しく知っていますよね。せめて半分は食べてください」


 癒し手であり、医療を学んだ身としては耳の痛い話だ。果物をつまみながら頷くことしかできない。


「あなたが何を悩み、何を考えて選択しようと、デルミーラはすべてを受け入れます。私もそうありたいとは思いますが、身を危険にさらす行為は(つつし)んでください」

「外壁を越えただけで、クルルが一緒だから――」

「クルルは槍を持っていませんでした。魔物よけは完璧ではないんですよ、魔物は時と場所を選びません。それに、気を失ったんです。そんなときに襲われたらどうするんですか、ルークがいて助かりましたよ」


 エルーシアは、ちらりと小川の脇へと視線を向ける――ルークと騎士たちが輪になり、春の暖かさを身に受けながら昼食をとっている。

 ルークにも礼と謝罪をしたいところであるが、起きてからまだ話す機会はなく、考えるだけで決まりの悪さに包まれて、顔が自然と下を向く。


「すみません……ルークにも恥ずかしいところを見せて、迷惑をかけました」

「悩むのは仕方がないです。人とは、そういうものですから。ですが、デルミーラの愛は疑わないでください。あなたは、生きる意味でした。どんな感情も、申し訳ないと思う気持ちも、彼女はすべて受け入れます」

「……でも、守れなかったわ」

「アイン隊長たちが生きて戻れたのは、二人で守ったからですよ。デルミーラは運命を受け入れて去ったんです。後悔で下を向くより、空に笑顔を向けてください」


 亡くなった者の魂は、世界樹のマナに包まれて空を漂うと語り継がれている。

 前世を夢に見る者は、命を落としてから生まれ変わるまで、十年以上も時の隔たりがあるからだ。その間、残してきた者たちを空から見守っていると信じられている――不思議な世界だ、きっと真実だろう。


 エルーシアは雲の流れる青空を見上げた。上手く笑顔になれる気はしないが、デルミーラが恋しくて。

 隣で、クロードも前髪をかきあげて続く。



 少し時を(さかのぼ)り、昼休憩が始まって、竹カゴを持ったジェイが小川の脇に腰を下ろすと、隣にルークが続いた。

 近くにいれば会話はするし、剣の指南もしているが、わざわざルークのほうから寄ってくることは珍しい。が、気の置けない仲間同士でつるむのが好きなジェイは、とくに深く考えることもなく笑顔で迎えた。


「なんだ、ロズが寝てて寂しくなったか?抱きしめてやろうか」

「……あんたは、何を考えているんだ」

「ウィノラのことに決まってるだろ。今朝、ロズを抱えてからウィノラを思い出して、なんか抱きしめたいんだよな」

「……あ?どういう意味だ」

「ルーク、ジェイの思考回路を考えるのはやめろ。飛んでるから理解できないぞ」


 騎士たちが竹カゴを手にして輪になり始め、自然とルークとジェイも加わっている。


「隊長はエルーシア様のところに行ったから、ジェイに聞きたいことがあるんだ」

「おう、俺に質問か。なんだ?」

「出立の前、隊長と一緒に、こっちの第三騎士団の奴らと会ってただろ」

「ああ、アイン隊長が寄越してきたからな。大体の引き継ぎはしてきたぜ」

「あいつ以外も誰か罪になりそうか?」

「いや。偽造や他人の本人確認カードなんて、小さな村じゃ確認もできないからな。村長たちも騙されてたなら、罪にならないだろ」

「じゃあ、捕まるのはあいつ一人だけか」


 オアマンドの捕縛や村についての確認が続き、同じく(たず)ねたいことのあったルークはタイミングを逃し、ホットサンドを頬張りながら騎士たちの会話に耳を傾け、時折(ときおり)馬車へと視線を向けた。

 風向きのせいで二人の会話は拾えないが、竹カゴから何かをつまんで食べている様子に、そっと胸を撫で下ろし、エルーシアのために何をすればいいのか思いを巡らせる。


 皆が竹カゴを(から)にすると、この日の昼休憩は終わりを告げた。出立が遅れたので急がねば、野営地である目的の箱小屋(はこごや)への到着も遅くなるからだ。

 腰を上げて歩き出す中、ジェイがルークの肩を叩いて呼び止めた。なんの用かと疑問を胸に振り返ると、笑顔を向けられる。


「そろそろ俺も名で呼んでくれ。剣の指南をしてるから、先生とか師匠とかでもいいぜ」

「……ジェイ、行くぞ」


 ※ ※ ※ ※


 箱小屋に到着すると、馬を大事に扱うクロードとしては珍しいことに、馬の世話より先に荷降ろし作業を終わらせるよう指示を出し、就寝用の小屋に荷が運び込まれた直後、エルーシアとルークを呼んだ。

 立ち入らないよう騎士たちに告げ、目隠しの布で表側を覆い、真剣な眼差しを二人に向ける。


「治療してもらいたい傷痕が、ルークにあることが判明しました。ルーク、話してもいいですよね」


 エルーシアに知らせるより前に承諾を得たかったが、時間やタイミングが合わなかった。しかし、このことは早急な対処が必要だと判断している――命がかかった問題なのだ。

 事後承諾となるが、朝のうちに心を決めていたルークは頷き、ただならぬ空気に、エルーシアは居心地の悪さよりも不安がかき立てられ、眉をひそめた。


 雑多に置いた木箱や、取り出された寝袋が重なる入り口から奥に移動し、ルークは昨夜と同じくシャツを脱ぎ始めた。

 異性の体も治療などで見慣れてはいるものの、秘めた想いを寄せる相手であり、いきなりのことにエルーシアは思わず視線を()らしたが、ゆっくりと息を吐いて、騒ぎ出した鼓動を落ち着かせる。


 小屋の外から馬の繋ぎ場を設置する音や、馬車を移動する音が聞こえる中、ルークは腰に巻いた幅広の包帯を手慣れた様子で巻き取り、左脇腹の傷痕を完全にさらけ出した。

 視界の(はし)で手の動きを読み取っていたエルーシアは、脇腹に視線を移すと同時に、衝撃から目を見開き、あり得ないとの気持ちで首を振る。驚きすぎて、声も出ない。

 

「人買いに、つけられたそうです」

「八つのときだ。これの詳細は分かるか?」


 ルークの左脇腹にある、赤く腫れた円形の火傷(やけど)痕――怪我としては治っているが、何かしらの効力をもったエルフの魔法文字が、複雑な模様のように円の中に刻まれている。

 それは、亡国ベテルから生まれて、国とともに滅びたはずの、奴隷紋。


設定小話

どうでもいい設定ですが、買い出しと入浴のため、村と箱小屋を交互に泊まってます

村に着くたび、未知の食材を求めてマコンは買い出しを張り切る

騎士たちも討伐や移動で汗をかくし、一夜くらい我慢できても連続は……エルーシアも二日入浴なしは、つらいでしょう


※3/27 62話を読み直してモヤモヤして、一文変えました。申し訳ありません。

ルークの朝の行動)朝食を済ませて→食べそこねた夜食を持って


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