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世界樹の神子は微笑む〜花咲くまでの春夏秋冬  作者: 宮城の小鳥


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49 戦技を増やしましょう

 朝、エルーシアがクルルを抱えて別館に入ると、玄関ホールの脇で、ジェイが腰を(かが)めて箱を(のぞ)き込んでいた。が、現れたのが誰か気がついて、手招きする。


「エルーシア……様に、贈り物が届いてるぜ」

「アリッサから?」

「いや。ルークの服が届いて中の確認をしたら、一緒に入ってた。服屋の店主からみたいだぜ。今、隊長を呼んでる」


 神子の側に不審物は持ち込めないので、届けられた荷はすべて確認が必要である。神子宛なら厳重に。

 クロードは到着すると中身を(あらた)め、服の上に置かれていた手紙をエルーシアに渡した。


「不審な物でも不快な物でもないですね。お礼と感謝の言葉が(つづ)られていますよ、どうぞ」


 エルーシアは手紙を一読し、即クロードに返す。


「このことは一部の人しか知らないはずよ。なぜ、服屋の店主が知ってるのよ」

「おそらく……開発途中の連絡板を配ったから、それで助かったとのお礼ですよ。詳しく知る者はいないはずです」

「それでも、こんな高価な品は受け取れないから、お返しして」

「それでは執事に返却を頼んでおきます」


 ジェイは小さな宝石がちりばめられたブローチの入った小箱を手に、読みたい様子で手紙を見つめている。


「なんの話で、なんのお礼なんですか」

「ジェイ、補充隊員だったときのサイフの災害ですよ。広めたくないので、口はつぐみなさい」

「おう、あれか。分かりました、すみません」


 自身の服が届いたと聞き、確認のために側にきていたルークにも、クロードは視線と一緒に話をふる。


「説明のできない会話を聞かせてしまい、すみませんね。服は荷馬車で預かりますので、直しの確認を終えたらそこへ置いててください……話せるときがきたら、すべて説明しますよ。頑張ってくださいね」


 最後は小声でささやき、エルーシアの背中に手をまわしてクロードは食堂へと向かい。その手にかかる、まだ栗色を帯びた長い髪を見つめて、ルークは小さくため息をつく。

 渦巻く感情の答えなんか何も出せていない。不愉快な感情をかき立てられ、取るべき行動も見つかってはいない。ただ、触れることのできる手が羨ましく思える。


 ※ ※ ※ ※


 出かけていた雑務員二人も戻り、出立準備を整えると、見送りの執事に滞在中の礼を伝えて、一行は遠征を再開させた。

 再び国境を越えてアルニラム王国に入り、南街道を進行して、南西の国境の街を目指す。


 騎士やルークが、お馴染みの藍色狼(あいいろおおかみ)や、麻痺(まひ)毒を持つ毒針兎(どくばりうさぎ)などを討伐しつつ進む中――飛び跳ねながら毒霧を吐く、毒持ち跳栗鼠(はねりす)が現れるたびに、御者台から即座に槍を投げて討伐するのはクルル。

 その都度、槍を拾うために馬車は止まるが、素早い反応で毒の被害はなく、頼もしい使い魔の存在に騎士たちは感謝した。


栗鼠(りす)の魔物は許せないのかな?」

「同じ栗鼠なのに、世界樹のマナで使い魔になった者と、瘴気から生まれた魔物ってか」

「栗鼠に対して容赦(ようしゃ)ないよな。俺なんか、兎はペットを思い出して躊躇(ちゅうちょ)するんだよな」

「魔核をギラつかせて、牙も針も()いて襲ってくるのに、可愛いペットと同じに見えるのか?知の副隊長を見習えよ。攻撃魔法で一瞬だぞ」


 騎士たちが雑談に花を咲かせるのは、今夜の野営地である箱小屋(はこごや)に到着してからであり、もちろん会話を楽しんでいても手は動かす。

 野営準備が終わらないと、食事も遅くなるからだ。


 いつもと変わらない準備を(いそ)しむ光景だが、設置した繋ぎ場に馬を並べているとき、ルークの尻尾の毛がざわりと立った。

 エルーシアは馬たちに怪我はないか確認中で、何度も止まる馬車を運んだ労いか、クルルは馬にブラシをかけていたが、同じく何かを警戒して甲高く鳴いた。


 クロードは書類の入った木箱を手にしていたが、その場に置き捨てて急いでエルーシアの隣に走り、エルーシアは異変を探して辺りを見まわす。

 ルークは剣の(つか)に手をかけながらエルーシアを背後に(かば)い、神経を(とが)らせて、箱小屋の裏に広がる林に視線を固めた――異音を拾ったのだ。


「その奥に何かいるぞ」


 がさがさ枝をかき分ける音が近づき、皆が警戒する先から姿を現したのは、胸に黄色い紅葉(もみじ)模様(もよう)を一つ持つ、大きな黒い熊。(ひたい)に魔核はない、生息している生き物である。


「あっ、魔物じゃないな。隊長、どうしますか?」

「水球で追い払いましょうか」


 クロードが左手を軽く上げると、マコンがお腹を揺らしながら急いで駆け寄った。

 手に麻袋を握っているから、荷馬車で食材を見繕っていたようだが、クロードの足もとに座り込んで懇願(こんがん)を始める。


「待ってください、紅葉の熊ですよ。シチューにベーコンにジャーキー。とても美味しいと評判なんです」

「冬眠明けの野生の生き物は美味しくないと、以前あなたの口から聞きましたよ」

「でも紅葉の熊なんです、まだ食べたことがないんです。追い払っても、すぐにまた出てきますよ。クロード隊長お願いします、討伐してください。今夜は熊ステーキ!」


 這って出てきた熊は、自身の調理方法を並べ立てられてるとは理解していないだろうが、冬眠明けで食欲が旺盛な時期である。人や馬を目にした興奮から立ち上がり、咆哮(ほうこう)した。


「被害が他所(よそ)に向かうことも考えられますか……エルーシア、お願いします」

「すぐに、とどめを刺してね」


 エルーシアは数歩横にずれると、剣を構えるルークで見えなかった紅葉の熊の姿を確認して、右手を向けて(つぶや)く――ごめんなさいと、一言。

 立ち上がった熊は、まだ繋ぎ場に移動してない馬に狙いを定めたのか、また前脚を地面に下ろすと走り出した。しかし、すぐに前のめりに崩れて、その場で二転三転して脚をばたつかせた。


 狙われた恐怖から(あけ)の馬が騒ぎ始め、ロズやほかの騎士が駆け寄り、クロードは地面を一撫(ひとな)でして手のひらサイズの鋭い石槍をつくり出すと、数歩の距離まで近づいて急所を狙って投げる。

 石槍は熊の左胸に深く刺さり、その一投で討伐を終えた。


「ありがとうございます。未知の食材、未知の味。誰か、運ぶのを手伝ってくれ」


 満面の笑みになったマコンは騎士を捕まえて熊のもとに走り出し、クロードはエルーシアの隣に戻る。


「つらいですか」

「大丈夫よ、放っておいて被害が出るほうがつらいもの。出てきたのが深い森なら、追い払ったのにね」

「神子様。今のも、冒険者ギルドのときと同じ風魔法ですか?」


 ばたついていた熊から馬を守るためにか、抜刀(ばっとう)していたロズも近寄る――疑問は口にしろと告げられたから、もう質問に遠慮はしないし、エルーシアは風魔法の指南をすると口にしたから、堂々と聞きたいことは聞く。


「風魔法としては似てますね。大気の膜を張って、中の酸素を除きました」

「酸素、ですか。癒しの魔力は閉じ込めてないんでしょうか?」

「魔力を持たない生き物は、魔力酔いしないんです。魔力酔いは、自身の魔力と他者の魔力が混ざって、体内の魔力濃度が濃くなりすぎて起こりますので」

「だったら、魔力を持たない生き物は癒せないのか」


 すぐ近くで会話を聞いていたルークも、剣を仕舞って加わる。


「いえ、癒せますよ。体内に流しすぎた分は、(とど)まらずに放出されるんです。なので、魔力を持たない生き物で治療を習い始めるんです」

「流した魔力が放出?なんだか難しくて、自分には理解できそうにないです」

「癒しの魔力は独特ですからね。魔力も魔法も、まだ分からないことばかりですけど、少しずつ理解を深めればいいんです。風魔法としては――」

「魔法談議はここまでにして、野営準備に戻りますよ。馬たちが待っています」


 クロードは手を叩いて締めると、投げ出した木箱を拾いに向かい、エルーシアも続いてその場を離れるが、姿を目で追うルークが思わず手を伸ばし――ロズが慌てて、その手を掴んだ。


「ダメですよ」


 自然と手が動いたが、秘めた想いをロズにも見透かされていたのか。ルークは顔を強張(こわば)らせる。


「質問は、指南のときにしましょう。先に馬たちに飼い葉を与えないと」

「……ああ、そうだな」


 ※ ※ ※ ※


 マコンは張り切ったが、討伐したばかりの熊は血抜きなどの処理に時間がかかるため、泣く泣く諦めて、今夜は予定どおりのメニューを用意した。

 夕食を早々に済ませたロズは、風魔法の指南書を手に隊長のテーブル横を陣取って、エルーシアに指南を仰いだ――大気の膜については、まだ知識が足りないとの判断から、まずは指南書の理解を深めるのだ。


「この、逆風に向かって風を操るとき、真っすぐ風を生み出さないのは、なんでですか」

「風同士がぶつかって上手く操れないんです。風力が消失したり、向きを変えて分散したりもしますね。なので、渦をまとった風で逆風の流れに割り込んだり、逆風を弱めたりするんです。渦の向きで流れを取り込んだりもできるので――」


 同じテーブルで魔力を掴む指南を待つルークは、魔物図鑑を開くが耳に入る声が気になり、集中できずに同じページを(なが)めていた。それに目ざとく気づいたクロードは、学びの邪魔にならないのならと声をかける。


「今夜からは右手ではなく、左手で火炎を出しませんか」

「あ?左手で発動はしたことないぞ」

「だからですよ。左手で魔法の発動ができれば、利き手である右手から剣を離さずに済みます。右手は頭の大きさと威力を保っていますので、左手も訓練を始めましょう」

「暴発する危険があるんじゃないのか?」


 野営地を危険にさらすことを危惧してルークは眉間にシワを寄せるが、クロードは説得を続ける――今後の戦いの腕がかかっているのだ、折れたくない。


「慣れるまでは制御できずに、暴発も不発もありますよ。まだ魔力を掴みきっていないですからね。ですが、これほど制御できているなら魔力暴走は起こらないですし、対処もできますので安心してください」

「いつも対処だの安全だのと口にするが、本当に大丈夫なのか」

「亡国ベテルとの国境まで、半月もありません。戦技は多いほど頼もしいですよ」


 区切りのいいところで指南書を閉じたロズは、コーヒーを飲みながら二人の会話を聞いていたが、説得の手助けができそうで割り込んだ。


「騎士科では学び始めから両手とも訓練するんですよ。利き手を怪我しても、戦いを続けて難を逃れることができますから……自分は、両手とも怪我しましたけど」

「治りますから、気を落とさないように。ロズ、前を向きなさい」

「あっ、そうですね。頑張ります。今夜は夜番なので、自分は交代してきます」


 コーヒーを飲み干してロズは木箱から立ち上がり、説明で喉が渇いたエルーシアも、魔力の指南の前にと、クルルを肩に乗せたまま(から)のカップを手に取って、続いて木箱から腰を上げた。

 小声なら聞こえない距離の別のテーブルでホットミルクを注ぐ姿に、クロードは口角を上げて、ルークを覗き見る。


「ロズは素直ですね。ルークも、少し分けてもらいなさい」


 秘めた想いを(もてあそ)ぶようなクロードを、ルークは険しい顔で(にら)みつける。


設定小話

今更ですが……暴走や暴発の違いを書いてないことに気づきました


魔力暴走→魔法を発動しようと意識せずに、爆発的に魔法が発動すること

暴発→発動するときに、制御が上手くできず、威力が大きくなったり、放つ方向がぶれること

不発→発動しようとするが、理解・制御・イメージが足りずに、魔法が発動しないこと

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