45 屋台料理で昼食を
日も高くなり、一同は商店街に並ぶ店を眺めながら通りを抜け、昼食を求めて町の広場へと向かった。
アリッサの見送りから住民たちも戻り、営業を始めた飲食店も多いが、滅多にない他国を歩く機会なので、広場で屋台料理を買い込んで楽しもうとなったのだ。国やこの地方の特産品が並んでいるはずだ。
「神子様は、屋台の料理なんて口に合うんですか?」
「デルミーラに育ててもらいましたが、私は庶民ですよ。学生時代はよく、シュトーレンやワッフルとかをカティと一緒に屋台で買ってました」
「……菓子か、あっちに甘そうなのが並んでるぞ」
「甘いのより肉にしようぜ」
「一通り屋台をまわりながら、気になった品を購入しましょうか」
ぞろぞろと連れ立って歩いてはいるが、広場まわりでは人混みも増え、さほど目立たずに屋台巡りを楽しむことができた。
香ばしい匂いを漂わせる肉料理、行列のできた海鮮スープ、見たことのないパンの山、並ぶ色とりどりの菓子や果物や串揚げ――屋台の前で誰かの足が止まると、クロードが購入して、紙袋を誰かが受け取る。
広場に幾つもあるベンチは昼時のため使用中が多く、ロズがひとっ走りして、広場沿いの店からシートを一枚買ってきたので、それを芝の上に広げた。
クロードのエスコートでエルーシアが腰を下ろすと、すぐさまクルルが二人の間に割り込んで右隣を陣取り、押し出されたクロードは小さくため息をつき、左隣に移動して腰を下ろした。
「手芸店で待たせたのを、根に持っているみたいですね」
二人の向かいに座ったジェイは、購入した料理を並べながらクロードの言葉を否定した。場にいたから、不機嫌の発端を知っている。
「違う違う、隊長が原因じゃないです。店主が在庫を取りに奥にいった隙に、木の実でつくった飾りを食べようとしたんだ。それを怒られて、機嫌が悪いんです」
「あれは加工されてるから、買っても食べられないのよ。ほら、クルルにもドライフルーツとナッツを買ったでしょ。サボテンの実も入ってるから、これで機嫌直して」
エルーシアが紙袋を渡すと、マントで隠すように抱えて、仮面の隙間に前脚を突っ込んでぽりぽりと食べ始めた。
ジェイの隣に座ったロズも、屋台料理を並べ始めるが、器用に視線はクルルに向けたままだ。
「機嫌が悪いって……使い魔なのに、普通の生き物みたいですね」
「世界樹のマナの影響で覚えることは多いですが、基本的には普通の生き物で、ペットと変わらないですよ。落ち込んだり、甘えたり、あと焼き餅もよく焼きます」
クロードは話しながら、ルークも座るようにと手で促す。が、あいたスペースはクルルの隣である。
以前、ドングリを食べているのを見たこともあり、一連の会話から不安を感じたルークは、胸もとで拳を握って座り、眉間にシワを寄せたままエルーシアに顔を向ける。
「食おうとしたのは、ドングリか」
「いえ。手のひらより大きな松ぼっくりでしたが、ドングリも色々な種類がありましたよ。帰りに寄りますか?」
ドングリの飾りを探しているのかと勘違いしてエルーシアは答えたが、ルークは首を振って否定し、胸もとの飾りが狙われそうにない安堵から小さく息を吐いて、拳を解いた。
「それでは、温かいうちに頂きましょうか。エルーシアはどれから食べますか?」
「その、アーティチョークのフライを取ってもらえる?」
油紙に包まれたフライは、旬との謳い文句で購入を決めた一品である。それをエルーシアに渡し、クロードは自身の分としてハムのライスコロッケを手に取り、他の三人も牛スジのフリットラや揚げピザなどを持ち、かぶりついた。
皆で食を進める中、ロズが仔牛のソーセージに手を伸ばしながら、エルーシアに質問する。今日の買い物の様子から生まれた疑問である。
「神子様は買い物のとき、いつもあんなに買うんですか?」
アリッサの癒しの魔力のお陰か、買い物で気分転換ができたのか、その両方か。今日はエルーシアもぱくぱくと食べる。
「普段の買い物は人に頼んだり、店側を館に呼ぶことが多いので、あまり選べないんです。だから見てまわると、気になる品は即決で購入しちゃうんですよね。機会を逃すと買えなくなりますから」
クロードは塩味が続いたからと、クリームと砂糖漬けの花が乗った菓子を一つ食べ、焼き菓子なのにしっとりとした食感が余程気に入ったのか、二つ目も口に放り込んだ。
「書物は知識につながりますから、あって損はないですよ。布地や刺繍糸も、夏のバザー用です。エルーシアは刺繍も裁縫も禁止されてますので、殆どが館に残してきた使い魔への土産です……これ美味しいですね、追加を買ってきてください」
革袋を取り出すとジェイに投げ、受け取るのと同時にコインがじゃらりと重い音を立てた。数枚ではなく革袋のまま渡すのは、大量に購入しろとの指示だろう。
生き物好きゆえか、ロズは館に残してきた使い魔にも興味を持ったようで、また質問を口にする。
「使い魔は少ないって、前に言ってましたよね。なのに神子様には、複数の使い魔がいるんでしょうか?」
「いえ。残してきたのは、デルミーラが神子になって暫くしてから現れた使い魔です。彼女が去ったあとも残ってますが、私が引き取られる前からいるので、私の使い魔というより、館についた使い魔ですね」
「使い魔には、色んな種類があるんですね」
「ほかにも、こんなのがいるのか」
まるで怪しいものでも見るように、ルークは視線を隣に投げる――そこにいるのは、マント姿のまま座り込んだため、大きな置物のようになった使い魔クルル。
とくに隠すような事でもないので、エルーシアは説明を続ける。
「はい。残してきた使い魔は――」
「待った待った、その情報は教えたらダメだ」
買い出しのため立ち上がったジェイは、慌てて説明を遮った。体格が大きいので、見下ろす姿はやや圧迫感もある。
なぜ中断されるのか、エルーシアが訝しげに見上げると、にやりと笑う。
「王都まで一緒なんだぜ。会うかも知れないのに、お楽しみが減るだろ」
「ああ、そうですね。遠征後のお楽しみに取っておきましょう。エルーシアも、これ以上は話しちゃダメですよ」
クロードもいたずらっ子のように笑うと、竹筒に入ったハーブ水で喉を潤し、続けて菓子を二つ三つと食べ、ジェイが指定の菓子を多く抱えて戻ると、木苺や香ばしく炒ったナッツ、ベリージャムなど、クリームの上のトッピング違いを美味しそうにぱくぱく食べ続けた。
そんなに美味しいのならと、エルーシアも一つ手に取るが、口に入れる直前に何かに気づき、慌ててクロードの食を止めた。だが時すでに遅く、目をとろんとさせて眠りに落ちた――ルークとジェイは警戒した顔つきで鋭く辺りに視線を巡らせ、ロズはあわあわし始める。
「なんの毒入りですか、眠りの毒ですか?」
「いえ、ラム酒入りです。私もババは初めてで、気がつきませんでした」
可愛らしくクリームで飾った、美味しそうな見た目で購入を決めた菓子に、強い酒がこれほど入っているとは誰も知らなかった。
設定小話
サイフの料理はイタリア料理でまとめてみました
ババはアルコール度数の高い菓子です




