第六話【羽堂 将】
「キャロール! 周りの雑魚骨の掃除を頼む!」
「うん!」
「ファング!キャロールと一緒に掃除だ!片付け次第エミさんのフォローに入れ!」
「ウォンッ!」
「エミさん、威嚇も混ぜつつ刻んで射撃を、怯んだらソルドフィナーレをよろしく!」
「わかったわ!」
将の前には悠然と浮遊する魔法使いのような出で立ちの骸骨、アンデッドモンスターとしてお馴染みの不死の王リッチーであり、第8フィールドのフィールドボスだ。
リッチーは配下であるゾンビやグール、スケルトンを、次々と召喚しつつ魔法攻撃をしてくる厄介なボスモンスターで、AWO屈指の強キャラである。
そんなリッチーはカタカタと、口を鳴らせ配下を召喚し始めた。
次々と生まれる配下をキャロールとファングが撃破していく。
ここまで来るのに将はいつも通りの過剰なレベリングを行い、キャロールのレベルは61で60を超えた時にヴォーパルラビットに進化した。その時にロップイヤーだった見た目が兎の獣人、所謂バニーなガールに変わってしまった為、複雑な気持ちになったのは今となっては良い思い出だ。
そして、ファングのレベルは59、恐らく彼もこの戦闘を無事乗り切れば進化するのではないかと思っている。
驚いたのは雅エミで、エミのレベルは仲間に加わった段階で将と同じレベルであり、恐らく、エミのレベルに関してはプレイヤーのレベルと直結しているのではと考えられる。
そして、そんなプレイヤー、将のレベルは80にまで上がっていた。
安全なレベリングの為にまずは自分のレベリングをする為、キャロール、ファング、エミをノンアクティブにする事からどうしてもテイムモンスターとのレベルが離れてしまうのだが、さぁ、レベリングだとエミを再度編成しアクティブにした際、エミのレベルが自分と同じレベルになっていた為に気付いた。これは恐らくエミのマナジェムが本体扱いであり、そのジェムは将が持つという性質上、そうなっているのだろうと結論付けた。
そして、このリッチーさんの攻略推奨レベルだが…50である。
「相手がアンデッド?それがどうした!可愛いとカッコイイと美しいは無敵だ!」
「ソルド・フィナーレ!」
将の叫びに合わせるようにエミが必殺技をリッチーに叩き込む。
レベル80の暴力にアンデッドは2度目の死を余儀なくされた。アンデッドなのに。
そして、毎度の事のようにメッセージウィンドウが将の目の前に表示される。
「お、フィールドボスで出るのはファング以来だな。普通のモンスターはちょくちょく出てたけどハウジングシステムをアクティブにしてないとパーティー上限以上はテイム出来ないみたいだし、だったらハウジング買うまでは最後の一人はフィールドボスが良いなぁと思ってたから丁度いいや。」
そう独り言を零しメッセージ内容を確認すると、予想通りリッチーを無事テイム出来たというメッセージだった。
「出来れば誰もテイム出来てない、攻略法の解ってない奴が良かったし、うん、ラッキーラッキー。んで、条件は?なになに?『リッチーが召喚した配下MOBを全滅させた状態で魔法属性の攻撃でトドメを刺す。』か、あっぶねぇ、拳で殺るとこだったわ。エミさんグッジョブ!」
「わかったわ。」
「さて、名前は…モモン…は色々アウトだし、アイン…もっとアウトだろ? ヴォルデモっと、これは言っちゃダメな名前だし… ジルドレかな… 青髭… どころか毛も生えてないけど…」
そう独りごちてリッチーの名前をジルドレに設定する、そして、続け様に表示されるメッセージに将はテンションが上がる。
「よし!ファングがレベル60になった!やっぱ進化する感じか!」
今の戦闘でファングのレベルが無事60になるとファングを銀色の光が包み込む。
「お、またメッセージだ、何なに?月光のバンダナの効果により特殊進化が可能です。通常進化のフェンリルと特殊進化のオメガフェンリルから選択出来ます?マジか、ここでこのコラボアイテムが生きてくんのかよ…勿論特殊進化だ!」
そう言って将が特殊進化を選択するとシルバーウルフのファングは、さながらワーウルフのような見た目の、銀色の体毛を輝かせた狼男に変わった。
「おぅ…ファングもついに人型になっちまったぜ… 俺のもふもふ… ってもしゃーないか。改めて宜しくなファング。」
そう言ってファングの肩をポンと叩き、次の街へと向かうゲートに足を向ける。
「なんだかんだで1年か、早い人はもう、グランドクエストはクリアしてんだよなぁ
ソロでフィールド13はキッついけどプレイヤーとパーティー組むのは絶対やだしなぁ」
ブツブツと独り言を言いながら街に向かうそんな将を、遠くから1人のプレイヤーが見ていた事に将は気付かなかった。
第9の街ナインストリアに到着した将はゲートをアクティベート化しログアウトする。
ヘッドギア型の筐体を取り外し首を鳴らし窓の外を観ると外はすっかりと日が落ちて暗くなっていた。
「飯… 食わなきゃな…」
今更であるが羽堂将は羽堂財閥の御曹司である。故にそれなりの地位があるのだが父親の教育方針から特別な学校に通わず一般的な人間が通う、所謂私立校に通う高校二年生だ。
身長は176cm、スラリとした見た目だが毎日の筋トレの為、それなりに鍛えられた引き締まった身体をしている。顔面の偏差値もそれなりに高く、顔面偏差値だけならず勉強に関しても偏差値は高い。その上、親にかなり甘やかされて育ったにも関わらず目立った我儘や傲慢過ぎない性格で、所謂完璧イケメンの部類である。
その為か、女子に非常にモテる、無愛想もイケメンがすればクールになる。
故に中学時代、親友だと思ってた友人の好きな子に告白され、断ったにもかかわらずいつの間にか親友は敵になった。
同じようにクラスの男子が好きな女子が皆挙って将に言い寄るのだ、気付けば中学時代、将は学校中の男(教師含む)から徹底的に無視をされ続けた。
父親に相談するも、心配はされたが『日頃の行い』を指摘されるばかりで、母親に関しては『まぁ将ちゃんはカッコイイから皆嫉妬しちゃうのよ』等と、どうでもいいコメントをされ、親は当てにならないと切り捨てた。
女子も女子で振られたら、今度はお高く止まりやがってと将に嫌がらせを始めた。
その辺から将はリアルの人間の『好き』がとんでもなくくだらない感情で信用ならない物だと悟った。
何せ、今笑いながら将の教科書をゴミ箱に捨ててる女子は昨日頬を桃色に染めながら将を好きだと言っていた人物と同一人物なのだ。
自然と将は人付き合いをしなくなり学校でも、家でも誰ともかかわらない日々を送るようになった。
中学卒業と同時に一人暮らしを決意し社会勉強と適当な理由を付け家を出た。
幸い小遣いは多く貰っていた為、特にバイトなどする事も無く生活出来ている事に、その事にだけは親に感謝した。
なので、今の将の私生活を注意する人間などおらず、将は自由を謳歌している。
「出前…の時間は過ぎてるか… 仕方ない、コンビニにでも行くか。」
ハンガーに掛けてあるパーカーを着ると、部屋から出て鍵をかける。
御曹司だからと言って贅沢をすれば直ぐに金は尽きる、故に住む所に関しては、安くはないが高くもない、1LDKバストイレ別で月8万の賃貸アパートに住んでいる。
このアパートからコンビニ迄は非常に近く、それがこの賃貸を借りる決め手になった。
コンビニまで徒歩で5分程、店に着くと補充されたばかりであろう多彩な種類の弁当から幾つか選びカゴに入れていきレジに向かう。
そんな時、将を呼び止める声に将は足を止め振り返る。
「やっぱススムか!久しぶりじゃん!」
この男は、中学時代に将が親友だと思っていた男だ、しかし将にとっては嫌な記憶でありそれ故に彼の名前は忘れていた為適当に話しを合わせることにした。
「ああ、久しぶりだな。それでは失礼する。」
「ははは、相変わらずクールだなぁ。高校でもモテモテか?」
「モテモテ?知らん、興味無いからな。」
「リアルではクールなのに、あっちじゃ別人じゃね?」
男の言葉に将はピクリと反応する。
「あっち?」
「AWOだよ。さっきまでログインしてたろ?」
「知らん。」
「アバターの見た目そのままだからすぐ解ったぜ。ナインストリアにさっき着いたろ?俺、お前が街に入るの見たんだよ。」
「チッ… だから何だ?」
「いや、俺もAWOやってるからさ一緒にやろうぜ?昔みたいにコンビ組んでさ。」
「昔みたいに…か。悪いが、俺のパーティーはもう埋まってるし、誰かとパーティーを組むつもりも無い、他を当たれ。」
そう言い捨てると。将はこれ以上の会話はしたくないという意思表示の為、無言でレジに立ちウェブマネーで支払うとサッサとコンビニを後にした。
「お高く止まりやがって… だからテメェはボッチなんだよ… せっかく俺が誘ってやってんのによ…」
男はそう言うと手に持った缶コーヒーの代金を投げるようにレジのスタッフに渡しコンビニを去るのだった。




