第二十七話【魔王アドラVS聖騎士スメラギ リクオ】
「ここ、どこだよ!?」
陸王は狼狽えていた。自分は確かにビセスと共に場内に進入したはずなのに、気が付けば自分は城の中に作られた兵士達が訓練の際に使用する訓練場に立っていたのだ。
「ココは、訓練場か!? 宰相のオッサン! スト何とかのオッサン! 気味のワリィオッサン! 陰キャのオッサン! ブルータス! どこだよ!?」
「ココには居らぬ… お前には強制的にここに飛ばさせて貰った。」
ともに来た仲間を探すように叫ぶ陸王の前に、全身黒衣装に金の刺繍のされた服を纏った悪魔の仮面で顔の上半分を隠した男が現れる。
「誰だ! テメェ!」
「我が名はアドラ、魔王アドラである。」
「あぁん!? 魔王だぁ!?」
「お主には個人的な恨みが多々あってね、私が直接相手をする事になった。」
「恨み? 色んな魔物とか魔族を殺しまわったやつの事か!?」
「お主が知る必要はない、教える必要も無いからな。剣を抜け。さすがに無防備な人間に手を出すほど私は外道ではない。」
目の前の男、アドラと名乗った男がそう言うと、陸王は迷わず剣を抜く。
「言っとくが、俺はもう一人人を殺してんだぜ? 人殺しに躊躇はしねぇ。あ、テメェは魔族だったか? だったらなおさら躊躇なしだ!」
「いいから、さっさと掛かってこい。」
「言われなくても… 死ねぇええええええ!」
フェイントも何もない、ただまっ直ぐにアドラに走り寄る陸王は振り上げた剣を、力いっぱいに振り下ろす。
確かに何かに当たった感触があった陸王は、間違いなく両断したはずだと勝ちを確信して顔を上げると、己の剣がアドラに当たる数ミリ前で止まっている事に驚く。
「なっ!?」
「寸止めか? 魔族に慈悲はないんだろ? 良いぞ? 容赦なく、全力で掛かってくるがいい。」
バッとアドラとの距離を取る様にバックステップすると、陸王は先程とは打って変わってアドラを警戒する様に剣を構える。
「(間違いなくさっきのは全力だったんだぞ! なんで剣が当たらねぇんだよ!)」
「来ないのか?」
「今、テメェをどうやってぶっ殺すか考えてんだよ! ライトニングジャベリン!」
アドラの煽りに激昂した陸王は右手をかざすと、そこから雷光の槍を作り出し発射させる。しかし、その雷光の槍も、剣同様、アドラに当たる直前に霧散してしまう。
その現象に納得できなかった陸王は、何度も何度も雷光の槍を出現させてはそれを発射し、しかし、アドラの目前で霧散するという事を繰り返す。
「ほぅ、レア度5の光と雷属性の混合魔法か… スクロールも高かっただろうな。」
「なんで効かねぇ! 付与魔術!ライトニングソード!」
「その上レア度6の付与魔術のスクロール迄手に入れていたのか… なかなかやるな…」
「何をブツブツ言ってやがる! コレでテメェをぶっ殺す! 魔族は全員死ぬんだよ!」
アドラの呟きも陸王には煽っているように感じたのか、陸王は雷光を付与させた剣を腰溜めにし、一足でアドラに肉薄すると、その雷光を纏った剣を横なぎに振る。
雷光を纏った剣は、間違いなくアドラに届き、アドラの衣服を割く事に成功する。
「当たった! どうだ! 当たったぞ! 攻撃さえ当たれば俺はこの世界で最強だ! もう諦めるんだな! なんなら、今諦めるんなら俺の部下にしてやる!」
ほんの僅か、服を掠った程度ではあったが、攻撃が届いた事に歓喜した陸王は、がむしゃらに剣を振り回しながら調子づき始める。
「たったの一撃、それも掠った程度でその反応か… さて、王の方も心配だ。これ以上時間をかけるのは得策では無いかも知れんな。」
そんな調子づいた陸王の攻撃をヒラリヒラリと躱しながら、元の世界では祖父であり、この世界ではこの国の国王であるシューザの事が心配になったアドラは、この三文芝居のような戦いもそろそろ終わらせるべきだと判断する。
この、陸王にとっては自慰にも等しい戦いに、今更ながらに、我ながらさっきは変なテンションだったのだなと考え、次に繰り出す一撃で、この男との全てを終わらせようと決断したアドラは動きを止める。
すると、そんなアドラの行動を戦闘を諦めたと勘違いした陸王が、再度自分の配下になる様に言いだし始める。
「どうだ? 俺の下僕になる決断でも出来たか!」
「あぁ、これ以上は時間の無駄だと改めて認識できた。私は何故、貴様達に遠慮していたのだろうな。」
そう吐き捨て、アドラは一瞬で陸王の前に転移すると、頭が吹き飛ばない程度に力を込めた右の拳を陸王の顔面に叩きこむ。
全力ではないが、人を簡単に殺しうるパンチを食らった陸王は、その威力を体現するかのように訓練場の壁に叩きつけられ、めり込んでしまう。
カヒューカヒューと内臓を痛めたであろう息をし、口から血を吐き出しながら自分の命が残りわずかである事を悟った陸王は、静かに歩み寄ってくるアドラと名乗った男に命乞いをする。
「ぁ… しゅ、け… ぇ……」
陸王の今持ちうる全力の命乞い。それをあざ笑う様に、アドラは口の端を歪めると、顔を隠していた悪魔の仮面を取りながら陸王に最後の言葉を残した。
「ずいぶん昔の事過ぎて、貴様は忘れているだろうが。一回は…、一回だ…」
露になったアドラの素顔に驚愕し、そして、アドラの放った言葉に、羽堂 将が中学生時代に自分に向かって言い捨てた言葉がフラッシュバックした。
『俺を思いっきり殴ってくれたな、コレで満足か? だが、覚えておけ… 一回は… 一回だ。俺はこの痛みを忘れん… 絶対に。いずれ、利子を付けて返してやる。楽しみにしていろ。』
驚愕の表情のまま陸王はアドラの顔を見ようと頭を上げる。しかし、そこにはすでにアドラの姿はなく、陸王はこの異世界の地ゼノギアで、誰に看取られる事の無いまま、その命を散らした。




