第二十五話【不死王ジルドレVS闇魔術師ネクロ】
「歩めや歩め、主等の道は闇の道、屍溢るる闇の道…」
「同胞の臭いがすると思い、臭いの元を辿ってみましたが…」
王都を城に向かってゆっくりと歩むゾンビやスケルトンの合間をスルスルと通り過ぎる様に進んだジルドレは、そんなアンデット軍の後ろで何やら唱えている灰色のローブを纏った痩せぎすの男を発見する。
「それは… ふむ、下位のアンデット隷属魔法ですかな?」
「下位? それは違うとも違うとも、コレは失われし邪法、闇の真髄。闇の眷属の支配魔法だとも。」
「ほぅ、闇の真髄ですか。一つお尋ねしても宜しいですかな?」
「勿論だとも勿論だとも! 無知とは罪、知らぬは愚か、この私の叡智の一欠けらでも、お主の空っぽの頭に叩き込めれるのならば、いくらでも質問に答えてあげようとも!」
「ハッハッハ、空っぽの頭と言うのは言いえて妙ですな。では質問致しましょう。それが真髄と言うのであれば、なぜ拙僧はお主に操られておらぬのかな?」
「異なことを言う、異なことを言う! この呪言は闇の眷属にのみ作用する術である! 生者にその効果を望むであれば別の呪言になるのだ! 愚か! 愚か! 愚か!!」
ジルドレの質問に、何をそんな初歩的な質問をするのかと、時間の無駄だと感じたネクロは激昂し、右手に握りしめていた簡素な木の杖をジルドレに突きつける。
「炎よ炎! 燃盛るその球を目の前の障害に爆ぜさせよ! 火球!」
ネクロが発した言葉に反応する様に、杖の先端からオレンジ色に燃える火の玉が発言し、その火の玉は、まっすぐにジルドレに飛び爆発した。
「不快なり不快なり! 時間の無駄をさせおって!」
「ふむ、今のがさしずめファイアボールの“呪文”と言う奴ですかな? この世界の人間は呪文なしでの術式の展開は出来ぬと見えますな。」
轟々と燃える炎は、ジルドレのローブを焼き焦がし、顔を覆い隠していた部分が焼け落ちると、ローブに隠されて居た顔が露になる。
露になった素顔は紛れもない人間の頭骨、シャレコウベであった。
明らかに今の炎で追った物ではないその姿に、ネクロは心と体を震わせる。
「おおおおおお! おおおおおおおおおっ! その姿! その姿!」
「騒がしいですな… それから先程から発動しているその闇の真髄と言う術式も、不快ですな。」
「まさしく! お主はまさしくあの伝説の不死王! リッ…」
「聞こえませんでしたかな? 騒がしい…」
ネクロが何かを言いかけたその瞬間、ジルドレは不機嫌そうに右手を払うように振ると、その瞬間にワラワラと溢れる様にいたゾンビやスケルトン、そして操られていた魔物達が灰となって消え去ってしまう。
「あれで真髄と言われるのであれば、この世界の魔術も、たかが知れておるのでしょうな… まこと、残念な事だ。おや? ホッホッホ、あのようなモノでも多少は役に立たようですな。すべてが終わり主に会う際の反応が楽しみになってまいりましたな。ホッホッホ!」
闇魔術の真髄と謳うネクロの不甲斐なさに落胆したジルドレだったが、突然上機嫌になると、踊るようにその場所から姿を消すのだった。




