第二十三話【首狩兎キャロール&忍猫ハンゾウVS暗殺者アサーシ】
今回から数話、戦闘と言う名のワンサイドゲームが始まります。
白熱したバトルと言うのはありません。
「さてと、ボク達は陰でコソコソしてる連中の相手でもしようか!」
「そうでござるな。恐らく斥候なども兼用しているのでござろうが、いささかお粗末すぎるでござるな!」
城の廊下を疾走するキャロールとハンゾウは、暢気に会話をしながらも部屋と言う部屋を貫通していく、そのたびにハンゾウは手に持った苦無を投げるとグエッと言うカエルが踏みつぶされたような声を出して次々と隠れていた人間が倒れ伏していく。
そんな時、ふと二人の前に一人の男が立ち塞がった。
男は全身黒ずくめで、口元まで隠している姿からハンゾウの様な忍者を彷彿とさせる。
そのいでたちにキャロールがハンゾウを揶揄い始めた。
「ハンゾウ! ハンゾウ! アレ流行ってんの!? ゴザル!? ゴザル流行ってんの!?」
「別に流行りとかないでござる! 忍者とは隠れ忍ぶものでござる故、目立たぬ恰好を突き詰めた結果、夜は黒装束になっただけでござる! 故に昼に活動するときは周りの人間に溶け込めるような格好をするでござる! 無駄に目立つ奴は忍者ではなくNINJAでござる!」
「でも今はハンゾウもアイツも昼間なのに真っ黒だよ?つまり、二人はNINJ…」
「言わせないでござる!」
そんな二人のやり取りを静かに眺める男にキャロールは目線を送るとニヤリと笑い話しかける。
「今の、いいチャンスだったと思うんだけど、ボク?」
「そんな見え透いたスキを突く阿呆ではない。」
「あっそ。じゃあ君はもっと阿保だね。」
「何?」
「そうでござるな。万が一にも勝てる見込みのない相手でござるなら、極僅かでもそのチャンスを棄てるのは愚かと言うほか無いでござる。何よりも、逃げなかった事自体が愚かでござるがな。」
ハンゾウの放った言葉に、目に見えるほどの怒気を纏う目の前の男。
「ふふふ、どうやら貴様ら、私の事を知らぬようだな。私は暗殺者ギルドのギルドマスター、人は私を影縫いのアサーシと呼ぶ… 貴様らの様な獣人風情が手を出して生き残れぬ相手と知れ。」
目の前に佇む男、アサーシの名乗りに目をぱちくりとさせるキャロールとハンゾウ。と、突然キャロールが笑い始める。
「アハハ! アハハハハハ! こっちの世界の人って冗談が驚くほどに下手くそなんだね!」
「キャロール殿、笑っては失礼でござるよ。本人にとっては渾身のギャグだったに違いないでござる。」
「だって『私はアサシンギルドのギルドマスター、人は私を影縫いのアサーシと呼ぶ…』だよ? 暗殺者なのに名前が知れ渡ってるって時点で…」
「シーっ! ダメでござるよ! ほら! 顔を真っ赤にしてるでござる! 黒頭巾で隠しきれてない素肌の部分が赤色になっているでござるから! いや、すまぬでござる! えっと影絵師のアチャチャー氏。な、なかなか面白いギャグだったと思うでござるぞ! 些か我々には高尚過ぎたでござるが、きっとこの世界ではバカウケなのでござろうな!」
ハンゾウが必死にアサーシに弁明していると、怒りを堪えきれなくなったアサーシは手首に仕込んでいた毒塗りのナイフを常人では目に見えぬ速さで二人に投擲する。
寸分違わず、キャロールとハンゾウの眉間を狙って飛来した毒塗りのナイフを何の気負いも躊躇も無く胸元に潜ませていた箸で掴むキャロールとハンゾウ。
「へぇ、毒塗りのナイフかぁ。ダーツの腕前はソコソコみたいだね!」
「でござるな。素手で触れば皮膚から浸透するタイプの毒を選択する辺りは及第点でござる。まぁスケサダ以上サイゾウ以下と言った所でござるな。」
「名前付のシノビキャットって何人いたっけ?」
「四忍でござるな。近々、五忍目が生まれる予定でござる。」
「え!? 誰と誰の子!?」
「ぅ… 拙者と… コタロウの子でござる…」
「えっ!? コタロウって女の子だったの!?」
「な! 内緒でござるぞ! コタロウは必死に自分がくのいちである事を隠しているのでござる! 絶対に、絶対に殿には内緒でござるぞ!!」
二人がそんなやり取りを続けている間も、間断なく飛び交うナイフを二人は難なく叩き落している。
二人の態度にも、行われているやり取りにも堪忍袋の緒が切れたのか、アサーシはナイフを投げるのを辞める。
「あれ? 弾切れかな?」
「これ以上は無駄だと察したのでござろう。この程度であれば拙者の助力も必要なさそうでござるし、拙者は今も見苦しく動き回るネズミ共の駆除をするでござる。アチャチャ氏の事はキャロール殿にお任せするでござる。猫忍忍法影分身!」
ハンゾウはアサーシをキャロール一人に任せ、秘密裏に王の暗殺を企てている目の前の男の部下たちを始末する為に分身を使い自分を増やすと「散っ!」と発してその場から掻き消える。
その間も、身動き一つ見せないアサーシを不可解そうに見つめるキャロール。
「どしたの~? 疲れちゃった? それともかくし芸大会はもう終わり? ねぇ、黙ってないでなんか言ってよ~!」
キャロールの問いかけにも何の反応も示さないアサーシ。
いや、何も反応しないのではない。このアサーシは目の前の二人が自分以上の実力を持っていると理解すると、ナイフを投げつつ脱出の機会をうかがっていたのである。
今、キャロールの目の前に居るアサーシは身代わりの為に用意していたデコイ用の木偶であった。
そんな木偶人形に話しかけるキャロールの横を、今まさにアサーシは隠形のスキルで気配を遮断し通り抜けようとしていたのである。
「(ふん! いつまでも人形と会話していると良い! 逃げるのは癪だが、なに、次の機会にその首を掻っ切ってやれば良いのだ。ではな、愚かで鈍間な兎の獣人よ。)」
あと一歩前に出ればこの部屋から抜けられる。そんな瞬間、アサーシの木偶人形に話しかけていたはずのキャロールのあどけなく可愛らしい笑顔がアサーシの眼前に現れる。
その瞳は、スキルによって見えていない筈のアサーシの瞳を見つめている。
「ダーツの次はかくれんぼ? ごめんね? ボク、遊んでる暇ないんだ。」
そう言って無邪気ににっこりと笑う兎の獣人の顔が、アサーシには何故か逆さまに見えた。




