第二十話【孫の名は…】
「まだ攻めねぇのか? もう俺もブルータスも動けるようになったぜ?宰相さんよ。」
「ことはそう君の様に単純では無いのだよ、アレでシューザは先の戦でのし上がり今の地位を手に入れた武人でもあるのだよ。」
ゼノギア国、王都、街のはずれのスラム街の奥に建つ一見古ぼけた小屋。
部屋の明かりは無く、蝋燭の頼りない灯りがゆらゆらと部屋の中を照らす。
そんな薄暗い廃屋に近い小屋の中、イライラとフラストレーションを溜めに溜め、しかし、それをぶつける場所がない陸王は足を小刻みに揺らしながらビセスに突っかかるも、ビセスはそんな陸王のイライラを受け流し自慢のちょび髭を撫で続ける。
「ソレに貴様とブルータス、ネクロとストレングス、アサーシの五人だけで国を落とせる訳がなかろう?圧倒的に戦力が足りんのだ、我々が相手取るのはシューザだけでは無い、国その物なのだ、もっとも、貴様が鍛え上げられた王国の兵士の100や200を一人で相手出来ると言うのなら話は変わってくるがね。」
「チッ… あーっ! 色々と溜まってんだよ! ここには女もいねぇし! アデリアを俺にくれるって話だったから着いて来たんだぞ!」
「発情期の猿め。そんなに雌とまぐわりたいなら娼婦でも抱けば良かろう? アデリアは言わば成功報酬だ。それまで娼婦で我慢するんだな。とんだ聖戦士だな、いや、貴様の場合は性戦士と言った方が良いか。」
この男の言う事に陸王はイライラを更に募らせるが、自分以外は全員この男、ビセス側に付いている為、行き場のない怒りを横に置いてあった木箱を蹴り付ける事で発散する。
「ガキが。物に当たるな。今ブルータス共が戦力を集めている。準備が整い次第打って出る。その日は近いのだ、もう少し我慢しろ。」
「わぁーったよ! 娼館に行くから金くれよ!」
「行くな、呼べ。貴様、自分が手配されている事を忘れているのか?そこまで馬鹿か?」
「んじゃ呼んでくれよ! 可愛くて胸のデカいヤツで頼むぜ!」
「はぁ… ヤハリこの男を連れて来たのは失敗ではなかったのかと心底思うよ。ブルータスめ。いいか? 娼婦を抱いたらその女は始末せよ。我々の存在が明るみに出ては全てが無駄になる。」
「ハイハイ!早く!早く!!」
盛りのついた獣の様な陸王にビセスはウンザリしつつ、聖騎士は貴重な戦力だから今は我慢だと自分に言い聞かせ、これ以上この男と一緒にいては自分も猿になると感じ娼婦を呼ぶ事にした。
「どうせ、事が終われば、全ての責を負わせ始末するのだ… 今は好きにさせてやるさ。」
「お・ん・な~♬ お・ん・な〜♬」
ビセスの呟きも聞こえぬ程に有頂天な陸王を聖騎士よりも道化師の才能の方がありそうだと蔑んだ視線を陸王に投げビセスはその部屋を後にした。
陸王とビセスがそんな企みを企てている時、王城ではシューザがベッドで上半身だけを起こして虚ろな瞳でブツブツと将の名前を呟き続けるローズの隣に座っていた。
そんな母親のローズを娘であり王女であるアデリアは沈痛な思いで見つめる。
「ローズ…大事な話が有るのだ… 皆、ワシとローズとアデリアだけにしてくれぬか?」
「しかし、陛下…」
「頼む、今からする話は我々親族の間でのみ共有したい内容なのだ…」
国王であるシューザに、頼むと言われては使用人達もスミスも断る事が出来ない為、渋々ながら「かしこまりました。」とローズの寝室から退室して行く。
自分達三人だけになったのを確認したシューザはすぐさま防音の魔法を部屋に張り、万が一、会話が外に漏れないようにすると。
虚ろに将の名を呟き続けるローズに声を掛ける。
「ローズ、ススムは生きておったよ。」
「えっ!? お父様! それは本当ですの!?」
シューザの口から出た言葉に、アデリアは驚き立ち上がると座っていた椅子がその勢いで倒れる。
そして、その言葉を聞いたローズも僅かに反応をし、ゆっくりとシューザの方に顔を向ける。
「ススムちゃん… ススムちゃん? でも…」
「昨晩、ワシの執務室に来たのだ。事が事だけに公には出来んが… ススム本人も対外的には死んでる事にして欲しいと言っておった。」
続け様に与えられる将生存の報告に、ローズはクシャりと顔を歪ませる。
「ススムちゃ… 良かった… 良かったあああ…」
「でも、何故死んでいる事にするのです? メグミ様もスリザリン様も聞けば喜びますわ。」
「うむ、それなのだがな、今回将を亡き者にしようとした犯人達だが、クーデターを企てておる可能性が高い故、万が一相手に知られては困ると言っておった。」
「しん、は、んにん?」
「件の首狩り魔族では無いのですか?」
「いや、首狩り魔族はむしろ、ススムの命を助けてくれた恩人なのだ。」
「では、誰なのです?ススム様をその手にかけた犯人は。」
恐らく、今の話の流れから何となく犯人の予想は着いているのだろう、それでも、聞きたいというアデリアの瞳を見てシューザはしっかりと犯人達の名を答える。
「リクオとブルータスだ。あの者共がススムを亡き者にしようと画策し実行し、更にあ奴らは何者かの助けを借り地下牢から脱出しおった。」
「あの… 散々ススムちゃんをバカにしていた、あのクソガキとブルータスが殺ったのね…」
「いや、生きとる。殺られとらん。」
「そんな大罪人を貴方は逃がしたの!?」
「お父様、何やってますの?」
「うっ… ススムにもそう言われたわ…」
将が生きている事を知り、徐々に、だが確実に元気を取り戻し始めたローズとアデリアに詰められシューザは椅子に座ったまま上半身を後ろに仰け反らせ、このままではもれなくお説教モードに突入すると感じたシューザはポケットの中に将から預けられたイヤーカフスが入っている事を思い出す。
「まぁ、それでだな。ススムとしては今は仲間達と静かに暮らしたいのだそうだ。だから死んだ事にしておいて欲しいという事なのだが、もし、ワシらに何かあった時のためとこういう物をくれた。」
そう言って、シューザはポケットの中から黒い魔石が埋め込まれた三つのイヤーカフスを取り出す。
「遠話のカフスだ。コレを耳に着け、ススムの事を考えながら呼びかける事でススムと会話する事が出来るそうだ。」
シューザのその言葉を聞いた途端、ローズはシューザからカフスを一つ奪いすぐに耳に着け『ススムちゃん!』と念じる。
『おわっ!? あ、こんな感じになるのか。キャロール達と念話するのとはまた違う感じなんだな。っと、それより爺ちゃん何かあったの?』
「『ススム…ちゃん?』」
『ん? 婆ちゃん? 良かった、爺ちゃんから寝たきりになってるって聞いてたから心配してたんだよ。ホントは婆ちゃんにも会いたかったんだけど、あまり人の目に触れる可能性を増やしたくなかったんだ。ゴメンね。』
「『良いの… 良いのよ… ススムちゃん… 良かった… 良かった…ススムちゃん… 生きてるのね…』」
『爺ちゃんから聞いてるとは思うけど、対外的には俺の事は死んだままにして欲しいんだ。婆ちゃん達的には複雑かもだけど。』
「『うん… うん…』」
『病み上がりだろ? 余り無理させたくないし、またなんか緊急の時はそれで連絡して。魔石の魔力が残ってればこうやっていつでも通話できるからさ。』
「『うん… わかった… ありがとう、ススムちゃん。生きていてくれてありがとう。』」
『あはは、どういたしまして。っと、ゴメン仲間が呼んでるから切るね。話せて良かった。』
そう言うとススムは一方的に念話を切るが、ローズはススムと話が出来た事がとても嬉しく微笑みながら涙を流した。
「お母様だけずるいですわ! 私もススム様とお話したいです!」
「… ス、ススムちゃんは今、一緒に居るお友達に呼ばれてたみたいだから一時お話は無理よ。」
そう言ってアデリアを窘めるが自分だけススムと会話出来ない事に不満を隠すこと無く頬を膨らませる。
「この魔石の魔力が残ってる限りはいつでも会話できるそうよ。」
「成程…使い捨て… なのかの?」
「でしたら本当にここぞと言う時に使わなければ行けませんね。ここぞと言う時に!」
アデリアに言い聞かせる様にローズは言うと耳に着いたカフスを優しく撫でる。
そんなローズに対して不満を口にするも、瞬く間に元気になった自分の母親を見て、本当に将は素敵な人だなとアデリアはここには居ない将に惚れ直す。
そして、ひとしきりカフスを撫でたローズは先程の会話の中でシューザが言っていたように将が死んでいる事にして欲しい事を言っていたのを思い出す。
「そう言えば、本当にススムちゃん、自分は死んだままにして欲しいって言ってたからススムちゃんって呼ぶのはダメなのよね…」
「うむ、我々だけで会っとる時は構わんとは言っておったが、公の場では今名乗っとる方の名で呼んで欲しいと言っておったぞ?」
「今名乗ってる名前? 公の場? ススムちゃんが公の場に出る事があるの?」
ローズの疑問は最もだとシューザは思い、その理由を伝える事にする。
「ワシらは今後、魔族とも協力関係を結ぶ事になる。その時、ススムは魔族の代表として来るのだ。」
「ススムちゃんが魔族の代表?」
「うむ、今のススムはな、魔族の王、魔王アドラと言うそうだぞ。」
シューザの爆弾発言に、回復したばかりで頭の処理が追い付かなくなったローズはふらりとベッドに横たわり気絶するのだった。
今日の更新はここ迄です。
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