第二話「初のフィールドボス」
将がAWOを始めて1週間が経った。
将は誰ともパーティーを組むこと無くテイムしたスピアラビットのキャロールと共にレベリングを続けていた。
1週間も経てばそこそこ攻略も進んでおり、掲示板等には様々な有料スレッドが立ち並んで居た。
内容は様々で薬のレシピや武器の作成方法、まだ将の出会えていないモンスターのテイム方法、剣技や魔法の習得方法等が秒単位で追加されていく程の盛況ぶりである。
「で、この中の何割がホントなんだろうな…」
有料スレッドの弊害としてあげられるのが、中身を見る為にはゲーム内通貨を支払う必要があり、支払ったとしても、そのスレッドの内容が真実であるという確証がない事だ。
特に匿名で上げられる有料スレッドの大半は嘘情報が記載されており。スレッドの乱立と比例するようにペナルティを喰らうプレイヤーも多くいた。
「楽しようとするから引っかかるんだよ。他人なんか信用しちゃダメなんだよなぁ。」
そう将は零すと隣でピスピスと鼻を鳴らすキャロールを撫でる。
「よし、レベリングもそろそろ切り上げて、俺達も次の街に向かおうかキャロール。来月にはコラボイベントがあるし、参加条件が三つ目の街サードリアに着いてる事だからな。」
翌月に予定された大型の人気アニメとのコラボイベント。
他人とパーティーを組む気のない将は、そのイベントを自分とテイムしたモンスターのみで周回出来るよう、そこそこ戦える程度にキャロールを育てた。
「んでも初期フィールドでレベル28は上げすぎたかもなぁ…」
ポリポリと頬を掻きながらキャロールを見ると、キャロールはそんな将を首を傾げ不思議そうに見つめ返した。
「ま、強くなるのに越したことはないよな! 初期フィールドのボスのシルバーウルフの攻略法はもう周知されてるし、余裕っしょ。」
「きゅ! きゅきゅっ!」
「うむ! キャロールは可愛い! 可愛いは無敵だ! 行くぞキャロール!」
夜の平原をスピアラビットと散歩でもするように歩く将。
フィールドボスであるシルバーウルフの生息地は平原の奥にあるウルフの森の最奥。
その最奥に向けて真っ直ぐに進む。
レベリングのお陰か、森の中の敵対MOBであるグレーウルフを難なく撃退しつつ将達は遂にボスフィールドに辿り着いた。
「一応、回復薬とかは抜かりないしキャロールも高レベルだからワンパンで死ぬ事は無いよな… つか、このゲーム、テイムモンスターは死ぬとロストするとかホントに鬼畜だわ… すらら先生… 貴方の犠牲は無駄にしません…」
スピアラビットをテイムした後、立て続けにスライムをテイムする事に成功した将だったが、名前を決めた瞬間、接近していた平原の敵対MOBの一体であるウルフにスライムが攻撃されてしまい仲間にした直後にも関わらず消えてしまったのだ。
その後、キャロールを庇いつつ何とかウルフを撃退したがテイムしたスライムは復活することは無かった。
テイムから僅か2秒だけの付き合いだが、スライムは将にとても大事な事を教えてくれたのだ。
「うっし! キャロールいくぞ!」
「きゅきゅっ!」
パンっと両頬を叩いて気合を入れるとフィールドボスのバトルエリアに入る。
フィールドボスはプレイヤーやパーティー毎に管理される為、他のプレイヤーやパーティーに邪魔される事は無い、逆を言えば他プレイヤーや他パーティーの助けは無く、準備した戦力で戦わなければいけない為、ソロプレイヤーである将にとっては少々難易度が高い。
テイムモンスターのロストの危険性もあった為、効率が悪くとも初期フィールドでのレベリングは必須だった。
森の中に不自然に広がる円形のフィールド。ぽっかりと空いた空間に空から月の光が差し込む。
風に揺れる木の音を遮るように狼の遠吠えが響き渡る。
「さぁ来い! シルバーウルフ! 俺は抵抗するで! 拳で!」
「きゅきゅっ!」
将が両拳を胸の前でぶつけ合わせると、それを真似するようにキャロールもふにょにょんと拳を合わせた。
シルバーウルフの攻略法は既に確立されているが、そのどれもがそれなりの装備をした状態での立ち回りだった。
しかし、将は武器等を装備せず素手での戦闘をずっと続けている。
それは特にこだわりという訳ではなく、何となくモンスターをテイムする条件に武器を持たないという物があるのでは無いかと考えているからだ。
そう考えた理由は至極単純で、自分が相手の立場なら武器を持って殺しにかかってくるヤツの仲間にはなりたくない。という理由からだった。
遠吠えが聞こえなくなると同時にぽっかりと空いた上空から銀色の体毛を輝かせた体長2メートル程の狼、シルバーウルフが将とキャロールの前に着地した。
シルバーウルフは歯を剥き出しにしグルルルと威嚇の喉を鳴らす。
「掛かってこいや犬っころ! 躾の時間だ!」
『グワゥッ!』
将が右手を前に出し、人差し指をクイクイと動かして挑発すると、シルバーウルフは大きな唸り声を上げ将に飛び掛る。
「キャロール、横ががら空きだ! 隙だらけのどてっぱらに渾身の頭突きを食らわせてやれ!」
「きゅっ!」
キャロールは将の声に返事をする様に鳴くと空中に浮いているシルバーウルフの側面に勢いよく突進する。
空中の為、回避行動を取れないシルバーウルフはキャロールの頭突きをまともに喰らい跳ね飛ばされる。
多少レベリングしたとは思っていたが、どうやら過剰気味だったようで、キャロールの攻撃をくらったシルバーウルフのHPゲージは既に1割まで減っていた。
「やはり可愛いは無敵だな! そして、隙だらけだぜ! 犬っころ!」
吹き飛ばされたシルバーウルフは立ち上がろうとしていたが、すぐさま将が接近しシルバーウルフの頭にゲンコツを叩き込んだ。
残り僅かだったシルバーウルフのHPゲージがみるみる減って行く。
シルバーウルフは初期フィールドのボスでありクリア推奨レベルは8である。
にも関わらずキャロールのレベルは28。そして、将のレベルは30だった。
「勝利のポーズ…」
「きゅきゅっ!」
倒れ伏すシルバーウルフをバックにポーズをとる1人と1羽。隔絶されたエリアだからできる事であり、人が見てたら恥ずか死ぬこと請け合いである。
そんな勝利のポーズを取っていると将の前にメッセージウィンドウが表示される。
「勝利メッセージが出たか… な? ん? シルバーウルフが服従を示しています、従えますか? って、マジか! フィールドボスもテイム可能なのかよ! YES! YESYES!」
勝利の余韻も吹っ飛び、将は承認を何度も押すと『シルバーウルフをテイムしました。』のメッセージが表示される。
将は直ぐにアチーブメントを開きしシルバーウルフのテイム条件を確認する。
「えっと… 『武器を装備せず夜にシルバーウルフと戦闘し勝つと30%の確率でテイム出来る。』確率か、あ、俺の場合はテイマーの始祖の効果で60%にまで跳ね上がるのか、ヤベェなテイマーの始祖…」
初テイムの報酬で獲得した称号であるテイマーの始祖の反則じみた効果に嬉しいやら申し訳ないやらの複雑な気持ちになる将。
この始祖系の称号は特殊な職業、と言ってもこのゲームには職業という物が存在しない為、プレイヤー達が自称する形なのだが、その、自称ジョブにのみ存在する。
そして、現在確認されているのが【錬金術の始祖】【服飾の始祖】そして【テイマーの始祖】である。が、将はテイマーの始祖を公開してない為、公には2つのみ認識されている。
その効果はどちらも反則級で【錬金術の始祖】は作った薬の効果が25%上がると言ったもので【服飾の始祖】は作った防具の効果が他のプレイヤーが作った同じ防具よりも性能が15%上がると言ったものであった。
この2つの称号が公になっているのは、この称号を獲得したプレイヤーが攻略よりも生産をメインにしている為、隠すより公にする方がメリットが多いという理由からであった。
ともあれ、そんな反則級の称号のおかげで無事、フィールドボスであるシルバーウルフをテイム出来た将は、いまだバトルフィールドの真ん中で月明かりに照らされて喜びのダンスをキャロールと一緒に踊るのだった。




