第十九話【秘密会談】
「まだ、リクオとブルータスは見つからぬか?」
執務室で決済や陳情などの書類をチェックしつつシューザは入口前に立つ執事のスミスに問う。
「はい、依然姿を見せません。ただ、嫌な予感だけは致しますな。」
「ああ、大方戦力を集めて私を亡き者にし国を乗っ取る算段であろうな。」
「ですが、彼らに力を貸す者がおりますかな? 前の戦からそこまで経っておりません。ようやく国が安定してきたと言うのに、それをまた乱すような民は居らぬでしょう。」
「民は、な。もし奴らが何らかの方法で魔物や魔族と繋がりを持てば別であろう?」
「まさか…」
「ありえぬ話ではなかろう? 奴隷紋、呪術、魔道具。方法はいくらでもある。もしそういう物に精通している者が力を貸しておれば可能性はゼロではあるまい。」
「さようですな… しかしながら…」
「ああ、解っておる。今考えても意味が無いのはな… これで終わりだ。持って行ってくれ。チョロス辺境伯の陳情だが、魔族領への調査費用が足りないと言う事だ。工面しておいてくれ。」
「かしこまりました。もうお休みになられますか?」
「ああ、そうしよう… ローズの具合はどうだ?」
「まだ、沈んでおられます… アデリア姫も同様ですな。」
「そうか… 下がってよい…」
「失礼致します。」
スミスはシューザから預かった書類を胸に抱き執務室から退室した。
部屋に一人残ったシューザ、はぁ…と大きな溜息が静かな部屋に響き渡る。
「溜息は幸せが逃げると言うぞ。」
「っ!? 何者!?」
自分以外は居ないはずの部屋に響いた第三者の声、シューザはその気配がする場所へ机の横に添えていたショートソードを掴み振り抜いた。
ビュッと風を斬る音はそこに居る曲者を一刀の元に斬り捨てるかと思われたが、その刃は二本のマチェットナイフによって止められる。
「イキナリ攻撃するとは御挨拶だな。まぁ、突然の訪問で無礼である事は認めるがね。」
「アドラ、この人強い!」
シューザの攻撃を受け止めていたのは兎の魔族であり、その魔族は後ろに佇む悪魔のような仮面を着けた人物にシューザが強い事を嬉しそうに報告する。
「ああ、誰かを呼ぶのは辞めてくれ、私も余計な被害を出す気はない。今日は話し合いに来たのだ。」
「話し合い… だと?」
「うむ、どうやら私の仲間が貴公によって指名手配にされていたのでね、その解除を願いに来た。」
「指名手配… 首狩り魔族の事か? それならばそうはいかん、奴は数人の冒険者をその手にかけ、その上ワシの大事なモノを奪いおった。ワシがこの手で引導を渡さねばならん!」
「それなのだがな… 恐らく報告の齟齬や思い違いであると、そこの本人から話を聞き私は判断したのだよ。先ずは落ち着いて話をしたいのだが…」
目の前でシューザの剣を受け止めていたのが件の魔族だと知りシューザは怒りの咆哮を上げた。
「貴様か… 貴様が! 貴様がススムを殺ったのかああぁぁぁぁあ!」
「うわあああ! ボクはススムなんて知らないよー! アドラ、この人強いからこれ以上は無理! 落としちゃう!」
「マジか、キャロールが本気出さなきゃヤバいのか… っと、だったらロールプレイしてる場合じゃないな…」
アドラが思っていた以上にシューザは強く、そう言えば先の戦争で武功を上げて今の地位に上り詰めたと言った話を思い出したアドラは、上段から振り下ろされるシューザの剣を左手で挟み込み止めてしまう。
「なっ! 素手で! くっ動かぬ!」
「あー… えっと、取り敢えず落ち着いて話がしたいから剣をしまってくれる? 爺ちゃん。」
「誰が爺ちゃんだ! ワシをそう呼んで良い… の、は…?」
アドラの口から大好きな孫から言われる呼ばれ方に激昂し、無理やり掴まれた剣を外そうと力むが、目の前のアドラという人物が仮面を外し素顔を見せた事に動きが止まる。
「は? おま、え?」
「魔王プレイしてみたんだけど思いの外通用したみたいで驚いたよ。ただいま爺ちゃん。」
「ススム、か?」
「今はアドラって名乗ってる。」
「生きて…」
「死にかけてたけどね、偶然、前の世界で一緒に冒険してた仲間と再会して何とか生き延びたよ。その子もその仲間の一人。」
「え? 前の世界? しかし、この娘は魔族… どうなって?」
「うん、だから。色々と話したい事もあるからさ。」
何がなにやら解らなくなったシューザは、兎に角剣を鞘に納める、今の騒ぎでスミスが戻って来、何事かとドアをノックしてきたが、何でもないと伝え部屋に帰らせシューザはドカりと落ちるようにソファに座った。
同じ様にアドラもシューザの向かいにキャロールと隣合って腰掛けキャロールの事、仲間の事、この一連の事件の事を説明した。
「つまり、その子を冒険者共が奴隷商に売ろうとした為、彼女は自己防衛として殺したと。」
「うん!なんか、お肉屋さんに売る前に味見をしようって言って襲いかかってきたからね!」
「お肉屋さん?」
「ああ、コイツ… って言うか俺の仲間には奴隷って概念がないんだ、だから前後の会話で『売る』『味見』イコール『奴隷商は肉屋』って結論になったらしい。」
「純粋なのだな… となれば確かに彼女には罪はないな… それが誠で有るならばだがな。」
「ボク、嘘は言わないよ!」
「まぁ、信じて欲しいとしか俺からも言えないんだけどね。ただ、もし、キャロールが殺る気なら、後から調査に来た冒険者も瞬殺されてると思うよ。」
「で、ススムを殺そうとしたのはリクオとブルータスだと。」
「そゆこと。くだらない嫉妬が原因で殺されかけたよ。」
「もう少し早くそれが解っておれば、地下牢に繋ぐなどと生易しい事はせず斬首してやったものを…」
「え?アイツら地下牢に入ってんの?」
「脱走しおった…」
「何やってんのさ爺ちゃん…」
「返す言葉もないわい…」
二人が脱走したことを聞いたアドラは嫌な予感を感じ虚空に手を伸ばしコネクトと呟く。
すると、次の瞬間アドラの手には黒い宝石の付いたイヤーカフスが三つ握られていた。
そのイヤーカフスをアドラはシューザに手渡す。
「コレ、俺の仲間のコタロウっていうシノビキャットが作った通信機、なんかあった時はコレを耳に付けた状態で俺の事を考えながら呼びかけてよ。そしたら俺に通信が繋がるから。」
「なっ!? つまり、携帯電話か!?」
「まぁ、そんな感じ、ただ、俺と魔王城に連なる奴らとしか通信出来ないけどね。」
「先程からサラッと言うから聴き逃しとったが、魔王城?」
「うん、辺境の奥の森の中、その更に奥に俺の城があるんだ。」
「だから辺境伯は調査費用の増額を陳情しておったのか… つまり、ススムは魔王の元に今はおるという事か。」
「いや、俺がその魔王なの。」
「ん? 魔王城は元々はゲームのデータなのであろう? では、その城にはその城の魔王がおるはずでは無いか?」
「お爺ちゃん、魔王城はね、アドラが建てたお城なんだよ。だからあのお城はアドラのお城でお城の主はアドラなの。」
「ワシの知っとる魔王城と違う…」
「普通のRPGみたいにボスとして魔王が存在する魔王城って訳じゃないんだ。あくまでも俺が遊んでたのはオンラインRPGだから、魔王城も魔王城って名前の家なんだよ。それをリアルマネーで俺が買ったって訳。」
「何故それがこの世界に来とるのか…」
「ウンエイ神が送ったから。」
「何故、そのゲームの運営が異世界にデータの転移ができるのだ?」
「違う違う、ゲーム運営じゃなくてウンエイ神だよ。」
「…考えない方が良いという事は解った。」
額に手をやり、はぁっと何度目かの大きなため息を吐くと、疲れた表情で、しかし、どこか安心した様子でシューザはアドラを見る。
「まぁ、ともあれススムが元気そうで、何より楽しそうで安心した。この事はローズとアデリアにも伝えて良いのか?」
「良い… けど、対外的には羽堂 将は死んだ事にして欲しいんだよね。俺、アドラとして好きに生きたいんだ。」
「そうか、二人には口外せんように伝えおこう。して、今後はススム… いや、アドラ殿が魔族を束ねると言う事で宜しいか?」
「ああ、そうなる。ただ、全ての魔族や魔物が私の傘下にいる訳では無い、もし、理不尽に魔族からの侵攻が有れば連絡をくれると助かる。私の方で話をつけ、話を聞かんようであれば始末しよう。魔物に関しては、基本的に動物と同じ扱いと思ってくれて構わんと思う。ただ、中には知能が高いモノ… グリフォン等の様な魔物を見つけた場合、これも同様に連絡をくれると助かる。」
「承知した。」
「ただ、私は余り多くの仲間を作る気は今の所は無い。正直な話、仲間以外の魔族がどうなろうが知ったことでは無いと言うのが本音ではある。だから、理不尽に侵攻する様な魔族であればそちらの判断で処分してくれても構わんと思っている。」
「むぅ… どちらの証言を信じるかにもよるからの…」
「殿… 俺が嘘発見器の様な物を作りましょうか?」
「おわっ! 今度はなんだ!?」
アドラとの会談中、突然現れた白猫の忍者猫コタロウに驚くシューザ。
そんなシューザを放置してアドラとコタロウは話を続ける。
「出来るのか?」
「人や魔族は嘘をつく時、僅かに血流が早くなったり魔素の流れが変わったり発汗したりします。それを読み取る物を作れば、精度98%程度の嘘発見器なら恐らく可能です。ただ、宝物庫から幾つかの属性魔石を頂きたい。」
「許可しよう。取り敢えず精度98%の物を二つ、精度80%の物を、そうだな十、用意できるか?」
「造作もありません。しからば御免。」
「と言う訳で、嘘発見器を使ってソイツが嘘ついてたら罰する感じで。」
「う、うむ。承知した。」
「では、私はコレで帰るとする。キャロールの指名手配の件、よろしく頼む。」
「わかった。今後も良い関係である事を願う。」
「ふっ… 私もそう願うよ。出来るなら私は静かに暮らしたいからね。キャロール行こう。」
「うん! お爺ちゃんまたね!」
マントを翻し消えるアドラを追うように、満面の笑みを浮かべ手を振りながらキャロールも消える。
そんな二人を見送ったシューザはポツリと「兎娘も悪くないな…」と呟くのだった。
あらすじや本編中でも説明在りますが
将は多重人格者と言う訳ではなく
生活環境などの要因によって場面場面で言葉遣いや対応を変える癖があります。
つまり、キャロール達といる時が本当の年相応の将と言う感じです。
文章などで違和感を感じる方がいるかもと思い此処に追記致しました。




