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タイトルは未定って事で  作者: おいのすけ
最終章【魔王アドラ篇】
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第十八話【燃え始めた炎、悪評の理由】

「出せよ! 俺は聖騎士だぞ!」


 ゼノギア国の城の中、地下牢でそんな事を叫んでいるのは、アドラと共にこの世界に転移してきた男、皇 陸王。


「俺はお前らの言う通りに魔族共を殺してたんだぞ! 裏切りだ! 体良く俺を利用しやがって!」

「黙れ。貴様がそこに入れられた理由は陛下への度重なる無礼による不敬罪だ。そこを勘違いするな。」

「不敬!? 俺はお前らの為に戦ってる聖騎士(パラディン)だぞ! テメェ等の方が不敬じゃねぇか!」

「人語を解する獣だな。話にならん… やはりススム殿が居たからこそだったのだろうな。」

「テメェもかよ! どいつもこいつもススム!ススム!! アイツが何した!? 武闘家なのに戦えもしねぇ! 荷物持ちも不寝番もろくに出来ねぇ! (ツラ)が良いだけの約立たずじゃねぇか!」


  これ以上の会話は時間の無駄だと察した見張りの兵は、話は終わりとばかりに陸王から視線を外す。

 チッっと舌打ちをし兵士の後姿を射殺さんばかりに睨んでいると、突如兵士は糸の切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。


「な! なんだ!?」

「リクオ殿、無事か?」

「その声は… ブルータスか!?」


 牢の隅の暗闇から数人が現れ、その中から見知った人物の声が聞こえた陸王はその声に反応する。

 声の人物が頼りない松明の光に当てられた場所に現れると、同じ様に地下牢に閉じこめられていたのであろう、陸王同様に衰弱したブルータスが立っていた。


「ブルータス! こっから出してくれ!」

「コイツは使えるのか?」

「はい、… 何より聖騎士(パラディン)の天職持ちです。必ず貴方様のお力になるかと。」

「その言葉、信じよう。出してやれ。」


 ブルータスが陸王の声に反応する事無く、真ん中に佇む男、暗がりで良くは見えないがその声はどこかで聞いた事のある声の気がした。その人物にそう話すと、ブルータスにともに着いて来ていた内の一人が陸王の入っている牢に近づいてきた。

 松明の灯りに照らされたその人物は上から下まで真黒の出で立ちの人物だった。

 その人物は牢の鍵を手に持った針金でカチャカチャと弄り難なく錠前を外す。


「出てきたまえ、リクオ スメラギ。お前には私の戦力(こま)になってもらう。その代わり貴様にはそれなりの褒美をやる。貴様、アデリアが欲しいらしいな。私に協力すればあんなガキは貴様にくれてやる。まぁ、断っても構わんぞ? その時は死んでもらうだけだ。」

「誰だアンタ? 死ぬのはゴメンだが、また俺に都合の良い駒になれってか?」

「別に断ってくれても構わんぞ?ただ…」


 暗がりに居る男の声に反応するかのように、目の前にいたはずの黒ずくめの人物は陸王の目の前から掻き消えると、次の瞬間には陸王は地下牢の地面に押し付けられ首筋にはナイフが添えられていた。


「我々の存在を知る者が生きていては困るのでね。理解出来たかな?」

「ぐぅっ… 要するに返事は"はい"か"YES"しか残ってねぇって事か…」

「強要はせん、死にたくばNOを選んでくれても構わんぞ。」

「わぁーったよ。俺も死にたくねぇしな。それに、ここから出してくれて、その上アデリアをくれるってんなら俺としては文句はねぇ。」


 陸王がそう返事をすると、突如陸王の身体が軽くなる。

 どうやら拘束を解かれた様だと陸王を「いつつ」と呟きながらヨロヨロと立ち上がる。


「行きましょう…」

「ああ、もうすぐだ、今はその玉座は貸しておいてやる… シューザ…」


 ブルータスが真ん中に立つ人物にそう声を掛けると男は現国王に大して呪詛を吐き地下牢を後にした。

 助け出された陸王はどこかで聞いた事のある声だとは思ったが、それよりも、アデリアを手に入れた後の事を想像し醜く顔を歪ませるのであった。

 そして、翌日、国王シューザの元にブルータスと陸王の脱走が告げられる。


「首謀者は?誰なのだ?」

「大変申し上げにくいのですが分かっておりません。ただ、オーギュラ大臣が姿を消したとの報告が上がっております。」

「オーギュラ… あのちょび髭大臣か… 彼奴がこの様な大それた事を出来るとは思えんが… ススムの件の報告以来、ローズも床に伏せっておるし、例の首狩り魔族はどうなった?」

「そちらの方も新しい情報は入っておりません。」

「ススムの訃報以降、そちらもピタリと止まりおった… まるでススムが目的だったとでも言う様に… 首狩り魔族自体が嘘の情報という事は無いのだろうな?」

「実際に襲われた冒険者もおります。発見者からの証言です。嘘とは考えられません。」

「しかし、魔族の姿は見とらんのだろう?」

「件の魔族の生息していたダンジョンですが、立地的にはダンジョンが生まれるような環境… 魔素溜りができる場所では無いそうです。それなりの魔力を持った者がそこに潜んだ結果ダンジョンになったと考えられます。ギルドに魔族の事を報告した冒険者も暗闇に光る武器が見え、異変をすぐに察知し逃走したからこそ生き延びたと言った感じの様です。解っているのは刃渡りの長いナイフのような武器を二つ持っていたという事くらいです。」

「ククリナイフ… いや、マチェットナイフか… そう言えばこの魔族が噂になりだしたのは…」

「ススム殿が希少種の魔物…グリフォンを消滅させたと言う報告が城に届いた後くらいからです。」

「コレもススムに繋がっておるのか…」

「偶然という可能性も…」

「ススムが死んだその日にそのダンジョンも消えたと言うでは無いか。」


 シューザのその言葉に「確かに…」と納得してしまうスミス。

 シューザは手のひらを顔に当て上をむくと大きく溜息を吐く。


「では、今は脱走したあの二人を最も警戒せよ。その上で首狩り魔族の情報も集めよ。」

「かしこまりました…」


 深々と頭を下げ退室するスミスを見送るとシューザは小さく呟く。


「これすらも邪神の思惑か…」


 所変わって、魔王城。

 アドラは宝物庫から悪魔の仮面と言う、顔の上半分を隠す黒い悪魔の仮面を取り出し装備してエミと共に辺境の街まで買い物に来ていた。

 一緒に来るメンバーに関しては一悶着あったが、メンバー内で見た目が人間であるのはエミしか居らず、それを説明したらファングとキャロールが耳としっぽを切り落とそうとし慌ててアドラが『止めろ!』と命令をし収めた。

 そんないざこざがあった為、仮面越しでもアドラからは疲労が伺えるので、隣を歩くエミも申し訳なさそうにしている。


「ゴメンなさいねアドラくん。皆、やっと会えた貴方と少しでも一緒に居たいのよ。」

「それは嬉しいんだけどね。自分が思ってた以上に皆に愛されてた事に驚きを隠せない。」

「あら、私だってあの子達と同じ立場だったらきっと同じ事をしたわ。」

「そりゃ光栄だけど絶対やめて。」

「うふふ、わかったわ。それにしてもあっちのお金も使えてよかったわ。」

「だね。あっちのお金が、まさかその名の通りG(ゴールド)… 全部金貨になってるのは驚いたよ。これも多分、コッチの世界に転移した時に最適化された結果なんだろうけどね。まぁ、それなりに高く換金出来て良かったよ。」

「最初は買い叩かれそうだったものね。」

「エミさんは綺麗だし、俺はこんな仮面してるけど、ガタイで舐められたんだろうね。明らかにお祭り気分の子供を相手にしてる感じだったし。まぁ、壁に穴を空けてあげたら急に態度が変わったけどさ。」

「暴力で訴えるのはダメな事よ?」

「そういうエミさんだってシングルソルド出してたじゃん…」


 そんな会話を楽しみつつ二人が歩いているとアドラにとっては馴染みの建物、冒険者ギルドが目に入る。

 既に自分は死んだ事になっている為、特に立ち入る用事は無いが、入口前に貼られたポスターがふと目に入り、アドラは足を止める。


「アドラくんどうしたの?」

「いや、キャロールが討伐対象から指名手配に変わってる…依頼人は… あ、爺ちゃんだ。」

「え? アドラくんのお爺様?」

「あぁ、うん。ゼノギア国の国王の前世が俺の爺ちゃんなんだよ。死んでコッチの世界に転生したらしい。でも、何で爺ちゃんがキャロールを指名手配? あっ! もしかして俺が死んだのキャロールのせいになってんのか!?」

「え? どういう事?」


 アドラは自分がキャロールとダンジョンの深部で出会ったその経緯を笑いながらエミに説明する。

 エミもコタロウからアドラのパーティーでの扱いは聞いていたが本人から直接聞くとは思ってなかった為、その辛かった思い出を何でも無かった事のように話すアドラに胸を締め付けられる思いになった。


「アドラくん…」

「そんな顔しないでエミさん。確かに辛かったけどさ、俺、その結果皆とまた逢えたんだ。だったら笑い話にできるよ俺は。」

「強いのね… キミは。」

「そんな事無いよ。あのクソ野郎共には機会さえあればキチンとお返しするつもりだしね。まぁ、ともかく、このままだとキャロールが可哀想だし、キャロールから話を聞いた上で爺ちゃんとこに行こうかな。」

「キャロちゃんと何を話すの?」

「何で首狩り魔族なんて呼ばれる事になったのか。キャロールの事情も知っときたいからさ。」


 そう言ってアドラはエミに優しく微笑むと『コネクト』と小さく呟き街を後にした。

 城に転移したアドラはエミと別れキャロールを探しす。

 そんなキャロールは、食堂で美味しそうにご飯を食べており、アドラが来たことに気付くと満面の笑みでアドラに手を振った。


「キャロール、ここに居たのか。」

「うん! アドラも食べる? 美味しいよ! 山盛り人参グラッセ定食人参山盛り!」

「おぅ…見事に皿の上がオレンジに染ってんな。遠慮するよ。それはキャロール専用のご飯だから。」


 アドラがそう言うと満面の笑みを浮かべて食事を再開するキャロール。

 美味しそうにグラッセを頬張るキャロールをアドラは優しく見つめながら、キャロールの食事が終わるのを待つ。

 最後のグラッセを口の中に放り込むとキャロールは瞳を閉じて噛み締めるように咀嚼しゴクリと飲み込み、ほぅ…っと満足気に息を吐いた。


「アドラ、お待たせ。なにかお話?」

「ん、あぁ。ほら、キャロールってさ冒険者ギルドの中では首狩り魔族って呼ばれてんだけど、なんでそう呼ばれてんのかなって気になってな。」

「あー、ボク、そんなふうに呼ばれてんの?」

「まぁな。何でも冒険者の首を1人残らず切り落としたって聞いたけど。」

「うん、切り落としたよー。」


 アドラの質問に何でもない事のようにキャロールは答える。

 まさか本当に冒険者達の首を狩っていたとは思わずアドラは驚きの表情を隠せずにいると、キャロールは続けて説明を始めた。


「だってアイツら、ボクをお肉屋さんに売ろうとしてたんだもん!ボクがアドラの事を聞いたら知ってるって言うからついて行こうとしたら、なんか小声で『見た目も良いしコイツはドレイショウに売っちまおう』とか『その前に味見しようぜ』とか言ってるのが聞こえて。それを確認したら襲ってきたんだよ!」

「あっ⋯⋯(察し)」

「で、そのままにしてたら消えると思ってダンジョンの奥に戻ったんだけど、何日か後にまた誰か来た気配がしたから見に行ったらボクを見て逃げて行っちゃったんだよね。まだ死体も残っててビックリしたよーアッチの世界は死んだら消えるのにこっちは消えないみたいでさ。仕方ないから埋めてあげたんだよ?ボクって優しいよね。」

「うむ、キャロールは可愛い上に優しいな!」

「えへへー褒められたー!」


 満面の笑みを浮かべたキャロールの頭を撫でながらアドラ的にキャロール側に非は無いと結論付けたアドラは、よし!と立ち上がる。


「ハンゾウ、居るか?」

「ここにござる!」

「今すぐにキャロールとゼノギア城に行って国王に会いたいんだけど可能か?」

「はっ、既にコタロウがポータルを設置してござる。」

「お前らホント凄いな… それで元の世界ではダンジョン限定とはいえ普通のフィールドMOBなのが驚きだわ…」

「む? 多分褒められてるでござるよな?」

「めっちゃ褒めてる。んじゃ、ちょっと行ってくるから他のメンバーに報告頼むな。」

「承知した。」


 ハンゾウに出かける事を告げるとアドラはキャロールの頭を撫でながら悪魔の仮面を着けコネクトと呟いた。


本日より、一日二話ずつの更新となります。

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