第十七話【GMコールと魔王アドラ】
今回から最終章に突入です。
このまま完結まで毎日投稿できることを願って下さい。
アドラが過去の自分を捨てアドラとして生きる決心をした翌日。
アドラは優雅に紅茶を飲む雅エミにふと気になった事を尋ねる。
「そう言えば、皆、食糧とかどうしてたの? 聞いた話だと結構前からこの世界に来てたらしいけど。」
「んー… そうね、一応宝物庫にアドラくんが残してた諸々はあるんだけど、キャロちゃん達は『アレはアドラのだから許可なく手を出しちゃダメなやつ!』って手を付けてないわ。ただ、各地の調査の為にポータルの魔石と、あと、この間キミを治療する為にエリクサーだけ勝手に使っちゃったわ。食べ物は… ランダム繁殖の魔物は食べ物は必要無いみたい。私達、直接キミに仲間にして貰ったメンバーは必要だからコタロウとハンゾウ達シノビキャットが周辺の食べられそうな動物とか魔物を狩って、それを調理してたわね。」
「うわぁ… サバイバル… 宝物庫の中、勝手に使って良かったのに。」
「ダメよ。アレはあくまで"キミの"なんだからね。」
「はぁい。」
「それより… ふふっ、いい加減涙拭いたら。」
「いや、エミさんとこうやって話出来るのがスゲェ嬉しくて。」
「キミ、初めてあった時もそんな事言って泣き崩れてたわよね。突然感謝を叫びながら泣き崩れたから驚いたのよ、私。」
「おう、思い出って宝物素敵…」
AWO時代のやり取りをキチンと思い出として継承してる仲間達、それが、自分の一方通行なやり取りではなかった事の証明の様な気がして、アドラは神に感謝の祈りを捧げる。
「(ありがとう! 彼女達をここに送ってくれてありがとう!)」
『む? なんじゃ? 誰じゃ?』
アドラの祈りに返事があり、アドラは唖然とする。
『あれ?どなた様?』
『いや、お主こそ誰じゃ?』
『あ、そうですね。人に名を尋ねるのなら、まず自分からが礼儀ですね。僕の名前はアドラと申します。以前は羽堂 将という名前でした。』
『あ、コレは御丁寧に。では、ワシも名乗ろうかの、ワシはウンエイと言う。』
『貴方が神か…』
『あ、うん、そうじゃ。お主らで言う所の神じゃな。お主は… おお! バグロイの奴が送った人間の内の一人か!』
『バグロイ?』
『お主らをそちらの世界に送った愚か者じゃよ。罰として消滅させたがの。』
『おぅ… 神の罰重い…』
『そりゃそうじゃよ、転生等は魂の輪廻じゃからそれ程問題では無いが、強大な力を持つ生命を別の世界に送ればその世界のバランスが崩れてしまうからの。それは、一つの世界を滅ぼすのと同義じゃ。それなりの罰は必要じゃよ。 じゃからその為にワシもバランス調整の為にある物を送ったんじゃが… うむ、良いバランスの様じゃの。』
『あれ? 何かを送るのはダメなんじゃ…』
『それは、その世界で命ある物に限定されておる。ワシが送ったのはデータの塊じゃ。そちらの世界で最適化されとる様じゃが、送る前は生命では無いからの。よく聞いた事があるじゃろ? 現代の技術力では解明できんオーパーツが見つかるとかの。あの様にな、多少その世界の文明を調整する為に物を他所の世界から送る事が有るんじゃよ。それがその世界でどの様な形になるかは、その世界の最適化次第じゃがな。』
『僕等もデータでは?』
『ステータスは恐らくデータから持ってきたのであろうな。しかし、大元はきちんと肉体と魂があろう?』
『成程… 元々の肉体と魂にゲームのステータスや装備データを上書きしたのが俺達という事か、だから、装備はそのままなのに顔とか見た目はアバターじゃなかったわけだ… ん? データの塊を送った? もしかして、運営神が送ったのって魔物の住むお城とかだったりします?』
『お! よく解ったの! そうじゃ、そちらの世界では人と魔族がバランスを取っておった様じゃからな、丁度都合の良い魔物達が住む城がデータとして存在しとったから、それを送ったのじゃよ。』
『貴方が神か…』
『だからそうじゃよ。』
何かと合点がいったアドラは、その場で座り、まさに神に祈る姿勢をとる。
『しかし、お主はバグロイが送った人間じゃろ? 何故ワシにコンタクト出来るんじゃ?』
『いや、それを僕に聞かれましても…』
『ふむ、ちと、お主の情報を見せてもらうぞ?』
『あ、はい。』
『ほうほぅ… お主、本当に人間か? レベルがおかしな事になっとるぞ? そなたのステータスならそこらの魔物等相手にならんじゃろ? 殴るだけで魔素ごと消滅するのではないか?』
『おぅ… レベルとかリアルに言われるとメタい感じしますね。つか、だから魔物消えてたのかよ…』
『ホッホッホッ、コレはお主らの文化から流入した言い方じゃな。物事を表す指標等に便利じゃからな。その方がお主らも何となく解りやすいじゃろ?』
『まぁ、確かに。それで何か解りました?』
『うむ、恐らくお主たちが持っとる技能、お主ら風に言うとスキルじゃな。その中に"GMコール"という物がある様じゃ。スキルとしての役割はウンエイに直接通信を出来るスキルの様じゃの。何故、ワシ名指しなんじゃろ? 他にも沢山おるだろうに。』
『それは、多分、貴方様が運営神だからだと思います。』
『ふむ、よう解らんが、このスキルは危険じゃの。お主が使ってくれて良かったわい。すまぬがこれに付随するスキル、このGMコールと言うやつと問い合わせメールというスキルは消させてもらうぞい。流石に神と直接交信できるスキルは看過出来ぬ故な。』
『あ、はい。』
『まぁ詫びとは言わんが、何か質問が有れば聞こうかの。他の者達はこのスキルの存在を知らぬであろうから、消えた所で解らぬだろうが。お主は知ってしまったからの。有る物を消されると言うのは納得がいかぬであろ?』
『お心遣いに感謝します。では、元の世界に帰る事は?』
『出来ぬ事は無いがしたくはないの。お主らは既にその世界の一つの生命として固定されてしまっておる。それを別世界に移す事はバグロイと一緒じゃからな。ワシは消されとうないぞ。それにな、そちらの世界とお主らの元の世界の時間の流れは同じでは無い。元の世界に戻せたとしても元の時間軸に戻すのは難しい上、そこまでやってやる道理は無いからの。本人に償う意思がなかったとは言え、お主らを送った張本人は消滅する事で責任は取ったわけじゃしな。なんじゃ? やはり元の世界に帰りたいか?』
『だから爺ちゃん達と俺達でタイミングが変なのか… あ、いや、一緒にこの世界に来たメンバーの中に一人、帰れるのなら帰してあげたい者がおりまして。旅の間、多少お世話になりましたから、せめてものお返しが出来ればと思ったのです。』
『ふむ、成程のぅ。まぁ、ワシらはあくまでもバランサーじゃ、何か一つの種族に肩入れする訳にはいかんのじゃよ。解りやすく言うなら、その辺の雑草、お主にとっては雑草でも、ワシらにとってはそれも等しく命じゃ。何か一つの種に肩入れすれば、それは世界のバランスを壊すことと同義。』
『つまり、そのどれか一つに肩入れする神が邪神と言う事ですか?』
『おお! それは中々的を射たネーミングじゃな! うむ、邪なる神、邪神じゃな! よし、ワシが考えたと皆に自慢してやろう。良いかの?』
『あはは、良いと思いますよ。成程、だからバグロイという神も邪神という括りになるのですね。』
『うむ、邪神バグロイ… ちょっとカッコイイのが癪じゃのぅ。』
『まぁダークサイドの物って男心をくすぐりますからね。』
『うぉっほん! あ~他には何かあるかの? 無いのであれば急ぎ他の二人からもこのスキルを消しときたいのじゃが? それに、今のこのやり取りもある意味お主に肩入れしとると取られるかもしれぬしな。』
『確かにそうですね。これ以上運営神に御迷惑は掛けたくないので大丈夫です。本当にありがとうございます。』
『ホッホッホッ。良い良い。なかなか気持ちの良い人間?じゃの。アドラと言ったかの? 肩入れは出来ぬが陰ながら応援しとるよ。』
そう言い残し、ウンエイはアドラからスキルを消したのだろう。確かに何かと繋がっていた感覚がプツリと切れたのが解った。
「アドラくん? アドラく~ん?」
「はっ!? どうしましたエミさん?」
「それはこっちのセリフよ。急にボーッとしちゃうんだもの。行くんでしょ? 宝物庫?」
「あ、そうですね。食糧とか、腐ってないといいけど…」
アドラがそう呟くと、エミは口許に手を持っていきクスクスと上品に笑う。
「アドラくん、宝物庫の中は時間が停止してるのよ? 腐ることなんて無いわよ。昔からそうだったでしょ?」
「おぅ… 俺達じゃなくて魔王城がチートだったでござる。」
「ふふ、ハンゾウのモノマネかしら。」
そこで、ふと、先程のウンエイとの会話をアドラは思い出す。
「ちょっと待て… 転移した時はメニューウィンドウが出なかったからゲームのシステムは使えないと思い込んでたけど…もしかして… インベントリ…」
アドラはそう呟くが何も起きる事は無く、そんなアドラをエミは不思議そうに見つめる。
「アドラくんどうしたの?」
「いや、ちょっと試したいことがあって。インベントリはダメか… メール機能… あ、そもそもフレンド居ねぇわ。ショップ! 開かねぇよな。そりゃそうだ、大体開いた所で買えねぇし。あと考えられるのは… 魔王城関係か… コネクト… 宝物庫。」
アドラがそう呟いた瞬間、目の前に半透明の板の様な物、今は懐かしいメッセージウィンドウと酷似した物が眼前に表示された。
「マジか、マジか! マジかぁ!! コレが日本円にして20万円の底力! 異世界来ても本気出しすぎでしょ! えっと… 成程、画面表示はまんまAWOと一緒だ! 焼き鳥を取り… 出せたあぁああああ!やったあぁぁぁぁああ! 個人のインベントリは使えなかったけど宝物庫にコネクト出来るなら無敵じゃねぇか! 転移する前にアイテム全部宝物庫に入れてた俺、マジグッジョブ!」
「ふふふ、いつものアドラくんに戻ってきたわね。宝物庫にコネクト出来たのなら案内は要らないかしら?」
「あ、ごめんエミさん、一人で盛り上がっちゃって。そだね、また時間ある時に適当に散歩がてら探検する事にするよ。」
「わかったわ。じゃあ、アドラくんにとって一番大事な所に案内しなくちゃね。」
「ん? 一番大事な所?」
「そ、キミはこの城の主なんだから、玉座もキミが来るのをずっと待ってたと思うわ。」
そう言ってパチンとウィンクを投げるエミ。
その破壊力にアドラは胸を抑えながら、ありがとうございます!ありがとうございます!とまた泣き崩れた。
そんなアドラを立たせてエミは玉座の間にアドラの腕を組みつつ案内し扉の前までやってくる。
「ココが玉座の間。」
ゴクリと喉を鳴らし巨大な漆黒の扉を両手で押すと大した抵抗もなくスーッと開いて行く。
床に敷かれた金の縁が刺繍された赤い絨毯が真っ直ぐに伸び、その先にはごつく、しかしながら優美な輝きを放つ、まさにこの魔王城の主の為の玉座がそこに鎮座していた。
そしてその玉座に座る、既視感バリバリのジェネラルバーサーカー。
「あ、殿、暖めておきました!」
「それ、秀吉な。」




