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タイトルは未定って事で  作者: おいのすけ
第二章『ゼノギア篇』
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第十五話【ボク等はキミを探してる】

 将達がゼノギアに召喚される一月前、ゼノギア国辺境に隣接する魔族領土の奥地にて漆黒の城が突如現れた。

 辺境を管理している辺境伯は突如現れた城を警戒していたが一週間程何の動きもなかった為、王城には謎の城が現れた事のみを報告し、現在の所目立った被害は無いとして報告を締めくくった。


 そんな、突如現れた城の中には長袖の桃色のパーカーにサロペットを着た淡い桃色の髪のをショートボブに切りそろえた人兎と、白いタンクトップにダメージジーンズをはいた白銀の髪の毛をオールバックにした人狼。白いブラウスにオレンジのリボン、ライトブラウンのブレザーとブラウンのチェック柄のプリーツスカート、所謂どこかの学校の制服を模した服を着た水色の長い髪を縦ロールにした美しい少女と、所々に金の刺繍が入った魔術師のようなローブを着た骸骨。そして、真っ黒の体毛に包まれた、二足歩行な事と忍装束を着ている以外はどこにでも居そうな、ややむっちりとした一匹のシノビキャットが広間に集まって居た。


「今日もアドラ呼んでくれなかったねぇ~。」

「まぁ、アニキにも、たまには人間と一緒に行動したい時があるんだよ。」

「拙僧は、主殿に仕えてまだ日が浅い故、浅学ですみませぬが。人間は人間同士とつるむのが普通ではありませんかな?」

「まぁ… 普通はそうね。アドラくんの場合は、ちょっと普通じゃないから。」

「しかし、不思議でござるな。数日前迄増えていた拙者の配下の下忍共の供給がとんと止まってござる。繁殖機の方は動いてござるが…」


 各々が広間で、ついこの間まで一緒に冒険していた、仲間であり主人であり相棒のアドラの事を語っていると、ふと、そんな事をシノビキャットのハンゾウが呟く。

 その呟きに何が不思議なの?と首輪傾げる人兎のキャロール。


「テイムするのを止めてるだけじゃない? 流石にこの城をシノビキャットっで埋め尽くす事はしないだろうし。」

「それは、そうなのでござるが… 何やら殿との繋がりが最近感じられぬのです。」

「繋がり?」

「いや、何となくと言った、感覚的な物なのでござるが…」


 ハンゾウのそんな言葉に人狼のファングは俺もだと口を開く。


「気の所為かとは思ってたんだが、ハンゾウもそう感じたか?」

「ファング殿もでござるか?」

「おぅ、なんつーか。今迄はこの城にコネクトされても魔力的な繋がりを感覚的に感じてはいた。それが今は感じねぇ…」

「言われて見ればボクもだ…」

「拙僧もで御座いますな。死者の眠る地で主殿に忠誠を誓った時に繋がった魔力のパスが感じられませんな…」


 僅かにあった違和感をファングとハンゾウが言う事で、自分の気の所為では無かったとキャロールとジルドレも同意し、貴女はどうなの?といった視線で四人が制服を着た少女エミを見る。


「私の場合は皆とは彼との繋がり方が違うから何とも言えないけど… 実はあの日から私と繋がってるマナジェムの魔力はずっとこの城にあるの。でも、アドラくんは居ないのよね…」

「むむむぅ~アドラ~!どこ行っちゃったのさ~!」

「ハンゾウ、おメェらの索敵能力で探しに行けねぇのか?」

「ファング殿も存じていると思うでござるが、拙者達、配下のモンスターはコネクト以外での外界へのアクセスは出来ぬでござる。」

「だよなぁ…」

「アドラ… もうボク達と遊んでくれないのかなぁ… アイツらの方が良いのかなぁ。いっつも執拗いあの金髪野郎と一時的にパーティー組むって城に送られて、それ以降コネクトしてくんないし…」

「だ、大丈夫だって! アニキが姐さんの事捨てる訳ねぇよ!」

「ファングゥ…」


 ポロポロと泣き始めるキャロールを慌てた様にファングが宥めていると、ハンゾウの部下であり白の忍装束を纏ったシノビキャット、コタロウが広間に現れる。


「緊急事態だ。この城は、どうやらどこか別の場所へ転移したようだ。」


 コタロウの報告に全員は耳を疑う。


「コタロウ、それは、誠でござるか?」

「あぁ、城の窓から見える風景。いつもの森に酷似しているが僅かに生えている位置が違う、枝の付き方も場所や高さが微妙に異なる。」

「え、何それ間違い探し?」

「あ、いや、キャロール殿、城から出られぬのであれば、城の中から見える情報だけでも何かが分からぬかと…」

「俺が進言し動いた。」


 ハンゾウの言葉に被せる様にコタロウは言うと、ハンゾウはコタロウ睨みつけ、そんなコタロウは『コレは俺の手柄だ。』とでも言うようにニヤリと笑った。


「そういや、空気の色、つうか、匂いっつうか、そう言うのも違う気がすんな。」

「はっ! 俺もそう感じたので、数合わせに殿が捕まえたゴブリンに城の外に出られぬか試すよう命令した。」

「そんな危ない事させたの!?」

「本人も危険は承知の上で了承した。その代わり、殿が帰ってこられたら『自分、名前が欲しいッス!』と言っていた。一般的なゴブリンと違い、小柄で顔の丸い全体的に弱そうなゴブリンだったが度胸は据わっている。」

「ま、やっちゃったもんは仕方ないか!」

「して、その結果は如何でしたかな?」

「俺は回りくどいのは好かんから結論から言う。自由に出入りが可能だ。そして、それがわかった俺は、直ぐに近隣を調査し、棲息している生き物、自生している植物、そして、聞いた事もない村や街、国の名前。結果、城ごと異世界に転移したという結論に至った。」

「え… 城から出られるのでござるか?」

「可能だ…」

「え? 勝手に近隣の調査をしたのでござるか?」

「見つからなければ問題なかろう。」


 コタロウの勝手な行動に、ハンゾウは叱責しようと口を開こうとしたが、それは、続くキャロールの言葉で飲み込む事になる。


「なら、ボクがアドラを探しに行こう!」

「いや、でも、姐さん! 異世界っつうならアニキもこっちに来てるかなんて…」

「そうよ、キャロちゃん。アドラくんがもしコッチに来てなかったら余計な混乱を産むわ。」

「でも、もしかしたらコネクト出来なくて困ってるかもしんない!」

「ふむ、コタロウ殿がココに来れたという事は、城へのコネクト自体は可能な様ですな… となれば、城の機能は失われてはいないという事になります。キャロール殿の言葉も一理御座いますな。」

「それでもダメよ。」

「俺もソレはオススメ出来ん。コチラの世界にもアチラの世界と同様、冒険者が居る様だが、コチラの世界では、我々魔物や魔族は必滅対象の様だ。有無も言わさず殺されている魔物を数匹目にした。」

「殺伐とした世界だなぁ…」


 外に出られると解ったのに、アドラを探しに行けないジレンマにキャロールはうううーと唸り始める。

 そんな時、はっ!と何かに気付いたようにハンゾウは目を見開く。


「キャロール殿、手はござるぞ! 殿は我らとパーティーを解除する前に繁殖器で我が眷属を増やす様にしていたでござる!」

「だから何さ?」

「ふふふ、お忘れでござるか? 拙者達は忍でござる。隠密任務は得意中の得意。先ずは配下のシノビキャット達に、この世界を調査も兼ねて飛び回って貰うでござる。」

「ふんふん」


 何やら希望が見えてきたキャロール達は目をキラキラとさせ、ハンゾウの言葉を聞く。


「そして、各場所にポータルの魔石を設置し我らが何時でもコネクト出来る様に準備をしつつ、情報を集め、殿の情報が入り次第、その近くにコネクトする。と言う感じでござる。」

「それって、結局ボク等は、その報告がある迄は動けないって事ジャン!」

「それは、仕方が無いでござる! キャロール殿達は四血衆(しけっしゅう)でござるぞ!いきなり最大戦力で異世界で行動すれば面倒な事になるでござる! 絶対面倒な事になるでござる!」

「姐さん、ここはハンゾウ達に任せよう。ハンゾウ頼んだぜ?」

「お任せくだされ! 我等シノビキャットの底力、お見せするでござる!」


 ………


「お任せくだされ!我等シノビキャットの底力、お見せするでござる!」


 そう叫んだのはハンゾウでは無く、キャロールだ。

 二ヶ月前、ハンゾウが皆の前で言ったセリフをポーズ付きで真似をするが、その瞳には怒りが篭っている。


「そんな風に息巻いた君の名はなんだったっけ?」

「ハ、ハンゾウでござる。」

「うん、そのカンゾウ君はさ、アドラの情報とかも集めるって言ってたよね?」

「ハンゾウ…」

「言・っ・て・た・よ・ね?」

「ハイでござる…」

「ボクからの単純な質問なんだけどさ。知らない人の情報をどうやって集めんの?」

「そ、それはでござるな…」

「ボク達は直接アドラとの親交が有るけど、繁殖器で増えたあの子達は知らないよね? って言うか知らないって言ってたんだよね? でも、カンゾウ君が探せって命じたから探してるんだってさ。」


 コレは、キャロールが休憩中にお茶を飲んでいる際に発覚したのだが。

 キャロールがお茶をしていると、城の食堂にシノビキャットの集団がやって来たのだ。

 大変な任務をさせていると言う自覚があった為、キャロールは自分には似合わないとは解っていたが、動けない自分たちの為に動いてくれてるのだと感謝を述べに彼らの方へと向かった。

 シノビキャット達は自分達の上司の、更に上の上司に緊張したが、キャロールがニコヤカに礼を言うので緊張を解き、笑顔になった。

 一緒に食事をしつつキャロールが話をしていた時にそれは起こった。


「しかし、ハンゾウ様も中々ご無理な命令をなさるよな。我々、調査などは得意であるが、流石に知りもしない人物の行方を調査せよといわれてもな?」


 と一匹の虎柄のシノビキャットが愚痴を零すと、向かいに座っていたハチワレのシノビキャットが全くだと返事をする。


「その、『アドラ様』と言う方がこの城の主だと言うのは解るが。直接お目通り頂いてないから、どの様な外見なのか、そもそも男性なのか、女性なのかすら我らには解らんと言うのに…」

「聞いても『アドラ様はアドラ様でござる! 我らの殿でござる!』としか言ってくれないし。」


 そんな会話を聞いたキャロールは無表情になると、彼らにハンゾウが今どこにいるかを訪ねこのやり取りに至った。


「いや、でもアドラ様とはどんな方だと聞かれればアドラ様はアドラ様だと答えるしかないでござろう!」

「似顔絵とか手段はあるでしょ!」

「拙者、絵心はござらん! なればキャロール殿が描いてくだされば良かろう!」

「はぁ!? ボクが絵なんてかける訳無いジャン!」

「な、ならば拙者も、文句を言われる筋合いは無いでござる!」


 などと、二人がワーワーギャーギャー言い合いをしていると、ふと、城に大きな魔力のアクセスする気配を感じた。


「ハンゾウ!今の!?」

「うむ!コネクトと同じ反応でござる!」

「姐さん!ここに居たか!今コネクトルームに俺たちが見た事ない魔物が転送された!」


 ハンゾウの部屋に慌ててやって来たファングはそう報告するとそのままコネクトルームへと駆け出す。

 そんなファングをピョンピョンと跳ねるように追い抜きキャロールもコネクトルームに向かう。


「(アドラ!アドラ!アドラ!アドラ!!)」


 ファングの報告では魔物という事だったが、そんな事は頭に残ってないらしく、キャロールはバンッとコネクトルームの扉を開け中を見る。

 部屋の中には巨大な翼を携え、頭がワシで体が獅子の魔物、所謂グリフォンがそこに居た。


「アドラ… じゃない…」


 ガッカリとその場に崩れ落ち、追って来ていたファングがキャロールを気遣うように立たせる。


「姐さん、魔物って言ったろ…」

「聞いてないモン…」

「つか、コイツなんだろ? 見た事ねぇけど…魔物だよな?」

グァッ(そうだよ)!』

「どうしてココに?」

グアッ、(人間と戦ってて、)グアッ(気付いたら)グアッ!(ここに居た!)

「人間?」

グァー、グァッグァ(うん、白い服着た)グァグアッ(武器で戦わない人間)


 ファングが話を聞いた所、人間に子供を殺されそうになった為、人間を始末したのだが。それが原因でさらに強い人間が派遣され、その内の一人を仕留めようとし、白い服の男の反撃にあい、気付いたらここに居たらしい。

 獲物を仕留めるのを邪魔した白い服の人間。

 しかし、今はその白い服の人間に敵意はなく、寧ろずっと一緒に居たいと思う程に好きだと言う。

 魔物のそんな話を聞いたファングは、忍者なのに遅れてきたハンゾウに、この見たことも無い魔物を城の寛げる所に連れて行くよう命令する。

 素直に命令を聞き、ハンゾウは魔物を庭に案内しようとコネクトルームを出る際、エミとすれ違った為、頭を下げて部屋を退室した。


「ねぇ、ファングくん、外部からちょっと大きな魔力を持ったナニかの接続があったみたいだけど、今のグリフォンがそう?」

「エミの姐さん、アイツ、グリフォンっつうんですか?」

「えぇ、私が知ってる物語に似たような魔物が出ていて、それとそっくりだったから。」

「でも、アドラは居なかったよ…」


 見るからにガッカリしているキャロールに優しくエミは微笑み頭を撫でる。


「キャロちゃん、ガッカリしないの。アドラくんじゃなかったけど、テイムモンスターがコネクトしたって事は、この世界に間違いなくアドラくんが居るって事じゃない。」

「そっか… そっか!」

「アニキの事だし、あの魔物も珍しい魔物かもしれねぇ。アイツが居た場所を調べればもしかしたら…」

「コタロウ!居る!」

「ここに…」

「グリフォンって魔物がどこに住んでいたか解る!?」

「お待ちを… ゼノギア国、東部、ギリの街の近くのホロ山脈… 冒険者ギルドにて討伐依頼有り… 五人の冒険者を派遣。対象の魔物が消滅した為、依頼は失敗扱い… ご苦労。との事です。」

「何やったの?」

「俺は少々物いじりが好きなので、通信機を作ってみた。情報を集めるのに重宝している。」

「コタロウ、ハンゾウより優秀じゃない?」

「同じシノビキャットでも、個体差がある。アイツにはアイツの秀でた所が有る。だが、その言葉は素直に嬉しいし俺もそう思う。」

「あはは。で、ソコにボクが行く事って出来る?」


 コタロウとキャロールのそんなやり取りにファングとエミが待ったをかける。


「キャロちゃん!今行くのは早計よ!」

「俺もそう思うぜ! 姐さん落ち着いて!」

「ボクは落ち着いてる。ねぇ、コタロウ。その通信機、余ってる?」

「コレを。」

「準備、イイじゃん。」

「こうなると思っていた。ギリの街近辺に位置する森。ホロ山脈と街の中間にある森だが、その奥に朽ち果てた小屋がある、そこにポータルを設置してある。」

「キミ… やっぱりハンゾウより優秀だよ。迎えに行くよ、待ってて、アドラ…」


 そう呟くとキャロールは『コネクト』と言葉を紡ぎ、姿を消す。

 コネクトルームにはコタロウの「それでも奴の方が上なのさ… 悔しいけどな」という呟きが思いの外大きく響き、白い体を朱に染めてコタロウは姿を消した。


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