第十四話【君の笑顔が、今では遠い過去のよう】
「もぅ一度言ってくれんか…」
「は、ハドウ ススムは森のダンジョン内で首狩り魔族の手により殺害されました。」
抑揚のない声でそう報告するブルータスを睨み、シューザは奥歯を噛み締める。
「…貴様らは… 何をしていた…」
「我々はキャンプを設営し、ススムが不寝番を名乗り出た為、先に就寝。突然の騒音に目が覚めテントを飛び出した所、首を落とされ死体となったススムを発見致しました。」
「一人で不寝番をさせていたのか…」
「いや、あのさ王様、アイツ、ホンットに戦闘では役に立たない訳、ギルドからの報告からもあったと思うんだけどさ、マジで何も出来ないのよ。だったら不寝番位は一人でこなしてくれなきゃさ。」
「…なに?」
「それよりさ、新しい人材が欲しいんだわ。今度はちゃんと戦える役に立つ奴で宜しく~」
前々から陸王のこの態度に腹を立てていたシューザだったが、孫である将までバカにされた為、遂に我慢の限界を超えた。
奥歯を噛み砕き、口の端から血が流れ、玉座の肘置きを渾身の力で叩き壊す。
シューザのその姿に、流石にマズイと感じたのか、陸王は態度を改めようとしたが時既に遅く、謁見の間に執事のスミスを筆頭に数人の兵士が雪崩込む。
「その痴れ者を捕らえよ… 地下牢に入れておけ…」
「ち、ちょっ! 王様! 今のは悪かったって! ちょっと言葉が過ぎた!」
「早くしろ、耳障りだ。」
数人がかりで捕縛された陸王は喚きながら退場させられる。
シューザはブルータスを睨みつけたまま黙り込む。
『スリザリン、この、報告は誠か…』
突然シューザから念話が飛んできたスリザリンは一瞬驚くも直ぐに返答する。
『はい… 魔物が集まる危険性から死体は焼却処分にて供養しました…』
『何故このような事になった… 不寝番を一人でさせるとは…』
『幾度か報告の手紙を送りましたが、ススムのパーティー内での扱いは奴隷に近い物でした… 全員の荷物持ちにキャンプの設営、不寝番。後から知ったのですが宿に泊まった際も、ススムだけは馬小屋に押し込められていたそうです…』
『それを、貴様らは、黙って見ていたのか…』
『いえ、私もメグミも何度も待遇の改善を訴えました。しかし、その度にススムの待遇は悪くなる一方だったのです。報告にもその様に書いていたはずです… お返事を頂かなかったので陛下も黙認してらっしゃるのかと思っておりました… 潜在能力鑑定の際に陛下達もススムの鑑定結果に肩を落とされていたので、ススムには期待していないのかも、と…』
『そんな訳… そんな訳があるまい… そもそも、その様な、報告は、来て、おらん…』
『そんな…』
『それをやっとったのはあの痴れ者だけか?』
『い、いえ… ブルータスも… 一緒にススムを虐げておりました…』
スリザリンの報告を念話で聞き終えると、シューザは殺気を込めてブルータスを見抜く。
「ブルータス… お前もかぁぁぁああああ!」
「はっ!? 何の事でございましょう!?」
「コヤツも地下牢に繋いでおけ!」
「陛下! 私が何を!?」
「この俺に、嘘の報告をするとは舐めた事をしてくれる… なぁブルータス!」
「陛下! 陛下あああ!」
陸王同様、数名の兵士に拘束されブルータスも退場させられると謁見の間は静寂に包まれる。
そんな静寂を打ち破ったのも、また、シューザだった。
「各冒険者ギルド支部に通達せよ… 首狩り魔族を草の根分けてでも見つけ出しワシの元に連れてこいとな… 出来た者には爵位でも財宝でも領地でも好きな物をくれてやる… だから、その、魔族を、生かして、ワシの元に、連れてこい!」
「「はっ! その様に!」」
将のあの笑顔を、もう二度と見る事が出来無い悲しみと怒り、そんな感情をぶつける矛先のないシューザの拳からは、涙の様にシトシトと赤い血が零れ落ちていた。
時は遡り、トラップを発動させた将は自由の聞かない身体のまま斜面となった落とし穴をゴロゴロと転がっていく。
「(何とかあの場からは逃げられたけど、コレ、到着先に魔族いたら詰むよな…)」
そんな事を考えていると自分の横を生首がゴロゴロと転がっていく。
「(あ~… 俺の死体が用意できなかった時の為の予備が殺られたのか… あの大きな袋… だろうなぁ… スマン、見知らぬ人よ、恨むならアイツらを恨んでくれ)」
まだまだ続きそうな坂に、割と冷静になってきた将は今後の事を考え、先ずはこのダンジョンを抜け出す事が先決だと結論づける。
そして、冷静になった瞬間、身体中を襲う激痛に気付く。
「(落とし穴に落ちた時にやったか… あ~… 右腕と左脚、コレ折れてんな… 内蔵もこれ多分やられてる… あぁ… コレ死ぬやつだわ…)」
どう足掻いても絶望とはこの事だろう。どの道助かる事がないのかと気付いた将はキチンと別れの挨拶を出来なかったシューザとローズ、アデリアに心の中で謝罪をする。
そして、坂が終わり広い空間にゴロゴロと転がり倒れ伏す将。
ろくに動かない身体で何とか周りを見回そうとして真っ暗なことに気付く。
そして、そんな暗闇の中に浮かぶ、恐らく魔力が篭もっているのであろう事が伺える二対のマチェットナイフが目に入った。
「(ははは… 首狩り魔族のご登場だよ… ホンット… ツイテるわ…)」
そこで意識を手放した将に、二対のマチェットナイフを持った魔族が近付き、気絶した将の頭をそっと撫でると『コネクト』と呟き、その場から消え去ってしまった。
ダンジョンは強大な魔力のある所に生まれる。その大本が無くなったダンジョンはその存在を維持出来ず、ダンジョンもまた、この世界から消滅したのだった。
所変わって、ココは医務室のような場所。
ベッドに横たわる将を四人の魔族が囲んでいた。
「で? どうなの?」
「恐らく身体の損傷等で気絶していたのでしょう。エリクサーも使いましたし、もう間もなく目覚めるかと。」
「ホントに? ホントのホントに?」
「姐さん、爺さんがこう言ってんだし落ち着こうぜ?」
「そうよ、息もしてるんだし。」
何か周りが騒がしいと感じ、最後の記憶を遡ると自分は首狩り魔族と遭遇していたと思い出し将は飛び起きる。
すぐさま声のした方から距離を取り臨戦態勢に入ると、そんな将の気持ちなど知った事かと、嬉しそうに、心から嬉しそうに発した声が将の耳を刺激した。
「やっと… やっと逢えたね… アドラ…」
涙を流し笑顔を浮かべた目の前の兎の魔族の口から出たソレは、かつて、元の世界で将がプレイしていたゲーム、AWOで使用していた将のプレイヤーネームだった。
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