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タイトルは未定って事で  作者: おいのすけ
第二章『ゼノギア篇』
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第十三話【追放される役立たずの武闘家。今更役に立つとか言われてももう遅い】

「おい! ススム! 早くしろよ! 荷物持ちもマトモに出来ねぇのかよ!」


 水色のフルプレートメイルを着こなし大量の荷物を持つ将にそう叫ぶのは皇 陸王だ。

 あの、存在能力鑑定から3ヶ月、将達は冒険者ギルドに冒険者と登録し積極的に依頼を受けていた。

 シューザに聞いていた以上に魔族の脅威は凄まじく、国王からの派遣という事で登録時はかなり喜ばれた。

 次々と依頼を達成しギルドの評判を上げる彼等だったが、たった一人、将だけがパーティー内でもギルド内でも評判は芳しく無かった。

 その理由は将がこの世界に来て初めて発覚した異能であった。

 簡単な依頼だからと受けたコボルトの集落討伐、多くのコボルトが群れを生して居たのだが、その時に将が相手取った魔物だけ、何故か将が触れると消滅してしまうのだ。

 消滅してしまえば討伐証明も手に入らない為、将は珍しく焦った。

 コボルトの討伐証明は何とか他のメンバーが手に入れていた為、依頼は達成出来たが、その後も続き、遂には希少種の魔物、グリフォン討伐依頼で将がグリフォンを消してしまった事で将は戦力外通告を受けたのである。

 勿論、依頼も失敗扱いとなり、同じ事が度々起こった為ギルドでの評判も落ちてしまっていた。


「ススム? 私達の分は良いのよ? 私だってメグミだってそれくらいは持てるわ。」

「そうだよ、羽堂くんがそんなにする事…」


 そう、心配するように声を掛けるのは魔術師のスリザリンと将と一緒にこの世界に来た恵美である。

 スリザリンも当初は将の事を軽視していたが、行動の端々の見える所作や、なるべく関わらないようにしているが決して他人を蔑ろにするような人物では無い事が解り、その上、グリフォンの襲撃で死ぬ所だった自分を身を呈して助けてくれた将に恩義を感じていた。

 もっとも、その時に将がグリフォンに反撃したためグリフォンが淡い青色の光を放ちながら消滅し、将の待遇も更に悪くなったのだが。


「メグミ、リクオの言う通りですよ。彼は戦闘も出来ないのですから、せめて荷物持ち位はして頂かなければ。」

「そうそう、働かざる者食うべからずってな。俺達のパーティーにただ飯喰らいは要らねんだわ。だよなぁ~将ぅ~」

「… 奴の言う通りだ。事実、俺は戦闘では役に立ってない。それ所か足を引っ張っている。だから、聖さんもスリザリンさんも気にしないでくれ。」


 そう言って力なく微笑む将に対して罪悪感を覚えるも、ここで恵美達が将を助けると、更に将の立場が悪くなるのを知っていた為、恵美もスリザリンも小さな声で謝罪し話を切り上げ、スリザリンは将が持つ大きな袋の事をブルータスに聞く事にした。


「ねぇ、あの大きな袋は何? まさか嫌がらせで持たせてる訳じゃ無いわよね?」

「スリザリン殿、ソレは心外です。今回の依頼『謎の首狩り魔族の調査』ですが、この森の中のダンジョンに潜むという事しか解ってないのです。なので長期戦も考え非常食等を準備したのですよ。まぁ、多少買いすぎた気もしないでもありませんが、飢えるよりはマシですからね。」


 と、そんな風に答えブルータスはニッコリと笑う。

 どうせススムに持たせるからと考え無しに買ったのだろう事を伺えた為、スリザリンはハァ…と小さくため息を吐く。

 リクオと同様にブルータスもススムに対しての当たりが強い事を苦々しく思っていると5人の前にダンジョンの入口が見えて来た。


「アレか?」

「恐らくそうでしょう。数日前までは無かったと言う話です。準備は万端ですし、入りましょう。ススム殿、先頭を頼みますよ。」


 そう言ってブルータスは将に松明を持たせ、将の耳元で囁くように「万が一罠があるといけませんからね。」と言ってニッコリと笑う。


「俺は探知機扱いか…」

「ん? ススム殿、何か?」

「いや、何でもない。」


 こんな事は今更始まった話ではなく、度々リクオとブルータスからはこう言った嫌がらせを受けていた。

 納得できる出来ないは別として、理由も理由の為、将も恵美もスリザリンも文句は言えず、将は自分の不可思議な異能を悔しく感じつつダンジョンを進む。


 この世界のダンジョンとは、生き物の様で魔力の高い場所等に発現する事が多い。

 しかしながら、この場所は今まで特別魔力が強い場所では無かった。にも関わらずダンジョンが生まれ、それを調査に来た高位の冒険者が帰ってこず、再調査をしに来た新しい冒険者が首の無い冒険者の死体を発見しギルドに報告した事から将達に依頼が回された。

 そんな報告を聞いていた為、それなりの戦闘を覚悟していたが、ダンジョン内部は驚く程に静かで、魔物が現れる様子も無く、その日はダンジョン内でキャンプを張ることとなった。


 二対のテントを将が張り、焚火の準備をし持っていた荷物の中から鍋などを出す。ブルータスが食料だと言って用意していた袋を開けようとした時、ブルータスが慌てて将を止める。


「ス、ススム殿! それはあくまでも非常食なので、もう1つの小さな袋の方からお願いします!」

「ん? 解りました。」


 どうせどちらも食料なら、どちらからでも問題ないのではと思ったが、それを言えばまた難癖つけられて食事を抜かれそうだと思った為、そんな疑問を飲み込んで、将は言われた通り小さな袋の方から具材を出しスープを作り始める。


 料理が終えた将はそれぞれにスープと干し肉数枚、そして、一欠片のパンを全員に配る。


「おい、将ぅ、お前そんなに要らねぇだろ? 俺は戦闘もする訳だし貰うぞ。」


 そう言うと陸王は将からパンを奪う。


「そうですね… 私も前衛として剣を振るいますので力を付ける為にも…」


 と、今度はブルータスが将から干し肉を全て奪った。


「ちょっと! 二人とも!」

「それは無いんじゃないかしら? ススムだってここまで全員の荷物を運んだり、今だってキャンプの設営とか料理とかしてくれたのよ!」

「でもよ、荷物持ちもキャンプの設営も料理だって"死ぬ"事は無いんだぜ? 俺達は命を張って魔物と、魔族と戦ってんだ。逆にスープだけでも飲ませてやってんのは優しさだろ? 流石に食わなきゃ死んじまうしな。」

「メグミもスリザリン殿も落ち着いて下さい。リクオの言う通りなのです。彼はこのパーティーで戦力として働けていない。一番死の危険性から遠いのです。」

「そゆことー。あ、将、お前不寝番もやれよ。」

「皇くん!」

「いや、見張りくらい出来るっしょ? ただの徹夜だぜ?」

「ただの徹夜と、命の危険を感じながらの徹夜じゃ意味が違うよ!」

「んじゃメグミもするか? 俺はどっちでもいいぜ?」

「リクオ殿、メグミは聖女、このパーティーの要。万が一の時パフォーマンスが落ちていればこのパーティーの存続に関わります。」

「だってよ。恵美、食ったら寝とけよ。スリザリンさんもなー。」


 話は終わりとばかりに陸王は将から奪ったパンにかじりつき、ブルータスも干し肉を口に含む。

 恵美とスリザリンは将への申し訳なさの為、パンと干し肉を残し、将同様、スープだけ飲むと将に謝りテントの中へと入っていった。


「あ~あっ! 役立たずの誰かさんのせいでパーティー内の空気が最悪だぜ!」

「全くですね。ススム殿のせいでメグミもスリザリン殿も迷惑をこうむっている。」


 空気を悪くしてるのはこの二人なのだが、それを全部将のせいにし食事を終えた二人はもう一つのテントに入る。

 そして、テントの入口を開けて陸王は将に言い捨てた。


「寝んじゃねぇぞ。」


 パチパチと焚火の爆ぜる音がダンジョン内に響く。

 ただの洞窟であれば火を起こすなど以ての外なのだが、ダンジョンは洞窟とは別物なのか一酸化炭素中毒になるような事は無い。

 そんなダンジョンの不思議を将が考えていると、急な眠気と体の痺れに気付いた。

 コレはなんだ?と疑問に思っているとイヤらしい笑みを浮かべてブルータスがテントから出てくる。


「そろそろ効き始める頃だと思いましたが丁度良かったようだ。」

「…っ か、あ…」

「ふふふ… まともに喋れないでしょう? 麻痺毒を仕込みましたからね。」


 ブルータスの言葉に、料理に仕込まれたかと思ったが料理を作ったのは自分で同じ物を彼らも食べている事に気付き、何時やられたのかと視線をさまよわせていると、答え合わせとばかりにブルータスは話を続ける。


「松明ですよ。持ち手に仕込ませて頂きました。眠気はスープですね。」


 スープは全員飲んだはずだと疑問を顔に出すと、更に答え合わせのように話を続けるブルータス。


「パンと干し肉に眠気への耐性を上げる薬剤を染み込ませていたのですよ。少量では効果はありませんが、今日の量で言うとパンは二欠片、干し肉は配分の倍量で効果を発揮します。」


 そう言われ、ブルータスと陸王がそれぞれ効果が現れる適量分の食事を取るために自分から奪ったことを思い出す。

 それと同時に陸王がテントの中からニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて現れた。


「ヤッホー、将ぅ、なぁ、今どんな気持ち?」

「ぁ… グゥ…」

「ああ、麻痺ってて喋れないのな、メンゴメンゴ。どうして? って疑問に感じてる風…じゃねぇな。もしかして、予感はしてたか?」


 ジリジリと寄ってくる陸王から距離を取るように、痺れる身体を鞭打ち後ろに下がる将。


「ま、冥土のお土産に教えてあげよ。俺って優し~」

「リクオ殿、催眠効果もそこまで長くない、彼女たちが起きてしまうと面倒だ。後処理の事もある。手短に。」

「あ、そうなの? だってさ。俺としては色々と理由を教えてあげたかったんだけどな~残念っ! ま、端的に言うとさ邪魔なのよ。何の役にも立たねぇのにチヤホヤされちゃうお前がさ。」

「私もな、メグミが貴様を気にかけるのが気に食わん。リクオ殿とは利害が一致したのでな、君にはここで退場していただく運びとなった。」


 理由を聞けばただの嫉妬だった。そんなくだらない理由で殺されかけている現状に悔しさを覚える。


「ま、あとの事は安心しろよ。アデリアちゃんにも、俺がちゃんと伝えて可愛がってやるからさ。なぁんでアデリアちゃんもこんな奴が良いのかねぇ。ぜってぇ俺の方が気持ち良くしてあげれんのにさ!」


 そんな事を言いながら陸王は鞘から剣を抜く。


「リクオ殿、狙うのは首だけです。あくまでも首狩り魔族に殺されるのですから。」

「あいよ!」


 狙われているのが首だと解れば避けるのは容易い、しかし、麻痺毒が効いているせいで思うように身体が動かず、剣先が首の薄皮を切り裂く。


「っつ!」

「おら、避けんなよ!」


 続け様の攻撃も何とか避け、ゴロゴロと転がる将。

 逃げた先は袋小路であり逃げ場がもう無い。


「麻痺してるくせによく動きやがるが、もう限界だろ? よーし、動くなよー」


 ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべジリジリと寄ってくる陸王。

 将が万事休すかと思った時、右手のひらの下の床に僅かな違和感を感じる。


「(頼む… 落とし穴系のトラップであってくれ!)」


 どうせこのまま何もしなければ、首を落とされて殺される。そう感じた将は床に感じた違和感に望みを託し、麻痺した身体に精一杯の力を込めて床の窪みを押し込むと、直後カチッと言う無機質な音が鳴り響く。


「何しやがった!?」

「リクオ殿! 恐らく偶然見つけたトラップを発動させたと思われます!」

「何だと!?」


 2人のそんな僅かなやり取りの間に将の周りの床がガコンと開き、将は吸い込まれるように落とし穴へと落ちて行った。


「あ~ぁ… ブルータス、どうする?」

「そうですね… まぁ、このダンジョンに首狩り魔族が居るのは確実らしいので、私達が殺さずとも魔族に殺られるでしょう。」

「だが、恵美達にはどう説明する?」

「保険を用意していたので大丈夫ですよ。」


 ブルータスはそう言うと将に持たせていた非常食が入っているはずの大きな袋を手に取った。


「そりゃ非常食だろ?」

「中を見てください。」


 ブルータスにそう促され陸王は袋の中を覗くと猿轡を噛まされた、背丈は将と同じ位の少年が気を失って入れられていた。


「確かに、”非常”食だな。」

「スラムに住むゴミムシの1匹です。背丈が近かったので麻痺毒を使って昏睡状態にしてあります。このゴミムシをススムの死体に仕立てあげます。」

「いやいや、こんだけ明るけりゃ直ぐにバレるだろ?」

「不寝番をしていたススムは突然首狩り魔族に襲われます。視界を悪くするためススムは鍋を倒し、中に入った水で焚火を消しますが魔族は夜目が利いた為あっけなく首を狩られます。私は形見として、この"何処にでも売ってそうなガントレット"を彼の形見として回収した。と言う流れですね。なので、このキャンプ地は真っ暗になってるはずですよ。人間と言うのは突然のパニックに陥ると冷静な判断が出来なくなります。そんな状態では松明の明かりだけでコレがススムでは無いという事には気付かないでしょう。」


 そんな事を言い、詳しい説明をしながら、ブルータスはスラムの子供の首を一瞬で落とす、すぐに距離を取ったため返り血を浴びるという失敗は犯さず、剣に付いた血糊も綺麗に拭き取ると切り落とした首と剣を拭いた布を、先程将が発動させたトラップを再度発動させ、そこに落とす。


「では、良いですね。多少は下手くそでも結構なので演技をして下さい。」

「任せとけ、演技すんのは得意だぜ。」


 最後の確認後ブルータスは鍋にはられた水で焚火を消すと鍋の取手に糸を結びその糸の先を持って二人で自分達のテントの中に入る。

 数分の後、薬の効果が切れるタイミングを見計らいブルータスは糸を引っ張る。

 ガランガランとけたたましい音を立て鍋が転がる音がダンジョン内に響き渡るとブルータスと陸王は頷きあいテントから飛び出した。


「将!どうした!」

「ススム殿! 何かありましたか!?」

「何!? 何なの!?」

「え? 真っ暗!? は、羽堂くん!?」


 各々がそう叫び将に呼び掛ける、そうして陸王は死体の方へと歩み寄り足を引っ掛けて倒れる。


「いってぇ… え… 何だこれ… 何か…」

「ちょっと待って! 今松明着けるから!」


 慌てた様子でスリザリンは松明に着火の魔法で火を灯すと陸王の倒れた場所に人が倒れて居るのが見えた。

 松明の頼りない灯りでは良く見えないが背格好から将と似ていると感じる。


「ひぃっ! し、死体!?」

「ス、ススム殿!?」

「そ、そんな… 嘘だよ… 羽堂くん…」

「う、嘘だよな、将… お前… 何で…」

「首が… 無いわ…」

「首狩り魔族か!?」

「でもなんで羽堂くんだけ!?」

「先程の鍋が倒れる音で我々が出てくる事を察したのかも知れません…」

「探しましょう… このままではススムが浮かばれないわ…」

「そうしたい所ですが… どうやら非常食を全て奪われた様です。そんな状態での探索は危険です。」

「でも!」

「スリザリン殿、ダンジョンの危険性は良くご存知でしょう? このままでは血の匂いを嗅ぎ付けて他の魔物も来かねません。死体はここで燃やして供養しましょう。」


 ブルータスは淡々と話をし、死体の腕に装備されたガントレットを取り外すと炎の魔法を唱え死体を焼却処分する。

 轟々と燃える死体をバックにガントレットを手に持ち悲しげな表情をするブルータス。


「今すぐこのダンジョンを出ます。このままでは我々も危険だ陛下にも報告しなければなりません。」

「そう… そうね…」

「スリザリンさん!」

「メグミ… 悔しいのは私も同じ気持ち… でも、コレだけの血が流れていると、ここはあっという間にモンスターハウスになるわ。そうなると私達も死ぬ羽目になる… 今は撤退して、準備をしっかりして私達の手でススムの仇を討つの…」


 そう言って涙を流しスリザリンは恵美を抱き寄せる。

 血の匂いに釣られたのだろう魔物の気配が近付いて来るのを感じ陸王は声を上げる。


「やべぇ、集まってきたぞ…」

「幸いススムが残したこのダンジョンの地図が有ります。脱出しましょう。」

「だな! 皆行くぞ!」

「ゴメンなさい… 羽堂くん… こ"め"ん"な"さ"い"!!」


 未だ燃え続ける死体をそのままに陸王達はダンジョンを脱出した。

 出口を抜けると、夜が明けていたのか丁度日が昇り始めていた。


「ハァっ… ハァ… 何とか巻けたか!」

「ハァ… ハァ… その、ようですね…」

「羽堂くん… 羽堂くん…」

「ススム…」


 無事脱出出来た四人が振り返りダンジョンの入口を見ると、そこにあったはずのダンジョンは跡形もなく消え去っていた。


「ダンジョンが…」

「消え…た…?」

「仇も… 取らせて貰えない… そんなのって… そんなのって無いよぉ…」


 目の前で起こった不可思議な現象に唖然とする三人。

 森には恵美の鳴き声だけが響き渡っていた。


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