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第6話 捜査会議

 次の日の朝、大津署で捜査会議が行われた。入り口には「琵琶湖疎水殺人事件」と書かれてある。凶悪事件でもあり、県警の捜査1課が担当する。


「・・・・捜査状況について報告してもらう。・・・」


山上管理官と久保課長が前の机に座って構えている。そこに捜査員が報告を次々にあげる。私と山形警部補は後ろの席に座って聞いていた。


「被害者は日比野香、30歳。職業は派遣社員。家族はおりません。両親は十数年前に他界。妹は11年前に失踪。遺体の確認は静岡県警の山形警部補にしていただきました。」

「後頭部に打撲の跡がありますが、直接の死因は絞殺、首にひものようなもので絞められた跡があります。・・・」

「長髪のかつらをかぶっておりました。本人の髪型は首までのショートカット。黒縁の眼鏡をかけています・・・」

「レザーコートに広範囲の血をふきとった跡。血液型はB型。誰のものかはまだわかりません。」

「三井寺駅の防犯カメラの映像で確認しております・・・」


 報告がどんどん上がってきていた。だが・・・


(犯人につながる手掛かりはない。動機も不明だ。 犯人は香川良一だろうが、一体、どこにいるのか・・・またレザーコートの血は何を意味するのだろうか? 香川の血液型はB型。確か、彦根の被害者もB型・・・レザーコートの血液は誰のものか?)


私は思いを巡らせた。奴さえ捕まえればはっきりするだろうと思いながら・・・。

すべての報告が終わり、久保課長が言った。


「ご苦労だった。何か質問がある者は?」

「はい。」


私は手を挙げて立ち上がって発言した。


「湖上署の佐川です。山形警部補を襲った香川良一の犯行と思われますが、いかがでしょうか?」

「今の時点で判断するのは早計だ。先入観を捨てて捜査に臨む必要がある。」


久保課長が不機嫌そうに言った。それはまるで部外者が余計な口を出すなという風だった。私はムッとしながらも質問を続けた。


「ご存じでしょうが、昨日、彦根城内でも殺人事件が起こっております。関連についてはどうでしょうか?」

「彦根? 今は何もつながりが出ていない。関連あるなら、そのうち何かわかるだろう。他には?」


私の質問はまるで的外れともいわんばかりだった。確かに彦根と大津の事件を関連付けるのは無理があるのかもしれない。だがそれを否定しきれない自分もいた。



やがて会議は終わった。山上管理官から捜査方針が示された。怨恨と行きずりの両方の観点から捜査を行うと。静岡から追ってきた香川良一のことはあまり問題にされなかった。捜査1課の捜査員が分担した仕事を与えられ、また捜査に戻っていった。私や山形警部補には声がかからなかった。邪魔しないように見ておけということか・・・。私は席を立ちながら小声で山形警部補に言った。


「山形さん。行きましょうか。我々には捜査させないようですから。」

「ええ。」


やはり山形警部補は元気がないようだった。配られた資料も何か読みにくいらしく、何度も目を近づけて瞬きしていた。


「湖上署に戻りましょうか。ここにいても仕方ありません。我々には大津や彦根の事件の捜査権はありませんが、静岡で起こった事件の捜査はできるはず。それに山形さんを襲った香川良一の事件についても。ここの捜査員にも友人がいますから情報を送ってくれるはずです。」

「そうですね。こちらはこちらで捜査をしましょうか・・・」


山形警部はそう言いながら、ぐらっと体が揺れて頭を手で押さえた。目を閉じて何とか抑えているようだった。


「大丈夫ですか?」

「ええ、めまいが・・・。たまに出ることがあって・・・」

「それはいけません。ホテルで休んでいてください。後は私がしておきますから。ホテルまで送りましょうか?」

「いえ、大丈夫です。すぐに収まりますから。でもまた起こりそうなのでホテルに帰ります。すいません。後をお願いします。」


山形警部補は何とか歩けるようだった。私は彼女を支えながらジープに乗せて、彼女が泊まっている琵琶湖ホテルに送っていった。その車内で彼女はため息をつきながらつぶやいた。


「私のせいですね。私が香川を捕まえていたらこんなことに・・・」


ふと横を見ると、彼女は虚ろげな顔をしていた。


「そんなことはありません。山形さんはベストを尽くされたのです。私がもっと早く三井寺に行っていたら・・・私の落ち度です。」


私はきっぱりと言った。彼女の様子を見ていたら自然とそんな言葉が出て来た。


「佐川さん。やさしいんですね・・・」


彼女はポツリとそう言った。その言葉は私にとってうれしくもあり、いやな言葉でもあった。それは常々、上司の荒木課長に「お前はやさしすぎる。刑事には向いていない」と言われていたからだった。


「刑事としてはよくないのかも・・・。ははは・・・。」


私は無理に笑った。すると彼女もつられて笑ってくれた。それで少し顔が明るくなった。


山形警部補を琵琶湖ホテルの前で降ろしてから、私はそれからすぐに彦根署に向かった。その事件のことも気になっていたからだった。

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