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プロローグ
私は今、琵琶湖の真ん中にいる。そこから南にはビルの立ち並ぶ市街が見え、北は自然豊かな比良山系を望む。そして湖西に目を移すとどの岸辺に桜が見えた。
その桜の花はもう散り始めていた。その舞い散る花びらが湖面の反射した光を浴びてキラキラ輝いていたが、その景色はなぜか、儚くもの悲しかった。琵琶湖に浮かぶ警察船「湖国」からはそれが望見できるのだ。あの悲しい惨劇を思い起こしながら・・・。もうあれから3日たつ・・・。
春になれば、桜は花をつけ、満開になって、そして一斉に散って行った。それは太古の昔から変わらない。11年前もそうだったように今年も桜が咲いたのだ。ある人に深い傷跡を残して・・・。それは今になって一斉に膿を吹き出したのだ。もろい人の心を突き破って・・・。
あれは桜が咲き始めたころだった。つぼみが開き、ピンク色の花が開きかけていた・・・これから美しい姿を見せようとした時・・・そんな時期だった。