9話 ボス戦
「ふぅ、これでやっと100階層かぁ」
今までで出会ってきた敵には相変わらずあのシークレットフロアに出てきた敵よりも強い奴は居なかった。それでも、俺のウェイトに耐えられる奴は居たけど。
「今思えばあのドラゴン、俺からすればラッキーだったけど、普通なら超絶アンラッキーなんだろうな」
物語で言えば、初級ダンジョンの入り口に魔王が居るみたいな。
Sランクダンジョンの100階層まで来ているのにまだあいつより強い奴より出くわしてないなんて相当だぞ。
だからこそのあの報酬なんだろうけど。途中で手に入ったのは天魔の剣よりも弱い武器だったり、今俺が来ているAランク冒険者が着ていそうな黒の動きやすい鎧、確か『黒鉄の鎧』だったかな?くらいなもんだ。
「それで、今回はボス戦だな」
ボス戦は10階層ごとにあるらしいということが今までの経験で分かっている。
この階層もボス部屋らしき部屋に通じる大きな扉があった。
ゴゴゴゴゴッ……
重い扉を押し開けていく。
すると、中には祭壇の様な物があった。
「何だここ?」
部屋を見渡してもボスの一体も見当たらない。
カツカツ。
俺の靴の音が響き渡るほどに静けさがある。
「もしかして休憩場所か?」
そんなもん聞いたことねえぞ。
ガタンッ!!!!
後ろから大きな音が聞こえる。
どうやら扉が閉まったようだな。今更そんな演出をされても100階層まで来て逃げる奴は居ねえだろ。
そう思って後ろを振り返った俺は驚きで声を失う。
さっきまで何もいなかったはずの空間に人型の大きな何かがあったからだ。
形は完全にただの人だが、手が合計で……6本くらいか?生えている。
「何だ?魔物か?」
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『???????』
せ****の******。い*ぶ**かみ**ばれている。
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「ん?鑑定がうまく反応しない」
今までこんなことは無かった。Sランク魔物に匹敵するアークキャメロンですら細かい説明が載ってたのにこいつの説明は虫食いみたいになっている。
俺は鑑定が効かないということで警戒心を高める。つまり、まだ見ぬ魔物の可能性があるからだ。
少なくともSランク以上はある。下手したらドラゴンくらい強いかもしれない。
巨人は近くの壁を掴むと、バキバキバキッと砕いていく。
そして、壁の中から巨大な剣を取り出し、ブオンッブオンッと振るう。
振るうたびに凄まじい音がする。
「おいおい、マジかよ」
巨人が手に持った剣でまた違う壁を切り崩すと、その中から5本の剣が顔を出す。
つまり、合計6本の巨大な剣が巨人の手に納められたのだ。
「ウェイト!」
俺は先手必勝とばかりにウェイトをかける。まず間違いなく動き出すとは思うが、これをかけるかかけないかで大分変わるのだ。
実際ドラゴンの時もこいつのお陰で勝ったところはある。
「……やっぱダメか」
思っていた通り、ウェイトを食らったというのに巨人の動きが変わることは無い。ただ地面がミシミシと割れているだけである。
「ドラゴンの時とは違うんだ!ライト!」
俺は自分の体にライトをかけると、そのまま巨人の下に飛び上がっていく。手に持つのは天魔の剣。これで斬られればどんな魔物でもひとたまりもない。
ガギィィィンッ!!!!
「なっ!?」
何て奴だ。この剣を止めやがった。
縦に振り下ろした俺の剣は2本の剣で止められる。
それでも天魔の剣には欠けの一つも見当たらないのに対して巨人の剣にはひびが入っているのは流石といったところだろう。
攻撃を止められた俺の体は今、とんでもなく無防備だ。
そこを狙って巨人が残った4本の剣を振るう。
ブオオオオンッ!!!!!
「ウェイト」
俺は天魔の剣を止めている上の2つの腕に集中してウェイトをかける。
すると、巨人の腕はガクンッと下がり、攻撃を仕掛ける4本の腕とぶつかる。
――ブシャアッ
巨人の2本の腕は自分の攻撃に耐え切れず、切断され、宙を舞う。
「グオオオオオオッ!!!!」
腕が切断された痛みに耐えきれないのかけたたましい唸り声を上げる。
「これで2本。あとは4本だな」
巨人から離れた地面に降り立つと、俺は再度剣を構える。
「『グラビティ』を集中してかければ食らう事が分かった。もう次でお前は終わりだよ」