8話 最終到達地点である理由
「次の階層からが人類未踏の地か」
何だか感慨深いな。無能だった俺が最強の冒険者ですらたどり着けなかった階層にまで近づけているんだ。
「だが、22階層までしかたどり着けなかったのはどうしてなんだ?」
今までの敵はそれこそ高ランクではあったが、それでもSランクの冒険者なら難なく突破できるくらいの難易度だった。
とてもここでリタイアするほどの難易度じゃないと思うんだ。
目の前に大きな階段が見えてくる。
もう22階層終わるけど本当にこれで終わりなのか?全然他の階層と変わらないぞ。
しかし、既に階段が見えている時点でこの階層は終わりを告げている。
前の部隊がリタイアしたのも多分俺と同じで食料が足りなくなったからなのだろう。俺は運よく提灯魚を見つけられたから当分の食糧には困らないけど、もし見つけていなかったら撤退を余儀なくされていただろう。
俺は23階層へ通じる階段の一段目に足を伸ばす。
シュルッ
「うん?」
何かの音が聞こえた気がする。
「あれ?おかしいぞ。足が動かない」
まるで沼に足が浸かってしまったかのように、ぐいぐいと引っこ抜こうとしても全く動かない。前進しようにも謎の弾力が俺の進行を妨げており、まさに身動きが取れない。
「なにかあるな。鑑定」
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『アークキャメロン』
Cランクのカメレオン型の魔物『キャメロン』の上位個体。普段は姿を消しており、獲物が来るのを息を潜めて待っている。推定ランクA。しかし、その隠密さからSランク冒険者でも苦戦すると言われている。
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「やっぱり魔物か!」
多分、人類で22階層までたどり着いた部隊も階段があると安心している隙にこの魔物に襲われ、気付かない間に壊滅したのだろう。
俺に鑑定の力があって本当に良かった。
俺はスラッと腰に下げている天魔の剣を抜くと、自分の足元に向かって思い切り突き刺す。
ドガンッ!!!!
軽く振るだけで飛ぶ斬撃が生まれる剣だ。思い切り剣を地面に突き刺せばどうなるか考えておけばよかった。
「うわぁっ!」
俺の足元に軽くクレーターが出来る。
「ギャオオオオッ……」
俺の剣で舌が切り落とされたアークキャメロンが姿を現し、唸り声をあげて天井から落ちてくる。
どうやら天井に張り付いて獲物を狙っていたようだ。
初めて姿を現したアークキャメロンは鑑定の説明のとおり、カメレオンの形状をしている。どこを見ているのかよく分からない焦点の合わない目に長い舌。
カメレオンと少し違う点としては爪が鋭く、体の上側に棘が生えている。
「ウェイト」
俺がアークキャメロンにウェイトをかけると、アークカメレオンはいとも簡単に地面に沈み、その場から身動きが取れなくなる。
ドラゴンと戦ってから俺のウェイトに耐えられるほどの強敵とは遭遇していない。大体がこのアークキャメロンのようにウェイトをかけたら抵抗できることなく、地面に押しつぶされる。
むしろ、これで死ななかったアークキャメロンは強いほうだろう。
「お前は何を落とすのかな?」
今の俺にはドラゴンの時のように武器が無い俺ではない。細いのに何故か俺以外では持つことすらできない程重い剣を静かに構える。
ザシュッ!
一閃、天魔の剣はその剣身を振るうだけで敵の命を刈り取る。
ジャキンッ。
呆気なさを感じながらも俺は剣を鞘に納める。
「おっ、光りだしたぞ」
アークキャメロンの真っ二つにされた体が光りだすと、透明な布のようなものが落ちる。
何だこれ?
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『キャメロンローブ』
アークキャメロンを倒すと稀に落ちるローブ。これを着たものは姿を隠すことが出来る。ただし、臭いや音は消さないので注意が必要。
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う~ん、凄いんだろうけど。
普通ならば手を挙げて喜ぶような神アイテムなのだが、俺は難しい顔を浮かべる。
確かに便利なのは便利なのだが、そもそもSランクダンジョンの魔物というのは主に臭いや音で俺の姿を捉えてくる。
その肝心なものが隠せないのなら意味無いなと思ったのである。
それにこのローブ、あまり耐久性がなさそうだ。恐らく少し戦闘をしただけで破れてしまうだろう。
久しぶりの装備ドロップだから、伝説の鎧とかを期待してたんだけどな。
「まあ、貰えるもんは貰っとくか」
俺はキャメロンローブを『アイテムボックス』に入れると、今度こそ23階層へと向かうのであった。