3話 Sランクダンジョン①
魔物を倒しつくした俺はある場所へと疲れた体に鞭を打ってきていた。そこは、俺達が依頼に失敗した場所、Sランクダンジョンであった。
この中に俺達が撤退を余儀なくされた魔物が居る。
どうして俺がここに戻ってきたのか。それは新たな力を手に入れてうぬぼれているからではない。
俺があいつらを見返すにはさらに力が必要だと思ったからだ。
確かに『グラビティ』の力は強力だが、あれは魔物相手ならば押しつぶして殺すことは出来たが、人相手ではどうなるか分からないからな。
ダンジョンっていうのは強力な武器や防具が落ちていることが多い。それを手に入れて戦力増強を図るというのがこのダンジョンに潜る目的だ。
「ここに戻ってくるなんて思わなかったな」
目の前には大きな遺跡の様な物が立っている。正真正銘のSランクダンジョンだ。
「一回死んだも同然なんだ。怖くなんてないさ」
俺はそう自分に言い聞かせてダンジョンに足を踏み入れる。
ダンジョン内には暗く重い空気が充満している。遺跡の様な見た目なのは外だけで、中は唯の洞窟になっている。
俺は慎重に歩を進めていく。何故なら罠があったことを確認済みだからである。
あいつらが俺の言う事も聞かずにズカズカと進んでいき、その都度発生した罠を俺が対処していたからここら辺はもうその道のプロ級にはうまくなっている。
俺は罠を避けながら順調に奥深くへと進んでいく。
ガルルルルッ……
獣の唸り声が聞こえてくる。そろそろウルフ系の魔物の住処に近付いてきたようだな。
このダンジョンにいる魔物はどれもが外とは比べ物にならない程強力な魔物ばかりだ。それもこんな浅い所で。実はこのダンジョンは22層が最高到達点となっており、踏破されたことは未だかつて一度も無いらしい。
俺達はSランクの依頼として10階層の魔物を目的としていたのだが、その途中であの魔物にやられ、10階層に到達することなく撤退した。
その魔物が居なければいいんだが……。
それから俺は『グラビティ』の力を使いながら、ようやくあの魔物が居た9階層までたどり着く。
「やっと戻ってこられたか」
見た事のある景色だ。ここで俺達は撤退させられ、初のSランクとしての仕事を失敗した。
今となってはそれでよかったと思っている。もしずっとあのままなら、俺はこの能力に気付かないまま、馬鹿にされ続ける生活をし続けていた事だろう。
ある意味であの魔物には感謝しているのだ。
シュー、シュルルッ
嫌な音が聞こえる。
あいつだ。
目の前に大きな蛇が涎を垂らしてこちらを見ている。
涎がボトボトと落ちた地面は酸で溶けてボコボコになっている。
Aランクの魔物、バシリスクだ。俺達はこいつの酸攻撃に苦戦したのだ。
しかし、今となってはその酸も俺は怖くない。酸がこちらに届く前に全て重力の力で落とせばいいからだ。
シャーッと口を大きく開きながら大蛇がこちらに迫ってくる。
「ウェイト」
俺が短く呟くと、バシリスクの動きが見るからに鈍くなる。
「これを耐えるとは流石Aランクだな。まあ、もっと強くするだけだが」
俺がウェイトの力をより強くすると、大蛇の動きは完全に止まり、地面に体をめり込ませていく。
「シュルッ、シュルルルル」
「まだ生きてやがるのか。だが、俺には決定打が無いし」
手足を縛られて放り出された際に荷物は全て取られていたから今、俺が持つのは今着ているこの服だけだ。当然武器など持っていない。
どうするか……
考えているとふとバシリスクの頭上に尖った岩があるのが見える。
もしかしてあの岩にだけウェイトを集中してかけたらバシリスクに当てることが出来るんじゃないか。
ただ、当てた所でバシリスクを倒せるかと言えば怪しいだろう。所詮は岩である。鋼鉄の堅さを誇るバシリスクの皮を貫けるとは思えない。かといって天井を丸ごと落としたらダンジョンへの道が閉ざされてしまう。
「考えるだけ無駄だ。一回やってみるか」
俺はウェイトをこれでもかというくらいその岩にかける。
思っていた通りに尖っている岩だけが天井から外れてバシリスクへと落ちていく。
「よし、いける」
岩はそのままバシリスクにまで到達すると、
ブシュウッ!
そのままバシリスクの体を貫き、あっという間にバシリスクは絶命する。
「はっ?」
俺はその光景に言葉を失う。理由はほかでもない。取り敢えず攻撃さえ加えられればいいなくらいに思っていた一撃がバシリスクを死に至らしめたからである。
「俺がウェイトをかけていたからなのか?」
俺のスキルはもしかしたらとんでもないのかもしれない。しかし、ここで油断してはならないのが冒険者だ。上には上がいる。
「鬼門は突破したな。次は10階層だ」
そうして無事バシリスクを倒すことに成功した俺はその足で10階層への階段に足を伸ばすのであった。