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義姉になった姉が本気を出してきた9

「……ごちそうさまでした」


 少し服を乱した真琴が満足げにチロリと舌をなめる。

 そして俺は放心状態でソファに寝転がっていた。

 万が一へんな期待をしている方がいたら申し訳ないが、卒業はまだしてないです。

 俺は冷静に折衷案として『頬にチュウぐらいであれば抵抗せずに受け入れる! だから汚さないで! おねがいじまず!』と提案した結果、真琴も承諾して満足するまで俺の頬にキスした。

 途中、レギュレーション違反(キスではなく舐める)があった気がするが、心を無にしてすべて受け入れた。


「ちょっと……コンビニ行ってくる」


 気分転換に外にでようと、フラフラと外へと向かう。


「うん! いってらっしゃい! ありえないとは思うけど、晩御飯を食べてくるなんてことしたら……もう手加減しないから」

「……はい」


 逃げるように家を出た俺はコンビニへと向かう。

 昼は過ぎているが、夕方ではない微妙な時間。

 しかし、先ほどの自分へのご褒美として、何か食べたい。

 先ほどの釘を刺されていることもあるし、ほどほどにしておかないといけない。

 万が一、調子に乗って食べ過ぎてましたら……

 嫌な未来が見えてしまい、身震いしていると、俺の不注意で曲がり角で人とぶつかってしまった。

 幸いどちらも転ぶことはなかったが、すぐに謝罪する。


「すいません! 大丈夫ですか?」


 と、視線をぶつかった人へと向けた俺は、別の理由で再び身震いすることになる。


「いってーな。クソが」


 まさかのぶつかった相手は柊先輩であった。


「す、すいませんでした!」


 生きた中で最も誠心誠意を込めて頭を下げる。


「あ、お前、さっきファミレスに居たよな?」


 ひぃ! 顔覚えられてる!


「き、気のせいじゃないですかね。ちょっと急いんでるんでこれで」


 足早に柊先輩から離れる。

 しばらく歩き、近くのコンビニへと逃げ込む。


「はぁ、怖かったー」

「おい」


 呼ばれて飛び出そうなほど跳ね上がる心臓。

 きごちなく振り向くと、不機嫌そうな柊先輩が俺を睨んでいた。


「なんで逃げるんだ」

「に、逃げてませんよ」

「なら、オレと少し駄弁ろうじゃねぇか」

「いやー、俺も忙しくて」

「少し話すだけじゃねぇか」


 今日の俺はどうしてこうも不幸なんだ。


「わかりました」


 コンビニで適当に飲み物とパンを購入して外へ。

 柊先輩も買うものがあるようなので、コンビニの前で待つことに。

 このまま逃げることも考えたが、明日が俺の命日になりかねないので、大人しく買った焼きそばパンを頬張って待機する。


「よっ、待たせたな」


 ガサゴソとコンビニ袋から大きな肉まんを二つ俺に差し出す。


「あの、これは?」

「まぁ、食え。時間をもらったお詫びだ」

「いや、その……いただきます」


 恐怖で断りきれず、二つとも受け取り、それを口にする。


「お前、ファミレスに居たよな」

「そ、そうでしたっけ?」


 はぐらかそうとしたが、柊先輩のよく切れそうな鋭い目で見られたら、嘘をつく度胸は持てない。


「はい……」

「しかも、あの南沢と一緒に居たよな?」


 あの南沢というのは、真琴のことだろう。

 この人、ことあるごとに真琴に突っかかってるらしいし。


「まぁ」

「なんでお前が南沢と一緒にいるんだ。まさか……あいつの彼氏か?」


 肉まんが気管に入り、大きく咳き込む。


「ち、違いますよ!」

「あ? だったらなんだってんだ。随分と仲良さげに食事をしてたじゃねぇか」

「俺達は姉弟ですって!」

「……本当か?」

「本当ですよ!」

「なんだ。あんなにもベタベタしてたから、てっきり彼氏だと思ったんだけどなー」


 まぁ、俺へ好意を向けているのは間違いないけど。


「まぁ、弟でもいいや。南沢についてなんか教えてくれ」

「いや、そんな漠然とした質問されても。てか、なんで姉のことを?」

「ん? そんなのタイマンで勝つためだ」


 ……パードゥン?


「タイマン?」

「そう。あいつと何度か勝負挑んでんだけどよ。いっつも断られるんだよ。なんとかしてタイマンできねぇかなと」


 この人って、戦闘民族の方?


「するわけないでしょ。たしかに姉は柔道部のエースですけど、誰かと戦うためじゃ」

「いいや! オレの目は誤魔化せねぇぞ! あれは競技のためにやってるとは思えねぇ!」


 目を輝かせてるよこの戦闘狂。


「なぁ、弟のお前からも頼んでくれないか? 一度だけでいいんだ!」

「ダメですよ! 流石に姉が怪我するようなことをさせるわけには」

「あ!?」


 ヒィッ! そんなに凄まないでくれよ! 漏れちゃうだろ!


「まぁ、今日のところは、お前が南沢の弟ってだけでも値千金の情報だ」


 あ、見た目の割に「値千金」なんて言葉使うんだ。


「……今オレを馬鹿にしたか?」


 柊先輩の鬼のような眼光で睨まれ、首が痛くなるほど忙しなく顔を横に振る。


「んじゃ、また明日な」


 こちらを見ることなく、手を振ってコンビニから遠ざかっていく柊先輩。

 ようやく嵐が過ぎ去り、胸を撫で下ろす。

 また明日、なんで言っていたが、こちらとしてはもう二度と関わりたくない。

 さて、もうそろそろ帰るとするか。


「うっぷ……なんとかして空腹にしないと」


 昼も中々の量を食べた上に、焼きそばパンと大きい肉まん二つ。

 正直動くのも辛いが、このまま家に直帰してしまうと、俺は姉で大人の階段を登る未来が待っている。

 夕飯までの残り二時間全てを使い、俺はランニングでなんとか空腹状態にしようと試みる。

 若干胃に残っている感じはするが、よっぽどのものが来ない限りは問題なく胃に収まるだろう。

 そう高を括り、俺は玄関の扉を開いた。


「ただいまー」

「おかえりー。遅かったじゃない、どこまで行ってたのよ」

「ちょっと散歩に」

「ふーん……ん?」


 真琴が宙に向かって鼻をひくつかせる。

 妙な行動に少し観察していると、今度は俺に向かって匂いを嗅ぐ仕草をする。

 一通り嗅ぎ終えると同時に、真琴の瞳は濁った。


「ねぇ……なんで女の匂いがするの?」


 嘘だろこいつ。

 柊先輩の匂いを嗅ぎ分けたってのか?


「そう言われてもな。女性って言ったて、一番近づいたのはコンビニの店員ぐらいだぞ」


 と、冷静に答えている俺の心は、察知されないかという恐怖と戦っていた。


「……ふーん。そう」


 まだ疑心を拭い捨てることはできていないだろうが、真琴は一旦俺から離れた。


「お腹空いたでしょ? ご飯もうできてるから」


 リビングに戻る姿を見送り、一度大きく深呼吸。

 100%信じたとは思わないが、なんとか誤魔化せたようでよかった。

 少し遅れてリビングに入った。


「真琴、今日の晩ご飯は?」


 そう尋ねるが、真琴は返事をしない。

 代わりに丼を俺の前に置いた。

 山盛りの白いご飯に、トンカツと玉ねぎを卵でとじたものが乗っかっていた。

 いわゆるカツ丼。

 蓋がただの飾りの帽子としか思えないほどのボリュームを持ったカツ丼。

 よっぽどのものどころか最上級に重い料理がきてしまったか。


「お腹すいたでしょ?」

「いや、流石にこの量は」

「あ、食べれないの? そう……つまり、合意……ってことでいいのかしら」

「ご、合意って?」


 覚えていないフリをしてみるも、真琴はそれを許さず答える。


「出かける前に言ったわよね? 晩御飯を食べてきたら、もう手加減はしないって」

「はははは! 冗談はよしてくれよ」


 ……うわぁ、目が本気だー。


「ちょっと待ってくれ! 俺は別に晩御飯を食べてきたわけじゃない!」

「でもコンビニに行ったてことは、軽くでも何かしら買って食べたんでしょ? それに現にこれを食べられないってことは、食べてきたのかもしれない。食べてきてないと証明したいなら……やることはわかってるでしょ?」


 つまり俺にこの油と米の海を平らげろということだな。


「それで、食べられるの(可能形)? 食べられるの(受動形)」

「た、食べます」


 俺は満腹感が来る前にカツ丼を胃へと押し込んだ。

 その後、腹が苦しくて動けなかなったのは言うまでもない。

読んでくださりありがとうございました

感想お待ちしております

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは完全に合意ですね(いいぞもっとやれ) [一言] 義妹物もいいけど、義姉物もいいですね。もっと増えるといいのにw
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