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義姉になった姉が本気を出してきた8

 家へと戻り、買ったものを冷蔵庫にしまって部屋に戻ろうと階段に足をかけた時だ。


「和馬」


 呼ばれた俺は警戒しながら振り向く。


「な、なんだよ」

「買い物に付き合ってくれてありがとうね」


 唐突な感謝の言葉だが、素直に受け取ることができない。

 何か裏があるのではと疑いの目を向ける。


「何が目的だ。言っとくが一緒には寝ないからな」

「それは残念だけど、約束はちゃんと守るわ」


 変態となってしまった真琴だが、根っこの部分が変わっているわけではないことは理解している。

 真琴が「約束を守る」と口にしたのならば、絶対に守る。そういう人間だ。


「お礼がしたいのよ。私のわがままに付き合ってもらったんだから」

「お、お礼?」


 俺は警戒心が一層増す。


「そう言いつつ襲うつもりだろ!」

「信用ないわね。大丈夫よ。そんなことは今は考えてないから」

「『今は』ってことは一瞬でもそう考えたってことだよな」

「……お礼なんだけど」


 うわ、話そらしたよ。


「耳かきをしてあげる」

「み、耳かき?」


 以前に数度真琴に頼んで耳かきをしてもらっていたから、耳かきの腕は信頼しても良い。

 むしろこちらから頼みたいくらいだ。

 が、それも二人暮らしが始まる前のこと。

 今の真琴が何をしでかすかわからない。


「そう言って襲うつもりなんだろ」

「……できれば遠回しに言いたいんだけど、あんたのことだから警戒して私の言葉に聞く耳持たないと思うから、オブラートに包まずに言うわ。和馬、耳汚い」

「きっ!?」


 咄嗟に耳を触ると同時に、耳の中の何かがガサッと動く。

 真琴の言っていることに嘘偽りはないようだ。

 だけど、本当に身を委ねていいのだろうか。

 いやでも、自分でしても上手く取れないしな。


「……はぁ、わかったよ。こう言えばいいんでしょ? 私は和馬に耳かきしたいだけよ。『約束する』」

「……わかったよ」


 ここまで言わせて断ることはできないな。

 それに真琴の耳かきは気持ちいいし。


「制服のままだとシワになるから、着替えさせて。リビングでいいわよね。あんたのことだから、私の部屋と和馬の部屋じゃやりたくないだろうし」

「そうしてくれ」


 一旦お互い自室に戻り、制服を着替える。


(真琴が『約束する』と言った以上、耳かきをしてくれるとは思うが、耳かきとは別で番外戦術を取る可能性がある。きっとホットパンツにノースリーブの格好で俺に意識させようとしてくるだろう。必要以上に胸を押しつけてくるかもしれない)


 姉に変な気を起こさないように、考えられる行動を何度も頭の中で反復させる。

 着替えだけだというのに、十分近く部屋の中に籠っていた。


「よし!」


 ようやく意を決した一階へ下りる。


(さぁ! ホットパンツにノースリーブでも、下着姿でもかかってこい!)


 勢いよくリビングに続く扉を開けた俺は、真琴の格好に目を丸くした。

 黒の長ズボンに、白いシャツの上にはカーキ色のカーディガンを羽織っていた。


「着替えるのにどれだけかかってるのよ」

「ち、ちょっと着る服に悩んで」

「あ、そう。ほら、こっち座って」


 ソファに座っている真琴は自分の隣をポンポンと叩く。

 自分でも驚くほど、素直に隣に座る俺。


「ほら、膝枕してあげるから寝転がって」

「その前に、もう一度確認するけど、本当に耳かきだけだよな?」

「約束したでしょ? それに私がこうしてちゃんと耳かきを用意しているのが証拠よ」

「耳かきが証拠と言われてもな」

「もし私が欲望に身を任せて耳かきしてるなら、今頃和馬を組み伏せて、泣こうが叫ばれようが、耳の中を舌で蹂躙してるから」

「お、おぅ」


 言葉に信憑性などないんだけど、この時の真琴の言葉はなぜか信じてもいいほど説得力があった。


「じゃあ、頼んだ」

「はいはい」


 真琴に膝枕してもらう。

 家族だからか、妙に安心感があるな。変態だけど。


「それじゃあ、動かないでよね」


 耳かきの匙が耳に触れ、パリパリと乾いた音が響く。

 自分でやるのでさえ怖いと感じるのに、なぜ真琴にやってもらうと不安を覚えないのか、毎回不思議に思う。

 心が安らいだからなのか、俺は今日までわざと口にしなかったことをついに口にした。


「真琴」

「何?」

「なんで俺なんだ?」


 一瞬、掻いていた匙が動きを止めるが、何事もなかったかのように耳中をなぞる。


「なんでって?」

「俺達は姉弟だ」

「でも血は繋がってないでしょ?」

「それを知ったのは最近のことだろ。真琴も知らなかったみたいだし。知る以前からその……好き、だったんだろ?」

「……えぇ、そうよ」


 匙を動かし、当然のように答える。


「じゃあ、なんで?」

「さぁ、なんででしょうね」

「おいおい、なんではぐらかすんだよ。別に教えてくれたっていいだろ」


 理由を答えようとしない真琴にしつこく尋ねるが、真琴は態度を変えない。


「答え合わせは答えが出てからするものよ」

「答えって、意味わかんねぇよ」

「じゃあ、私がそれを話して和馬の心が揺らぐの?」

「……さぁな。聞いてみないことには」

「ならなおさら言わないわよ」

「言わないのかよ」

「好きになった理由で心が揺らぐなら、それは『好き』じゃなくて『同情』だと私は思うの。好きになってもらうなら、心から好きになってほしい。でも見えない心で判断はしてほしくない。生き方を見てほしいのよ」

「それが今までの行動ならやめた方がいいぞ」

「無理ね。もう我慢できないし」


 真琴の言ってることは十分理解していない。

 でも、なんとなくは理解した気がする。

 だからといって、真琴の好意を受け取るわけではないが。


「はい、こっちは終わり。反対向いて」


 言われるがまま寝返りを打つと、再び耳の中を匙がなぞる。

 あまりの気持ちよさに、意識を手放しそうになるも、甘いいい香りがわずかに残った意識を引き戻す。

 一体なんの香りだろうかと、ぼんやり考える。

 その匂いが女子特有の香りであることがわかると、冷静に自分の状況が頭の中に入ってきた。

 今俺の目の前にあるのは、真琴の腹なのではないか。

 意識がはっきりとし、顔が熱くなる。


「や、やっぱもういいや」

「何言ってんの。片耳で終わるなんて気持ち悪いでしょ」


 それはごもっともなんだが、このまま続けるのは色々まずいというか。

 だが、それを素直に口にすると、姉である真琴を一人の女として見ているのではと解釈されるのは絶対に避けたい。


「そう、だよな」


 結局、俺はこのまま真琴に身をゆだね、じっと耐えるしかない。

 幸い、耳かきに集中しているおかげなのか、真琴が俺の心中を察しているようだ。


「うわっ……耳垢これ、さっきと全然違う……んっ……はぁ……、硬くて、おっきぃ……ん」


 これ本当に察してないんだよね? 言葉選びと力む息遣いに悪意を感じるんですけど。


「あ、ちょっと! 急に体を丸めないでよ!」


 誰のせいだと思ってるんだよ! 


「……よし! こっちも終わり」


 今まで綿か何かが詰まっていたのかと思うくらいにスッキリし、今まで感じられなかったヒンヤリとした空気が耳中をなでる。

 でもスッキリした一方で、溜まってしまった物というか欲というか……

 とにかくここはすぐさま部屋へ避難する必要がある。


「あ、ありがとう真琴。じゃあ、俺は部屋に戻るわ」


 起き上がろうとしたが、体が起き上がらない。

 というか、上から押さえつけられてる。


「ま、真琴さん? 手をどけてもらえますか?」


 部屋のライトの逆光で真琴の表情は分かりづらいが、何かぽたりと粘性のある液体が俺の頬に落ちた。


「真琴!? 約束したよ!? ほら! 耳かきがしたいだけだって!」


 自分でそう口にしておいて、俺はハッとした。


「そうね……耳かきは純粋にしてあげたかったからしたのよ? だから、終わるまではちゃんとしてようと思ってたの……でも、それが終わったと思ったらさ」


 真琴が体を少し動かしたことで、真琴の表情がはっきりと目に映った。

 完全に目がイっている。


「ねぇ……もう、いいよね?」

「いいわけあるか! クソッ! 離せ!」


 顔を近づけてくる真琴。

 きっと狙いは俺の唇。


「お、おとなしくしなさい! すぐ済むから!」

「済ませてたまるか!」


 俺は必死に抵抗する。

 必ず清い体で部屋へと戻ると固い決意を抱いて。

 そして俺達が攻防し始めてから五分が経過した。

読んでくださりありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] >意識がはっきりとし、顔が熱くなる。 もう〇〇〇してもいいよね。 猥褻な表現を使わなければ全年齢版でも事後の描写はできるはず。 でも、これコメディーなんだよね。先が見えなくて義姉に同情する…
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