義姉になった姉が本気を出してきた7
店員に先導され、案内された席はよりにもよって店の中心の席。
つまり他の席から見られやすい席。
真琴に気がついた生徒達はヒソヒソと話して盗み見たり、ガン見したりしていた。
「あ! 和馬、これ食べてみない? 美味しそうよ」
「さらっとカップル限定メニューを指さすな」
学校では見せたことのない浮かれた真琴に生徒達は興味津々。
容姿の良さもあり、他のお客の視線も奪っていた。
早く頼んでさっさと食べてすぐさま帰ろう。
タッチパネルで注文を済ませ、料理を待つ。
「す、すいません」
料理を待っていると、五人程の女子グループが俺達の席に集まっていた。
「南沢先輩ですよね! お昼ご飯を食べに来たんですか?」
「ええそうよ」
一応外面モードで対応する真琴。
真琴の返答に黄色い声を上げる女子グループ。
「私達もなんです! 一緒に食べませんか?」
「ごめんなさい。弟と一緒だから」
「私達気にしませんから!」
ぐいぐいと来られ、困った様子の真琴。
しかも狭い通路に集まったせいで、他のお客や店員が通りづらそうにしている。
「あの、他のお客に迷惑なんで、早く席に戻った方がいいよ」
と、指摘すると、全員の敵意に近い目が俺に注がれる。
「たしかに、他のお客さんの迷惑になるから早く席に戻った方が」
「なら一緒に座らせてください! あ、でも六人席だから全員は座れないか」
「なら、弟さんは私達の席に座って貰えば?」
「それいいね!」
「弟さん、席を替わってください」
真琴が指摘すると、手のひらを返すように猫撫で声で図々しい提案をする女子グループ。
別に真琴と一緒に食事がしたいわけではないが、人様に迷惑をかけておいて、無神経な提案をする奴らに従う義理なんてない。
「悪いな。今日は姉ちゃんと楽しい食事をする日なんだよ。さっさとあっち行け」
わざと相手の神経を逆撫でる言葉で返すと、想像通り嫌悪を抱いた目を俺に向ける。
「キモッ、シスコンかよ」
小声ではあったが、俺の耳はしっかりと拾う。
「貴方達、早く自分の席に戻りなさい」
「きゃーっ! 南沢先輩に怒られちゃった!」
ふざけた態度に真琴も苛立っている様子。
本当にこいつらをどうにかしないと、真琴がキレる。
「いい加減に━━」
「おい」
低い女性の声で女子グループに声をかける女子生徒。
不機嫌な顔で振り向いた女子達はギョッとする。
「ちょっ、あの人って」
「もしかして、柊先輩?」
柊先輩!?
聞き覚えのある名前に、俺もしっかりとその女子生徒を視認する。
金色の長髪につりあがった瞳と、口元から覗く八重歯。
女子にしては長身なものの、真琴と並ぶプロポーション。
キツくはあるものの、美人であることは間違いがなかった。
しかし、整った容姿とは裏腹に悪名高い人物として知れ渡っていた。
なんでも、赤の他人から金を奪い取ったり、老人にも平気で手を上げる。
どれほど泣き叫んでいた子供でも、恐怖で口を閉ざすほどとか。
「テメェら邪魔だ。さもないと……殺すぞ」
恐怖ですくみあがった女子達は命の危険を感じてか、逃げ出すように自分達の席へと戻っていった。
女子達がいなくなって少し心がスッキリしたが、それも束の間。
なんと通路を挟んで向かいの席に柊先輩が座ったのだ。
妙な緊張を覚えていると、俺達が注文した品が運ばれてくる。
さっさと食事を済ませて店を出よう。
「ねぇ、和馬のハンバーグ少し頂戴」
「はぁ? なんでだよ」
「和馬の美味しそうだから。ちゃんとその分私のオムライスあげるからさ」
「まぁ、別にいいけど」
ハンバーグが乗った皿ごと差し出すが、俺の意図に反して真琴は顔を突き出し、口を開けて待っていた。
まさか冗談だよな。
「……ん? 何してるの? 早く食べさせてよ」
やっぱりそうでしたか。
「いや、自分で切って食べろよ」
「いやよ、私のスプーンにハンバーグのソースがついて、オムライスに味が移るじゃない」
そんな微々たる味の変化気にした事ないだろ。
「絶対しないからな」
「してくれるまで待つだけだから」
アホくさ。
放っておいてハンバーグを平らげてしまおうかと思ったが、
真横から並々ならぬプレッシャーを感じる。
横目で盗み見ると、柊木先輩が人を殺しそうなほど鋭い視線で俺達を見ていた。
もしかして、この状況が鬱陶しく思っているのか?
「わ、わかった! 一回だけだからな!」
柊木先輩の怒りを買う前に、さっさと醜態をさらす真琴を止めることに。
ハンバーグを小さく切り取り、フォークで真琴の口元へ運ぶと、嬉しそうにそれを頬張った。
これで真琴も満足したはず。
が、真琴はそれで満足はしていなかった。
オムライスをスプーンで掬うと、あろうことか俺に突き出したのだ。
「はい、お返しのあーん♡」
「いや俺はいい━━」
断ろうとした刹那。
更なるプレッシャーを感じ、死を覚えた俺はすぐさまオムライスを口に含んだ。
真琴はようやく満足してくれたようだが、代わりに俺は色々なものを代償にした気がする。
「ごちそうさま。じゃあ、帰るわよ」
「あ、あぁ……」
食事をしただけだというのにこんなにも疲れたことはない。
隣の柊木先輩の視線も終始俺達に向けられ、生きた心地がしなかった。
逃げるように会計を済ませ、帰宅しようとするも、再び真琴に呼び止められる。
「まだ帰っちゃダメだから。もう食材ないんだから」
もう嫌だ。これ以上真琴に付き合ってられるか。
「いや、なんだか今日はもう疲れたから先に家に帰りたいんだけど」
「……いいわよ別に」
あれ? いいの?
てっきりまた力技で俺を従わせようとしてくると思ったんだけど。
「そのかわり今日は一緒に寝ようね♡」
「あー! そういえば俺も買いたいものがあるんだったわ!」
一緒にベットに寝るだけで済むわけがない!
そう確信している俺はそれだけは阻止したく、結局真琴に従って行きつけのスーパーに向かうのだった。
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