義姉になった姉が本気を出してきた5
義姉、覚醒
話をしよう。
アレを飲んでから俺がどうなったかをだ。
俺はなんとかアレを飲み干した。
だから想像してほしい。
俺がどれほどまでの苦痛を味わったかを。
想像してほしい。
腐った生魚を口入れたかのような衝撃を。
さらに想像してほしい。
それが海苔のように舌に張り付くことを。
罰ゲームと呼ぶにはあまりにも残酷で、拷問という言葉では足りない地獄を。
よく俺はアレを飲み切ったと手放しで褒めてやりたいよ。
飲み干した後は1Lの水を飲み、風呂で気分を紛らわせたことでなんとかなっている。
気持ち悪さは今のところ消えたが、ただアレを飲んでから妙に体が熱い。
というか、主にムスコ辺りが熱くなるというか。
正直今すぐ発散させたいのだが、真琴が入ってきてしまったら気まずいどころの話じゃない。
するなら真琴が寝てる間にこっそりするしかない。
(と、とりあえず、さっき真琴から受け取った服を片付けよう)
洗濯された服と下着を棚に戻していく。
「えーっと、服とズボンが片付いて、後はパンツと靴下と……ん? なんだこれ?」
見覚えのない丸まった黒い布を取り上げると、解けて広がる。
それは紛れもなくパンツ。
ただし女性用だった。
「ふぁっ!?」
俺は思わず、パンツを手放す。
間違って入ってしまったのだろう。
そしてこの持ち主は当然、真琴のだ。
かなり際どそうなパンツだけど。
(これを真琴が履いてるのか)
実の姉がこんなエロい下着をしているところを想像するだけでゾッとする。
こんなのさっさと返してしまおう。
ちょうど真琴も風呂に入ってることだし、いない間に返してしまおう。
そう思い、俺は真琴の部屋へ。
(下着は……多分クローゼットの中だろ)
俺はクローゼットの扉を開ける。
予想通り、中には小さなタンスがあり、一番下の段を開けると、下着が入っていた。
気にせず適当に押し込み、クローゼットを閉める。
後は速やかにこの場を立ち去るだけなのだが、小さなテーブルに置かれたアルバムを捉える。
妙な好奇心に駆られ、俺はそのアルバを手に取ってしまった。
「アルバム? 卒業アルバムではなさそうだけど」
ペラペラとめくっていくと、俺と真琴の写真が並んでいた。
ただの家族写真のようだが、母さんが持っているものとは別のようだ。
興味本位にページをめくる。
小学生の俺と真琴が家で遊んでいる写真。
中学生の俺と真琴が旅行先でカメラに向かってピースしている写真。高校の入学式に家族で撮った写真。
学校の廊下を歩く俺の写真。
ベットで眠る俺の写真。
……ちょっと待て。
撮られた覚えのない俺のプライベートな写真があるんだが。
俺の中でこれ以上はめくるな! 引き返せ! と、警笛はなっていた。
だが、怖いもの見たさで、俺はさらにめくる。
そこには俺の学校での生活を捉えたものや、着替えている写真まであった。
「な、なんだよこれ」
俺は写真に夢中なり、扉が閉まる音がするまで背後の存在に気がつかなかった。
「和馬」
いつものように名前を呼ばれるが、振り向くことができない。
「何してるの?」
ようやく振り向くと、風呂上がりで薄着の真琴が俺を見つめている。
「えーっと、これはそのー」
「……見た?」
「み、見たって何を?」
しらを切り、何かの間違いで俺が勘違いしているだけだと心に言い聞かせる。
そんなことあるわけがない。
「見たんだ」
ゆらりと不気味にこちらに近づく真琴に俺は怖くなって一歩下がる。
「だ、だから、何も見てないって」
「じゃあ、なんでそれを持ってるの?」
手元のアルバムを指摘されるが、それでも俺は否定した。
「つ、つい持っただけで、中身は━━」
「まぁ、別にいいんだけどね」
無表情だった真琴は、瞳孔開きながら満面の笑みを浮かべる。
見たことのない姉の表情に動揺した俺は足がもつれ、その場で尻餅をつく。
そして一瞬のうちに真琴が両手を壁につき、俺の逃げ道を塞いだのだった。
「もう隠す必要なんでないんだからさ。やっと……この日をずっと待ちわびてた」
そして現在進行形でピンチの冒頭へと繋がるわけで。
「ま、真琴? どうしたんだよ。今日の真琴、変だぞ」
「変かもね」
「だろ? きっと家事で疲れたんだよ! だからベットに」
寝かしつけようとベットは促そうとしたが、真琴の右手が俺の頬へと添えられた。
「だってしょうがないよね。今まで我慢してたことをやめたら誰だってこうなるわよ」
そしてさらに左手が俺の頬に添えられると、がっしりと固定された。
「だ、大丈夫だから! はぁ、はぁ! お、お姉ちゃんに全部任せて!」
「何をするつもりだこのバカ!」
鼻息を荒くさせて顔を近づけてくる真琴に必死に抵抗。
だが流石は柔道部エース。
男の俺と力勝負で互角。いや、俺が劣勢を強いられてる。
気を抜けば一気にヤられるだろう。
「なんで抵抗するの? あ、わかった! 初めてだから怖いんだね! 大丈夫痛くないから! むしろ痛いのは私の方。いや、その痛みすら愛おしいというか」
「まずは俺と言葉のキャッチボールをしてくれないかな!」
「え? なに? ボール!? やだ下ネタ!? そんなに溜まってるの? しょうがないわね!」
「下ネタじゃないし、なんでそんなに協力的━━ちょ! ズボンに手をかけんな!」
それから攻防すること十分。
ようやく引き剥がし、テーブルを挟んでお互い正座する。
「ふーっ、ふーっ」
ただ今にも真琴の興奮が爆発寸前。
理性があるうちに会話をしなければ。
「まずは、なんでこんなことしたの?」
「和馬が好きだから」
おっふ。ノータイムですか。
「もちろん家族としてだよな」
「もちろん異性としてよ」
んー、そうか……どうしようなこれ。
「えーっとさ、俺と真琴は弟と姉であるわけじゃん? 弟と姉は結婚できないしさ」
「そうね。だから私はこの気持ちを抑え込んだわ。でも、私と和馬は血が繋がってない。つまり子作りしても問題ないというわけ」
「安易に子作りとか言わないでくれる。姉の口から聞きたくなかった」
「なら、セッ━━」
「オーケー、俺が悪かった」
真琴ってこんなはっちゃけるキャラだっけ。
「私だってさ、ちょっとしたやり取りで満足しようとしたわよ。たまに弁当をすり替えてわざと和馬のクラスに取りに行ったりして、あわよくば一緒に食べようとしたり」
前回の違和感の答えがようやくわかった。
あれわざとやってたのか。
「わざとお風呂で鉢合わせしたり」
あれもか!
「たまに和馬のパンツ借りたり」
「ちょっとそれは知らない情報だな」
言われてみれば、たしかに下着が減っていた気がする。
後で返し━━いや、やめよう。
借りたものをどうしたのか知らないが、それを使えるほどの度胸はない。
「でも、和馬と私に血の繋がりがないなんて言われたら、もう気持ちを抑えられないわよ! 私が、どれだけの思いを、抑えてたと思ってるの……」
「真琴…………その手に持った手錠は何に使うつもりですか? …………黙らないで! お願いだから!」
どうやらもう興奮が爆発したようで、手錠を持った真琴が襲いかかる。
間一髪のところで避け、その隙に自室は避難。
近くの棚を動かし、ドアノブが回らないようにする。
「ねぇー和馬ー? 扉を開けてお姉ちゃんとお話ししよ?」
「するか! 俺はもう寝るんだ!」
「寝るには早くない? それにどうせこの後、発散するんでしょ? お姉ちゃんが手伝ってあげるからさ」
何度もドアノブを回す音と扉を何度も連打する音が部屋に響く。
「知ってるんだよ? いつも夜遅くにみんなが寝てる間にそういうことしてるの。まぁ、私は起きて、あんたの部屋盗み聞きしてたんだけど」
性事情を姉に把握されてるとか勘弁してくれ。
「でも、多分全然満足できないわよ? あのドリンク飲んだからさ」
ドリンクって、まさか!
「あれに何入れた!」
「栄養剤、マムシ、スッポンの血、後なんとかポーションってやつをブレンドしたわよ」
「殺す気か! 道理で生臭いと思ったよ!」
くっそ! 今日はやけに暴れん坊将軍だなとは思ったが、そういうことかよ!
「ねぇ、いいじゃない。あんたはスッキリする上で、童貞を卒業できるのよ?」
あ、こいつ、弟と本気でヤるつもりだ。
「そ、それのどこがいいところだ! 別に一人でなんとかなるし! そもそも俺は、ど、童貞じゃないしな!」
自分の心を傷つけてでも吐いた見栄。
ちっぽけな自尊心からの嘘が、どういうことを引き起こすか。
俺は気を向けることができていなかった。
「…………は?」
しばらく沈黙の後、真琴が発した声は聞いたことのないドスがきいたものだった。
「誰としたの?」
「え、あ、えーっと、誰だっけなー」
相手までは考えていなかった。
回答に困っていると、真琴が扉の前で呟く。
「あの子ね」
「へ? あの子?」
真琴には何故か心当たりがあるようだ。
誤解を受けそうな人いたっけなー。
「和馬と同じクラスの子で、白い髪のハーフの子。名前はたしか、高城エリス」
「…………あっ」
そういえばエリスも女だった。
「その反応はやっぱりそうなんだ」
扉を隔てているのに、真琴のプレッシャーが痛いほど伝わってくる。
「ち、違う! エリスとはなんでも!」
「エリス? へー……下の名前で呼ぶほどの仲なのかしら」
やべ、墓穴掘った。
「もう少し早く血が繋がってないことがわかれば、我慢することも身を引くことも必要なかったのに。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
もう俺の声は届かないであろう真琴に怖くなってしまい、俺はベットに横になり、耳栓がわりにイヤホンを取り付け、ガタガタ震えて布団に埋まった。
必死に寝ようとしたが、眠気は一切感じない。
しばらくして顔を覗かせると、カーテンからほのかに光が漏れていた。
どうやら、いつのまにか朝になっていたようだ。
耳栓がわりのイヤホンを外す。
扉からは真琴の声がしない。
流石に自分の部屋に帰ったのだろうか。
いや、もしかしたら廊下で寝落ちしているかもしれない。
幸い朝と言っても、かなり早い時間だ。
窓から降りても、ご近所さんに見られることはないはず。
鍵も持ってるから、玄関から戻るのは問題ない。
俺は決心して、カーテンを開ける。
そしてベランダに立つ真琴と目がバッチリとあった。
「おはよう。いい朝ね」
俺は声にならない叫び声を上げた後、意識を手放した。
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